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《話題の開会式記事全文を無料公開》森・菅・小池の五輪開会式“口利きリスト” 白鵬、海老蔵、後援者…

2021-07-29 | アイヌ民族関連
文春オンライン 2021/07/28 16:00
 開会式をきっかけに、一つの記事が注目を集めている。「週刊文春」2021年4月8日号で報じた五輪開会式を巡る記事に対して、東京五輪組織委員会が発売直後、 異例の発売中止と雑誌の回収 を求めた。そして、迎えた7月23日の開会式。この記事の内容が正確だったことがネット上で話題となり、拡散されたのだ。演出責任者だった振付演出家のMIKIKO氏が電通の代表取締役に排除されなければ、どのような開会式となったのか。MIKIKO氏を悩ませた政治家からの“口利き”…。五輪開会式で何が起きていたのか。
 より多くの読者に知っていただくため、本件記事全文を期間限定で無料公開する(記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のまま)。そして、「週刊文春」は今回新たに台本11冊を入手。7月28日(水)16時公開の「 週刊文春 電子版 」と29日(木)発売の「週刊文春」で、開会式がいかに“崩壊”していったのか、内部資料を基に特報する。
◆ ◆ ◆
MIKIKO氏の頭を悩ませた政治家の“口利きリスト”
 遡ること1年半前の、2019年9月。東京五輪開会式の執行責任者だった演出振付家のMIKIKO氏(43)は、頭を悩ませていた。
「森さんが『マストで』と言っている」
 そう伝えてきたのは、電通ナンバー2の髙田佳夫代表取締役(66)。彼女の脳裏に浮かんだのは、組織委員会の森喜朗会長(当時=83)ら政治家が、開会式に出演させるよう要求してきた“口利きリスト”の面々だ。しかし、思い描く演出案にリストアップされた著名人はどうしても合致しない。安易に受け入れることはできそうになかった――。
 小誌は3月18日発売号で、前責任者の佐々木宏氏(66)がタレントの渡辺直美の容姿を侮辱する演出案を披露していたことなどを報道。3月25日発売号では、MIKIKO氏が、髙田氏によって開会式から“排除”された経緯などを詳しく報じた。
 次々と露呈する開会式の内実。そんな最中の3月26日、それまで沈黙を守っていたMIKIKO氏が公式コメントを発表した。
〈去年の10月、今後について皆様に何もご連絡できていない中で、これ以上お待たせするわけにはいかないと思い悩み、勇気を出して私から電通に問い合わせを入れました。その際、すでに別の演出家がアサインされ、新しい企画をIOCにプレゼン済みだということを知りました〉
 この〈問い合わせ〉こそ、小誌が報じたMIKIKO氏が電通幹部らに送ったメールに他ならない。5月に演出責任者が佐々木氏に交代して以降、電通からの連絡は滞っていた。この間、MIKIKO氏のみならず、総勢約500名に上るスタッフらは放置されたまま。苦悩を深めた彼女は、意を決して電通に訴え出たのだ。
電通や組織委の圧力に屈さず筋を通したMIKIKO氏
 彼女の仕事仲間が語る。
「業界では引く手あまたのMIKIKO氏ですが、彼女の仕事にはCMの振付も少なくない。単純に今後の仕事だけを考えれば、電通に楯突くのは得策ではありません。しかしスタッフやキャストらのために、筋を通すことを選んだのです」
 コメントを出すと知った組織委の武藤敏郎事務総長(77)も、その内容を相当気にしていたという。
「武藤氏は昨年11月9日、MIKIKO氏の辞任届を受け取った人物。会見では『MIKIKOさんから話すのが筋』と語っていましたが、中身が不安だったのでしょう」(組織委関係者)
 それでも電通や組織委の圧力に屈さず、自らの言葉で伝えることを選んだMIKIKO氏。渦中の彼女は、どのような人物なのか。
逃げ恥“恋ダンス”の振り付けも手掛けた
「ダンサー出身で、地元・広島のアクターズスクールの講師をしながら、MAXのバックダンサーをしていた時期もありました。広島のスクールで出会ったのが、小学生だったPerfumeの3人。スクール内ユニットのPerfumeが05年にデビューして人気を博すと、“MIKIKO先生”の愛称で親しまれるようになりました。仕事には真摯で厳しい人ですが、普段は穏やかな女性です」(音楽関係者)
 MIKIKO氏自身も海外に活躍の場を広げ、14年にはレディー・ガガのコンサートにも参加。そんな彼女が16年に手掛けたのが、TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の“恋ダンス”だった。主題歌に乗せ、新垣結衣や星野源らがダンスを踊る姿は、お茶の間の話題をさらう。
「あの振り付けは元々、主題歌のMVでプロのダンサーが踊るために作られたもので、難易度が高いんです。新垣は『ダンスは得意じゃない』と言いつつ、MIKIKO氏の指導ビデオを見ながら自主練に励んでいました」(TBS局員)
