かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録09夏

2009-08-30 17:26:52 | 本と雑誌

今夏の読書の中では、昨年9月のリーマンショック以降何かと引用されることの多い、ガルブレイスの「バブルの物語」の一読を薦めたい。気楽に読める小論文だが、タイムリーなテーマでバブルの本質を指摘しており、今回の世界大不況にも当てはまると思う。

ビッグネームに対する私の先入観もあるかもしれないが、その他に読んだ関連する書物の中でもガイブレイスの著作は格の違いのようなものを感じる。今回読んだその他の著作は基本的にデータの基づく論理を展開しており、決して読む価値が無い訳ではないが、概して異なる意見を聞いてみたくなる内容だ。

次に分野は異なるが、2つの佳作「ルネサンスとは何であったか」(塩野七生)、「日本人の心のゆくえ」(河合隼雄)の読書を薦めたい。前者は中世からルネサンスへの変遷の意味を政治経済の文脈から文芸復興を解説し、後者は90年代半ばに起こった事件を解きほぐし母性社会であるが故の日本社会の特性を説いたもの。私の視野を広げ新たな世界を見せてくれた。

(2.0+)スティグリッツ教授の経済教室 2007 ダイヤモンド社 2003年から5年間の小論文を集めたもので、WTO/IMFとブッシュ政権を徹底的に非難している。最後に住宅バブル崩壊の本質は見抜いていたが、それが翌年世界大恐慌にまで進展するとまでは予測してない。

2.0日本のお金持ち研究 橘木俊詔・森剛志 2005 日本経済新聞 前回紹介した「新世代富裕層の研究」が定義した富裕層(金融資産1億円以上)より上のお金持ち、年収1億円以上の人達を様々な角度から見て分析したもの。従来お金持ちといえば開業医とオーナー経営者だったが、まさにそのイメージ通りの人達が出てくる。予想通り弁護士や大企業経営者が含まれてない。

2.0+データで示す日本の大転換 大武健一郎 2005 かんき出版 元主税局長の著者がデータを下に人口構成の変化が引き起こす日本の構造変化を分析、将来を予測したもの。著者が予測する2040年後の「人口逆ボーナス」の世界は陰惨でさえあるが、そう間違ってないと感じる。データに語らせる狙いは成功している。単純にデータ引用の為の本として大変参考になる。

2.0-家計の改革と日本経済 八代尚弘・鈴木玲子 2005 日本経済新聞 家計はまだバブル経済の行動様式から脱していない。低成長時代にあった生活を改革すれば豊かに暮らせる、と説く。市場経済を基本に格差の構造的要因、年金の世代間格差解消や税・年金一体徴収など合理的で筋の通った提案で、ジニ係数などかつて恣意的にミスリードした格差拡大のデータを論理的に解明している。

2.0+規制緩和という悪夢 内橋克人とグループ2001 1995 文芸春秋 著者の主張は「規制緩和は悪」というのか、「その光と影の部分を明らかにして影の手当てをしっかりやれ」と言うのか、イマイチ明確でない。現状の格差拡大から構造改革の批判が見られ、大変参考になる。悲惨で感情的になる実例を挙げて非難するが、世界の中での日本の全体像抜きの議論に終始。

(2.0)先見力のつけ方 高橋進 2004 徳間書店 ITバブルから立ち直り景気回復に向かい始めた頃に、50のアジェンダについて考え方を解説したもの。小泉改革が進行中に書かれ世界同時不況の前の状態だが、的をついた指摘が多くそれ程見直す必要はない。しかし、我が国は著者の言う通りにやりそうもないという、何故か失望感のようなものを感じる。

2.0-世界恐慌 米山秀隆 2002 ダイヤモンド社 9.11直後に書かれITバブル破裂が世界恐慌になると警告したもの。予測は外れたが、その6年後に勃発した世界同時不況をITバブルと置き替えると、今日語られている原因がかなり当てはまる。普遍性のある教訓とまでは行かなくても、頭を柔軟にして読めば中々面白い。

3.0-)バブルの物語 JKガルブレイス 1991 ダイヤモンド社 日本のバブルが弾けた直後に書かれたもので、歴史上の投機・楽観・崩壊に共通する愚かさを、ユーモアを交えて警告したもの。小論文であるがゆえに余分な解説がなく的確で、今回の大暴落にも共通点を見出せる。暴落直前の金融の天才、短期間の記憶、まともな反省がされない等など、ワサビの利いた読み物。

