再度「グーグルの二枚舌」について。米国IT企業が中国政府の要求を受け入れネット検閲に手を貸した問題が尾を引いている。議会や市民団体の厳しい非難を受け、ヤフーは13日米中政府間で協議して決めてくれと放り投げたと報じられている。私は報道に関わる資格のない規律に欠けた姿勢であると指摘したい。
検索エンジンの巨大ビジネス化
検索エンジンは誠に便利で世界中のウェブサイトから瞬時に求める情報を調べてくれる。パソコンをネットに繋ぐだけで誰でも情報を手に入れることが可能な革新的な道具を提供した。従来に比べ情報アクセスが格段に公平になったといえる。
特にグーグルは卓越した技術で次々と画期的なサービスを打ち出し、検索エンジンのシェアは50%、2位ヤフーの25%を大きく引き離している。IPO以来株価はうなぎ上りで、遂にインテルの株価価値を超えマイクロソフトに次ぐ巨大企業になった。
検索エンジンはメディアか
しかし、検索エンジンは情報を生み出してはいない。あくまで他人が創造した情報を拾い集めてくれる道具である。検索エンジンは革新的なビジネスモデルを実現し、従来の新聞・テレビ等のメディアを圧倒するビジネス規模になった。その結果、報道機関など情報を創造する側の効率化(リストラ)を迫り、読者に提供する記事の内容に影響を与え始めた。(具体的なデータは無いが、職を失ったプロの記者のブログが増えているという説がある)
本来、報道のあるべき姿とか言論の自由という視点から言うと、検索エンジンは水道管のように情報を流す透明な存在であるべきである。検索エンジンが情報を検閲し選別するなら、報道機関が守るべき規律を遵守することが求められる。仮にワシントン・ポスト紙が検閲を求められてビジネスのため経営陣が同意したとしたら、読者は離反し記者は抗議・退社が相次ぐだろう。(新聞社にはそういうことは起こらないという信頼が読者との間に確立されている。)
IT会社の基準は利益のみか
技術的には検索エンジンが記事を検閲し読者に提供するかどうか決めることが可能になった。しかし、検索エンジンを提供するIT会社は報道機関に求められる規律が無く、その判断基準は利益最大化のみである。グーグルは‘Don’t be evil.’という他のIT企業とは異なる理想を掲げて起業したが、結局他のグローバルIT企業と同じであると今回証明したと見做されている。
検索エンジンのビジネスモデルには新聞社などのメディアに求められる規律が必要無いように見える。だとすれば、歯止めは別の価値観・規律を求める議会や人権団体しかなさそうである。実際のところマイクロソフトやヤフーが中国でやったことはグーグル以上に酷いが、グーグルの悪いことはしないという‘純白’のイメージが損なわれた影響は容易に回復できないかもしれない。
歯止めはメディアが果たせ
内外の新聞社は検索エンジンの閲覧を拒否もしくは有料化する動きがあるのはこのような背景がある。しかし、これはこれで諸刃の剣になる可能性があると私は指摘しておきたい。寧ろメディアは将来更にIT企業との関連が高まると考え、情報を扱う者としての規律を求めて行くべきである。決して対岸の火事ではない。
ビル・ゲイツが世界一の金持ちになった時、金儲けだけで社会貢献しないつまらない男という批判に応え、その後巨額の私財を投じて世界に貢献し夫妻でタイム誌の2005年の人に選ばれた。グーグルの創設者にも同様のことを期待したい。
万里の長城とアリの一穴
中国政府は多くの矛盾を抱える国内事情に対応するため昨年頃から情報統制の強化が目立っている。小泉首相の靖国参拝・歴史認識に端を発した反日暴動は中国政府の暗黙の支持のもとインターネットで組織化し予想以上の広がりを見た。この時中国政府はインターネットの威力を思い知り、一層の検閲強化をすると決意したといえよう。
しかし、検索エンジンで検閲すれば情報統制すれば何とかなると思ったら大間違い、インターネットはそれ程甘くない。先週号のタイム誌によれば北京当局がひた隠しに隠したSARS勃発は中国人医者達の告発メールで暴露されたという。3万人いるという検閲官といえども、検閲を潜り抜ける情報交換は止めることは難しいと報じている。■
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