 MIKIKO氏が新垣らのために指導用のビデオを撮影したのは、リオデジャネイロ。リオ五輪の閉会式で、日本への引き継ぎセレモニーの演出チームに、彼女も名を連ねていたのだ。
「安倍晋三首相(当時)がマリオに扮したセレモニーは森氏から高い評価を受け、彼女が東京大会の演出チームに参加するきっかけとなった。MIKIKO氏も『リオに関わった人間としての責任がある』と意気込んでいました」(MIKIKO氏の知人)
市川海老蔵の出演は必須…注文の多い森喜朗
 その後、MIKIKO氏は19年6月、五輪の開会式の演出責任者に就任。それからというもの、MIKIKO氏は「五輪が終わったら引退する」と漏らすほど精魂を傾けたという。
 だがMIKIKO氏には企画案を練るにあたり、頭を悩ませたことがあった。冒頭に紹介した政治家たちの介入である。
「中でも注文が多かったのが、森氏。同じマンションで、昵懇の仲の電通ナンバー2の髙田氏を通じ、様々な案件を持ち込んでいったのです」(電通関係者)
 森氏は電通から実質的に400万円の献金を受けるなど、同社と関係が深い。実際、電通を介して持ち込まれた森氏の要望には、錚々たる面々が名を連ねていたという。
「筆頭格は、歌舞伎役者の市川海老蔵(43)です。森氏が彼の出演を必須としていることは、内部の文書にも記録されていました。海老蔵は昨年5月に十三代目市川團十郎を襲名予定だったため、森氏が『襲名祝いにしてやってくれ』と求めていたのです」(同前)
 さらに、横綱・白鵬(36)やX JAPANのYOSHIKI(55)らの名前も挙がっていた。森氏のスポーツ、芸能人脈に連なる人物だ。
「白鵬は父親が64年の東京五輪にレスリングで出場しており、自身も五輪での土俵入りを熱望。実際、森氏も19年1月、白鵬の史上初の幕内1000勝達成を記念する祝賀会に参加し、『五輪の時には何かの役割を担ってもらいたい』と挨拶していました」(同前)
 かたや、YOSHIKIは途中で“リスト”から漏れてしまったようだ。
「YOSHIKIがしつこかったこともあり、『森氏が“アイツはもういい”と断った』と内部では言われていました」(同前
 YOSHIKIの事務所に事実関係を尋ねると、
「本人から依頼した事実はありません。何人かの方々の好意で以前推薦していただいた事があると聞いています。オリパラについては開閉会式を問わず、森喜朗氏と会話レベルで話し合いが行われたことはあるようですが、どこかの時点で意見の相違が生じたと聞いています」
 森氏にも確認を求めたが、
「すでに組織委の会長を辞任しており、内部の議論の一部を述べることは、守秘義務の観点からも適切ではなく、回答は控えます」
五輪への介入に否定的だった菅首相も……
“口利きリスト”には、菅義偉首相(72)も含まれていた。“女性蔑視”発言を巡って森氏の進退が問題になった際は、政府からの独立性を理由に介入に否定的な認識を示していたが、
「官房長官だった菅氏は観光立国の起爆剤として、北海道のアイヌ文化施設『ウポポイ』の開設に力を注いできました。一方で菅氏は沖縄担当相も兼務しており、琉球にも目配りする必要があった。そこで『アイヌと琉球民族を完全に同等の扱いにするように』などと演出内容まで細かく指示していました」(官邸関係者)
 ただ少数民族の出演は、もとより多様性を掲げる五輪のセレモニーに必須だ。「菅氏に言われるまでもなく、MIKIKO氏のチームも当初から大事に考えていた部分でした」(前出・組織委関係者)
 菅首相からは期日までに回答はなかった。
小池都知事「火消しと木遣りを演出に入れて。絶対よ」
 彼らだけではない。森氏や首相と“犬猿の仲”で知られる小池百合子都知事(68)に関しても新たな情報が寄せられた。小池氏は、都庁からの出向者などを通じて組織委側にこんな要望を伝えていたという。
「火消しと木遣りを演出に入れて。絶対よ」
 消防文化の始まりとされる江戸の火消しは「木遣り」という労働歌を掛け声にしていた。こうした文化を盛り込んでほしいというのだ。小池氏周辺が語る。
「火消し団体の総元締めである『江戸消防記念会』はもともと自民系の団体です。ところが、16年に小池氏が自民党を飛び出して都知事選に出馬した際、江戸消防会の一支部が小池氏を支援したのです。“都議会のドン”こと内田茂氏は『この支部の幹部を除名しろ』と激怒したのですが、こうした圧力を撥ね除け、街頭演説でも木遣りを披露して応援した。この恩義を、小池氏は五輪で返そうとしたのではないでしょうか」
 当該支部の会員が語る。
「小池さんは我々の団体を大事にして下さる。それで2、3年前、幹部が『五輪に参加させて下さい』と知事室に陳情に行きました。小池さんは『勿論ですよ!』と言ってくれた。結局、五輪ではなくパラリンピックの閉会式で、聖火がふっと消える瞬間に俺たちが出る予定だと聞いていました」
小池氏は事実関係について書面でこう回答した。

「組織委員会が17年12月に取りまとめた『東京2020大会の開閉会式に関する基本コンセプト』には『日本・東京』の項目があり、『江戸文化の伝統の世界発信』について記載されていると承知している」