2.0-金融市場の勝者 高田・柴崎 2007 東洋経済 世界同時信用不安直前の日本の当事者たちが何を考えていたか伺い知るという1点から本書の価値がある。金融の論理で考え右肩上がりの発想で、リスク領域に展開する為に金融技術を駆使した商品や管理技術が求められ、一方で米国の後追いしか出来なかった当時の雰囲気が充満している。

1.5小沢一郎政権奪取論 2006 五百旗頭真・伊藤元重・薬師寺克行 朝日新聞 湾岸戦争、新党結成と細川政権誕生・崩壊まで、常に政界の中心にいた小沢氏がインタビューに答え、本音と建前を吐露したもの。都合の悪いところで率直に本音を吐いているようで、実は巧妙に自己弁護しているように私には感じる。

2.0-デモクラシーの帝国 藤原帰一 2002 岩波新書 冷戦後の唯一の超大国としての米国が、9.11後「帝国」に変化していく様を、ハリウッド映画が示す社会通念に当てはめて解説している。著者は帝国の代替として国連の再構築を主張。米国にのみ焦点をあて、帝国から利益を得る世界と北朝鮮等の「ならず者」をどう扱うべきか殆ど議論されてないのは片手落ちと感じる。

2.0-喋るアメリカ人聴く日本人 ハル・ヤマダ 2003 成甲書房 日米両国のネイティブである筆者の比較文化論を、主にビジネス会議でのすれ違いの経験を元に、米国人を「講師型」日本人を「聴衆型」と型に入れて説いている。私には著者は日本語を話せる米国人のように感じる。日本人の関係性を「甘え」と決め付けるのは一方的だし、米国生活で私が最優先した「フェア」の言葉が全く出てこないのは不思議だ。会議での上下関係は、心当たりあり、失敗したかもと思う。

2.5+ルネサンスとは何であったのか 塩野七生 2008 新潮文庫 中世にルネサンスの端緒を開いた意外な二人を取り上げた後、フィレンツェ・ローマ・ヴェネツィアのルネサンス文化の特徴を芸術だけでなく政治経済と宗教など多面的に解説した入門書。歴史上の人物を生き生きと描き出し天然色の読み物にしている、と三浦雅士氏は著者の魅力を指摘している。加えて、歴史上の珠玉の言葉がさりげなく、しかし的を射た使い方をされるのが塩野ファンになった所以だ。

2.5日本人の心のゆくえ 河合隼雄 1998 岩波書店 阪神大震災やオーム事件が起こった95年から3年間、折に触れて日本人の心理を分析、そのありようと変遷を評論したもので、私のような門外漢には中々面白い。日本が母性社会で、それが危機管理型リーダーを潰し、創造性の高い人間を上手に壊す力がある、ここの責任を明確にせず物事を全体で受け止める傾向がある等など、今も続く問題が的確に指摘されている。

2.0愛国者の条件 半藤一利・戸高一成 2006 ダイヤモンド社 安倍内閣発足して愛国教育を推進した時、当事者の歴史の無知や感覚のなさに危機感を持って著された(と思う)。明治から昭和にかけて、陸海軍の出自から来る差、海軍の世界感覚とその構造的劣化の過程、日本国民や新聞の特性と問題などの指摘が興味深い、同時に今日の問題を連想させる。

1.5+文章力 北岡俊明 1999 総合法令 読み進むと、本書は朝日新聞を悪文の権化、産経新聞を名文の宝庫と誇示するものだと気が付く。私から見ると朝日の一国民主主義も産経の太平洋戦争肯定も同意できない。しかし、イデオロギー色を除き、例文から新聞社名を外して文章を技術論にすれば、参考になる部分がある。そういう読み方もある。

この3ヶ月は総選挙を控えた政治の季節だった。100年に一度という世界同時不況下での選挙戦がどうなるか見守ったが、データを根拠にしない感情的な議論ばかりが注目された。政治は民度の表れというが、テレビだけを見て投票する人がどの程度いるのか気になる。

その中で今回読んだ本は数年前に書かれたものが多いが、選挙の争点の理解を助ける具体的データがあったように感じる。テレビ討論や解説を見聞きして彼らは何故そういうのだろうと怪訝に思われた方に、関連する書物やせめて新聞を読み比べることを薦めたい。■

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