五輪憲章にも抵触しかねない
 政治家による著名人や支援者の“口利き”に、問題はないのか。スポーツ史が専門の坂上康博・一橋大学大学院教授が指摘する。
「五輪憲章の根本原則の5では、『スポーツ団体は自律の権利と義務を持つ』と定められています。開会式の演出に政治家が介入し、組織委の自律が損なわれることは、五輪憲章にも抵触しかねません。また、政治家にとって支援団体を出演させることができれば、集票に繋がる。それは五輪の政治利用に他なりません」
 森氏らの動きに、組織委幹部も困惑を隠せなかったという。それでもMIKIKO氏は五輪の理念を念頭に、自らが描く演出の中身を前向きに詰めていった。
IOCも評価していたMIKIKOチームの“幻の開会式案”
 そうして練り上げた開会式の演出案。小誌は、MIKIKO氏のチームが、IOC側にプレゼンした280頁に及ぶ内部資料(昨年4月6日付)を入手した。渡辺直美もYouTubeで「かっこよすぎ」と絶賛した“幻の演出案”である。
 その資料によれば、セレモニーは、会場を1台の赤いバイクが颯爽と駆け抜けるシーンで幕を開ける。漫画家・大友克洋氏が20年東京五輪を“予言”した作品として話題となった『AKIRA』の主人公が乗っているバイクだ。プロジェクションマッピングを駆使し、東京の街が次々と浮かび上がっていく。三浦大知、菅原小春ら世界に名立たるダンサーが花を添え、会場には、大友氏が描き下ろした『20年のネオ東京』が映し出される。
 64年の東京大会を映像で振り返ったのち、「READY?」と合図を送るのは、渡辺直美だ。女性ダンサーたちが、ひとりでに走る光る球と呼吸をあわせて舞う。世界大陸をかたどったステージの間を、各国のアスリートたちが行進。各種競技の紹介は、スーパーマリオなどのキャラクターのCGが盛り上げていく。
 最後に聖火が点されると、花火が開幕を告げる――。
「IOCも『よくここまで作り上げた』と称えていました。ただ、MIKIKO氏はプレゼン直前の3月5日、佐々木氏の侮辱演出案に異論を唱えていた。この間、水面下で事態は動き出していたのです」(電通幹部)
「予算はオリパラ開閉会式で10億円」佐々木氏が明かした“重要証言”
 僅か2カ月半後の5月19日、MIKIKO氏は“黒幕”髙田氏によって排除されてしまう。代わりに責任者となったのが、佐々木氏。彼女の企画案を切り貼りしたりする一方で、
「MIKIKO氏と違って、“口利きリスト”もどんどん引き受けていった。今年2月頃の佐々木体制時代の企画書には、木材を使った五輪マークのまわりを火消しの男性たちが取り囲む図が見られます。海老蔵がステージ上で1人で舞う演出も盛り込まれていました。“政治案件”なども巧みに捌いていく電通出身のクリエイターらしいやり方です」(同前)
 そんな佐々木氏だが、小誌の取材に、ある“重要証言”をしていた。3月6日、佐々木氏に電話をかけたところ、侮辱演出案について反省の弁を述べるとともに、こう明かしていたのだ。
「私が責任者になった当初、現場の人間に『今、どれくらいの予算が残っているのか?』と聞いた。そしたら(オリパラ開閉会式)4式典で10億円だと。延期前までは130億円の予算が計上されており、80億円くらいは残っていると思っていたんですが……。嵐のライブでも10億円はかかると言いますから、これでは厳しい。(組織委は予算を35億円追加したが)演出に使っていい額はそんなにプラスされないんで」
 佐々木氏は責任者を辞任した際の謝罪文でも、残り予算が4式典で10億円だと言及。事実であれば、組織委は120億円をすでに支出していることになる。
「10億円は少し大げさですが、MIKIKO氏の案は完成目前の段階でしたから、資材など含めて多くの費用を支出している。だからこそ、彼女の案を生かすべきだったのですが、佐々木氏の意向で結局、一から企画を作り直すことにしたわけです」(前出・電通幹部)
 10億円問題に関し、武藤氏は会見で「受託会社(電通)が運用している」と回答。電通に尋ねたところ、
「守秘義務契約上、詳細は回答しかねます」
MIKIKO氏からのメール
 度重なる責任者交代、膨れ上がる予算。その過程で起きた政治家の口利き。MIKIKO氏に再び事実確認を求めたところ、メールでこう返答があった。
「公式コメントを出すことができ、自分の中でも区切りがつけられたと思っています。私が喋ることができるのはあのコメントが全てです」
 区切りをつけたMIKIKO氏は今、手掛けるアーティストの仕事や新作の準備を進めているという。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年4月8日号)
https://news.goo.ne.jp/article/bunshun/politics/bunshun-47427.html

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アカデミー賞ペルー代表『名もなき歌』衝撃ドラマに各界コメント到着!

2021-07-29 | 先住民族関連
映画ログプラス 2021/07/28 18:00
小島秀夫、橋口亮輔監督、シシド・カフカら8名が絶賛!
カンヌ国際映画祭2019:監督週間で注目を集め、アカデミー賞2020では国際映画賞・ペルー代表に選ばれた新鋭メリーナ・レオン監督作品『名もなき歌』が7月31日(土)より東京:ユーロスペース他全国順次ロードショーとなります。公開を目前に控え、各界から8名のコメントが到着しました!

ゲームクリエイターの小島秀夫さんは「モノクロのTVサイズに抑制された映像で、貧困と混乱、絶望が現実であることを思い知らされる」、橋口亮輔監督は「新人監督の一作目は、世界に向けた最初の息吹き。 全てのカットに監督の確信を感じて勇気をもらうようだった」、ドラムボーカリスト・女優のシシド ・カフカさんは「終始フォトジェニックな世界観」などそれぞれの語り口で本作を絶賛。
また、ペルー在住のメリーナ・レオン監督から日本の観客に向けてのビデオメッセージも到着しました。本作『名もなき歌』に込めたメッセージや、溝口健二、小津安二郎、黒澤明、そして河瀬直美監督など、これまで影響を受けた日本の映画監督について語られています。
絶賛コメント続々到着!
誰も抗えない、声をあげられない、耳を傾けない。ただ弱者は押し黙り、歌うしかない。モノクロのTVサイズに抑制された映像で、貧困と混乱、絶望が現実であることを思い知らされる。“名もなき子守歌”を聴きながら、ラストで感じる無力感が決して耳から離れない。
小島秀夫 (ゲームクリエイター)
疎外された先住民。公的身分証明書がないため、そこに「いる」のに「いない」とされるが、このような「いない」とされる貧しい人たちを通じて儲けるのは、公職に就く裕福な人たちだ。当時のペルーの通貨はインティ。先住民言語で太陽を意味する。そして、作品冒頭に登場するハサミ踊りは、2010年にユネスコ無形文化遺産に登録された。先住民は、奪われるときだけ、そこに「いる」ものとして包摂される。
兒島 峰 (神奈川大学准教授 ラテンアメリカ研究)
キュアロン『ROMA /ローマ』の圧倒される美しさ、ディアス『立ち去った女』の高尚な静謐さ、あるいはイーストウッド『チェンジリング』の不条理な恐ろしさを想起させる『名もなき歌』。色を失った白黒の世界は、無数の希望が灼けつきた灰塵に見える。そんな世界のなかで、悲劇に見舞われた女とセクシュアリティを抑圧される男が手を取り合う。女性の新人映画作家が紡ぐこの抒情詩を見逃してしまうのは、あまりに惜しい。
児玉美月 (映画執筆家)
終始フォトジェニックな世界観 画角も色彩も限定されている中で、登場人物の時に激しく時に静かに揺れる心情が痛いほど真っ直ぐに伝わってくる
シシド・カフカ (ドラムボーカリスト・女優)
寓話であり、神話であり、悪夢のようである。美しいは残酷。残酷は美しい。白黒の映像がまるで冷たいメスのように心を裂いてくる。まだ明けない朝、窓を開け放ち、冷たい大気を吸い込んで宙に向かって息を吐く。新人監督の一作目は、世界に向けた最初の息吹き。 全てのカットに監督の確信を感じて勇気をもらうようだった。
橋口亮輔 (映画監督)
過去を呼び起こすモノクロームの映像美。盗まれた我が子を探す20才の先住⺠⼥性ヘオルヒナのひたむきな姿。彼⼥を⽀援するゲイの新聞記者。過酷な現実の中で人々が優しさと共感力でつながっていく。⼈種差別、格差、ジェンダー、多様なリアリティが交差する世界を描きだした監督の⼒量に脱帽
細谷広美 (文化人類学者 成蹊大学教授)
実際に起きたペルー先住民の嬰児誘拐事件をモノクロ・スタンダードで描き、ブニュエルの『糧なき土地』の崇高さに達する。世界のどこかにいる我が子のため母が歌う子守歌がアンデスの山に響き、観る者の胸を締めつける。
町山智浩 (映画評論家)
「名もなき歌」とは沈黙によって表現される哀歌である。先住民のヒロインは子を奪われた悲嘆を言葉では一切語らない。彼女に寄り添い、道行きをともにする記者もまたゲイとよばれる少数者だ。それぞれ苦しみを抱えた少数者どうしが「名もなき歌」に共振する時、この世の不条理に対峙する連帯のかたちが仄見える。それは腐敗しきった世界に対して、「別の視点から考えろ」という欺瞞を拒み、悲しむ者の側に立つ静かな闘いである。
真鍋祐子 (東京大学 教授)
■実際に起きた事件を基にした衝撃のドラマ
1988年、政情不安に揺れる南米ペルー。貧しい生活を送る先住民の女性、20才のヘオルヒナは、妊婦に無償医療を提供する財団の存在を知り、首都リマの小さなクリニックを受診する。数日後、陣痛が始まり、再度クリニックを訪れたへオルヒナは、無事女児を出産。しかし、その手に一度も我が子を抱くこともなく院外へ閉め出され、赤ん坊は何者かに奪い去られてしまう。夫と共に警察や裁判所に訴え出るが、有権者番号を持たない夫婦は取り合ってもらえない。新聞社に押しかけ、泣きながら窮状を訴えるヘオルヒナから事情を聞いた記者ペドロは、事件を追って、権力の背後に見え隠れする国際的な乳児売買組織の闇へと足を踏み入れるが―。
■現代社会のさまざまな問題を浮き彫りにした野心作
ペルー出身の女性監督、メリーナ・レオンの長編デビュー作となったこの作品は、かつて新聞記者だったメリーナの父が追った、実際に起きた事件に基づいて作られた。2019年カンヌ映画祭・監督週間で注目を集め、以来世界十数ヶ国の映画祭において作品賞他32部門で受賞。2020年アカデミー賞・国際長編映画部門ではペルー代表に選ばれ、ノミネートは逸したものの、その抑制を利かせた演出スタイル、モノクロ×スタンダードの画面に際立つヴィジュアル・センスは、新たな才能の誕生を実感させる。
赤ん坊を奪われた母親の悲哀と絶望、そして、孤独な新聞記者が内に秘めた苦悩と使命感を描いたこの作品は、貧困と格差、人身売買、民族差別とジェンダー差別、全体主義とテロリズムといった社会問題をも浮き彫りにし、それらが今の時代においても何ら変わっていないことを静かに提示してみせた野心作だ。
メリーナ・レオン監督ビデオメッセージ
公式HP
http://namonaki.arc-films.co.jp/
キャスト
へオルヒナ・コンドリ
パメラ・メンドーサ・アルピ
ペドロ・カンポス
トミー・パラッガ
レオ・キスぺ
ルシオ・ロハス
イサ
マイコル・エルナンデス
映画『名もなき歌』作品情報
監督: メリーナ・レオン
脚本: メリーナ・レオン、マイケル・J・ホワイト
製作: インティ・ブリオネス、メリーナ・レオン、マイケル・J・ホワイト
共同製作: ローランド・トレド、ラファエル・アルヴァレス、パトリック・ベンコモ、アンドレアス・ロアルド、ダン・ウェクスラー、ハマル・ツェイナル=ツァデ
撮影監督: インティ・ブリオネス
編集: メリーナ・レオン、マヌエル・バウアー、アントリン・プリエト
音楽: パウチ・ササキ
音響デザイン: パブロ・リヴァス
制作:ラ・ヴィダ・ミスマ・フィルムズ
共同制作:ラ・ムーラ・プロドゥクシオネス、MGC、ボード・カドレ・フィルムズ
提携制作:トーチ・フィルムズ
2019年/ペルー、スペイン、アメリカ合作/スペイン語、ケチュア語/モノクロ/スタンダード/5.1ch/ 上映時間:97 分
日本語字幕:比嘉世津子
配給:シマフィルム アーク・フィルムズ インターフィルム
後援:ペルー共和国大使館
ⓒLuxbox-Cancion Sin Nombre
2021年7月31日(土)東京:ユーロスペース他全国順次ロードショー
https://news.goo.ne.jp/article/eiga_log/entertainment/eiga_log-86321.html

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吉本隆明、「山の神」、土偶―荻原眞子『いのちの原点「ウマイ」』(藤原書店)、竹倉史人『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』(晶文社)―鹿島 茂による読書日記

2021-07-29 | アイヌ民族関連
オールレビュース 7/28(水) 12:40
◆吉本隆明、「山の神」、土偶
◇×月×日
吉本隆明の『共同幻想論』の読み直しを始めて早三年。吉本は事実認識のレベルでの誤りはあっても、最も根源的なところでは「ほぼ正解」を出している気がするが、その吉本が「対幻想論」でこんな大胆な仮説を披露している。すなわち、狩猟採集と初期農耕の時代には人間と植物の再生産・生成過程は同一視され、対幻想は子を産む女性に集中されていたがゆえに共同幻想と対幻想も同一視されていた。しかし、穀物栽培導入に伴って、植物と人間の再生産・生成過程が「ちがう」と認識されると、共同幻想と対幻想との「ちがい」も意識化され、対幻想そのものが時間性の根源になったのだ、と。これをパラフレーズすると、穀物農耕開始以前にはセックスと出産が論理的に結びついていなかったので、人間と植物の再生産・生成過程は同一視されていたが、本格農耕開始で同一視が破れたことにより、初めてセックスと出産が結びつき、対幻想そのものが独自の時間性をもつ幻想へと変化したということになる。本当かしら? にわかには信じられない仮説だが、吉本の詩人的直感は侮れないので、実証的に検証してみなければならない。
ということで手に取ったのが荻原眞子『いのちの原点「ウマイ」――シベリア狩猟民文化の生命観』(藤原書店 二六〇〇円+税)。十七世紀、モンゴルの軛(くびき)を断ち切って民族的自立を果たしたロシアはコサックを先頭に毛皮を求めてシベリア進出を試み、ついでピョートル大帝のもと大規模な学術探検隊が組織されたが、探検隊はシベリア各地でウラル・アルタイ語系の狩猟採集民の諸民族と出会い、綿密な民族誌を残した。日本の人類学は戦前こそ満蒙進出に伴ってシベリア民族研究を企てたが、戦後はアメリカ人類学や構造人類学の影響か一転して興味を失い、ロシアの図書館や大学に残された膨大な民族誌が研究されることはなかった。上智でロシア語を習得し、東大大学院で文化人類学を学んだ著者はモスクワ留学中にこれら民族誌と遭遇し、以後、アイヌ文化との関連を意識しつつ、シベリア狩猟民の生命観を中心に研究を行ってきた。本書はその集大成である。
アルタイ語系の一部であるトゥングース語系の民族では霊魂が自然と動物の身体の間を循環することで生命が生まれると考えられているが、子供の霊魂も同じであり、山や樹木などの大地母神から女性の体に降りてくるとされる。シャマンとはこの霊魂の仲立ちができる人で、媒介として鳥や動物などの補助霊の力を借りる。またこうした生命観で特権的なのが山岳で、柳田国男が日本で見つけた「山の神」信仰はシベリアに遍在する。アルタイ地方の父系氏族の狩猟民においては他の氏族から嫁入りしてきた女性は聖山儀礼には参加できないというタブーがある。ゆえに聖山は男性神と思われるが、いっぽう、トゥングース系、南シベリアや内モンゴル、中央ユーラシアの民族には語源的には女性器や母胎を意味するウマイ、ウメ、オメ、ウマという言葉があり、出産と子供の生育を見守る母神として信仰されている。このウマイは鳥や樹木や山から生命の源として降りてくる山の神でもある。そうなると、柳田国男が提起した「山の神」が女神である謎も解ける。すなわち、日本列島に先史時代に渡来した狩猟民の遠い祖先の一部はこうした「山の神」としての母神ウマイを信仰していた南シベリアや内モンゴルや中央ユーラシアの人々だったのである。
“稲作と稲作文化の拡がりによって、山という自然界が狩猟民の世界であったことが遠い過去に押しやられ、山の女神はいつしか忘れ去られてしまった。大地が田畑として開墾され、田の神は刈り入れがすむと『山へ帰って山の神』となり、正月にはまた田に降りるという、田の神の不可解な行状(?)の依って来たった遠因はここにある。”
シベリアの民族誌の再発見により、日本人の起源に新しい光を当てた労作である。
◇×月×日
豊饒神である山の神がウマイだとすると、穀物農耕以前の対幻想はセックスを伴わない出産のみだったとする吉本説はかなり有力になったが、これを補強するように思われる新刊が竹倉史人『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』(晶文社 一七〇〇円+税)。著者が冒頭で触れているように、土偶の謎は邪馬台国論争と並び、素人の参入を許すホットな話題で、土偶の謎を解いたという人はたくさん現れるが、土偶が具体的に何を表象しているのかという最も肝心な問題はいまだ未解決のままである。しかるに、著者はこう宣言する。「そこで私は宣言したい。――ついに土偶の正体を解明しました、と。結論から言おう。土偶は縄文人の姿をかたどっているのでも、妊娠女性でも地母神でもない。〈植物〉の姿をかたどっているのである。それもただの植物ではない。縄文人の生命を育んでいた主要な食用植物たちが土偶のモチーフに選ばれている」。といっても、その食用植物には、縄文人にとって「採集」すべき植物と認識されたということで、種明かしすれば、「水のある森」であるところの海で採集された貝類も含まれる。肝心なのは、土偶はデフォルメでも抽象でもなく、目の前にある食べ物、すなわち、縄文人が採集していた本格農耕以前の食べ物をそのまま写し取ったものであるにもかかわらず、その食べ物に手足がついていたのでだれも気づかなかったという点である。着想のもとになったのは、「縄文人においては植物利用にともなう儀礼が行われていたことは間違いないのであるが、なぜか縄文遺跡からは植物霊祭祀が継続的に行われた痕跡がまったくといっていいほど発見されていないのである。一方、それとは対照的に、動物霊の祭祀を行ったと思われる痕跡は多数見つかっている」。ということはなにを意味するか? 植物霊祭祀の痕跡は見つかっているのに、「われわれがそれに気づいていないだけ」なのではないか? そう、土偶が植物霊祭祀の痕跡だったのである。
だが、推論は的を射ているとしても、問題はどうやってこれを証明するかだ。著者が採用したのはイコノロジー的方法(つまり形象の類似)と考古学的な統計データによる方法である。つまり、土偶と似ている縄文時代の食用植物を考古学的に探索することである。具体的に見てみよう。まず「ハート形土偶」だが、著者はこれをイコノロジー的に分析したあと、長野の山中で見つけたオニグルミの殻を二つに割った形象ではないかと当たりをつける。事実、縄文遺跡におけるオニグルミとハート形土偶の出土分布はぴったりと重なっている。しかし、一つの例だけでは帰納はできない。かくて合掌土偶と中空土偶の検証に入り、イコノロジー的考察からクリの実ではないかと推定され、考古学的にも合格が出されるが、まだこれでもサンプルが足りない。そこで今度は頭部が三角形の椎塚土偶が何に似ているか調べることになるが、該当するような植物が見つからない。そこで現地に出掛けて「縄文脳インストール作戦」を敢行したところ近くに貝塚があり、「椎塚土偶はハマグリをかたどった土偶だった」と判明する。貝もまた縄文人にとっては採集すべき植物だったのである。この調子で同定作業が進み、ついには土偶の華である遮光器土偶はサトイモの形象であったと結論される。
考古学者からの反論が予想されるが、私には「ほぼ正解」のように思える。ひとことでいえば偉大なる発見なのである。しかし、本書は設定した三つのテーマ「①土偶は何をかたどっているのか(what)②なぜ造られたのか(why)③どのように使われたのか(how)」のうち①しか答えていない。吉本説の検証には②とりわけ土偶の多くが女性的特徴をもっている理由の解明が必要である。次作が待ち遠しい。
◆【関連オンラインイベント】2021年7月28日 (水) 20:00 - 21:30 竹倉 史人 × 鹿島 茂、竹倉 史人『土偶を読む』を読む
書評アーカイブサイト・ALL REVIEWSのファンクラブ「ALL REVIEWS 友の会」の特典対談番組「月刊ALL REVIEWS」、第31回はゲストに人類学者の竹倉 史人さんをお迎えし、竹倉 史人さん『土偶を読む』(晶文社)を読み解きます。 メインパーソナリティーは鹿島茂さん。
https://peatix.com/event/2076154/view
[書き手] 鹿島 茂
フランス文学者。元明治大学教授。専門は19世紀フランス文学。
1949年、横浜市生まれ。1973年東京大学仏文科卒業。1978年同大学大学院人文科学研究科博士課程単位習得満期退学。元明治大学国際日本学部教授。
『職業別パリ風俗』で読売文学賞評論・伝記賞を受賞するなど数多くの受賞歴がある。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。新刊に『日本が生んだ偉大なる経営イノベーター 小林一三』(中央公論新社)、『フランス史』(講談社)などがある。
Twitter:@_kashimashigeru
週刊文春 2021年7月29日号掲載
鹿島 茂
https://news.yahoo.co.jp/articles/99cd2f8f7b51356e428366a89cbd793475029563

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これはマネロン用なのか、エルサルバドルがビットコインを「通貨」に追加

2021-07-29 | 先住民族関連
現代ビジネス 7/29(木) 5:02配信
迷走、エルサルバドルの通貨の歴史
 九州の半分ぐらいの大きさで、人口650万人強の中米の小国エルサルバドルが、ビットコインを通貨(法定通貨)とするというニュースが流れた。世界でビットコインを始めとした暗号資産(仮想通貨)に注目が集まった。
 事実を確認しながら、解説すると、日本もそうであるが、通常の国では「通貨法」でその国の通貨を規定する。しかし、今回は、追加的に「ビットコイン法」という法律を作り、6月8日に議会で可決された。エルサルバドルでは90日以内に施行しなければならず、ほぼギリギリの9月7日(火曜日)が指定されたというわけである。
 中南米諸国の通貨政策は専門家から見ても非常に興味深い、放漫財政・インフレーション・通貨危機は日常茶飯事で、さらに、通貨を米ドルにしてしまうドル化(ダラライゼーション)も、パナマ、エクアドル、エルサルバドルの他、数か国で導入されている。
 エルサルバドルの通貨の歴史を見てみよう。なお、通貨名に、サルバドール○○と出てくるのは、そもそもの国名がEl Salvador (英語ではThe Savior)であるからで、elは定冠詞、salvadorはそもそもの意味では「救世主」の意味であった。
 エルサルバドルの先住民族はカカオを通貨として使用した。スペインの植民地となった後、1830年に独立し、その当時は「マカコ」(Macaco)という通貨を非公式に使用していた。その後、1856年マカコは法定通貨となった。
 さらにその後、1877年に「サルバドール・レアル」(Real:もともとの意味はRoyal)、1883年、「サルバドール・ペソ」(Peso:もともとの意味は天秤/計量)となった。レアルもペソもスペイン系の国々でよく見かける名前である。
 1892年には、米国大陸を発見した“コロンブス”に因んで「サルバドール・コロン」(Colon)となり現在に至っている。
 これらの何回も行われている通貨の変更は、実際には、インフレによって金額表示が大きくなりすぎたときに、通貨単位を切り下げていく、いわゆる「デノミ」(デノミネーション)を行っていたのである。体質的に高インフレに悩む中南米には必要な経済政策と考えられる。
 エルサルバドルは1992年に内戦が終結し、2001年に統合通貨法が施行され、コロンに「加え」米ドルも通貨とした。その後、「実質的」に米ドルが流通していくことになった。現在では、コロンはほとんど見なくなった。
 そして、今年6月5日、この原稿がアップされるころには40歳になっているナジブ・ブケレ大統領はビットコインを通貨に加えることを表明した。通貨法の改正ではなく、新しい追加的な法律として「ビットコイン法」を国会へ提出し、8日に議会で可決された。今後、電子財布「CHIVO」(チボ:おしゃれの意味) が配布され30ドル分のビットコインが配布される。
金融不毛地帯にフィンテックは栄える
 いわゆる「フィンテック」が急拡大した背景を考察するうえで重要なことは、銀行口座保有と携帯電話普及の差である。エルサルバドルも、携帯電話普及率:150%、銀行口座保有率:30%となっている。世界的に携帯電話の契約をするよりも、銀行口座は作るのが困難であるということがある。フィンテックはこの差を埋めることを狙った技術と極言することもできる。
さらに、エルサルバドルは国の経済としても、フィリピン以上に出稼ぎ労働者の国内への送金に支えられており、海外送金はGDPの20%(フィリピンは10%)となっている。その時に、国をまたぐ海外送金の手数料はどの国でも結構な金額がかかる。ビットコインを3つ目の通貨に加えるというのも、送金手数料の引下げに他ならない。
 送金手数料が引き下がることによって、より多くの海外送金が、エルサルバドルに集まり、GDPも拡大する効果があるという、立派な経済政策なのである。
 もちろんこの手のフィンテックの導入は、国民の金融教育、いわゆる「金融包摂」にも資するとしている。
エルサルバドルのビットコインは「通貨」ではない
 日本では、暗号資産(仮想通貨)は資金決済法で規定されている。筆者は資金決済法の制定に最大限の協力をしてきた経験があり、条文として、(改正) 資金決済法では、暗号資産(仮想通貨)の定義では「本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建て資産を除く」とあるが、この条文を変更する必要あるのではと、確認したところ、当局からは条文変更はしなくてよいとの正式回答があった。
 当局からの回答は、暗号資産(仮想通貨)は外国通貨には当たらない、とのことであった。それは、エルサルバドルのビットコイン法で「ビットコインを必ずしも受け入れなくても良い」との規定があるからとした。
 確かに、経済学における「通貨」の定義として、「いつ何時も受け入れなければならない」(強制強要力)ということがある。つまり日本の当局はそこを根拠として、エルサルバドルのビットコインをそもそも通貨ではなく、一つの仮想通貨に過ぎないとした。
 しかし、ビットコインは何といってもマネーロンダリング(マネロン:資金洗浄)の問題を抱えている。世界的にマネロンに対峙していこうとする動きに、明らかに逆行する動きである。さらにエルサルバドルは治安がそれほど良くない国だ。
 そもそも、仮想通貨のリスクは、「消滅リスク」「価格乱高下」「犯罪に利用」「環境負荷」と幅広く、かつ大きい。国民の生活・経済が安定するとは考えられない。金融では安全性が大事である。米ドルとビットコインの併存になるが、結局は、日本の当局の判断の如く、米ドルが主流のままで行くであろう。
 もっとも、ブケレ大統領の今回決定の功績は、経済や社会に対するものではなく、エルサルバドルに一時的にせよ世界中の注目を集められたことに尽きると思う。
宿輪 純一(博士(経済学)・帝京大学経済学部教授)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f5695c1cc23ae882edda847adc60e692bd054778

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