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境に落ちっていた米国自動車産業ビッグ3の一角クライスラーが、民事再生法(チャプター11)の適用を申請したニュースを、早朝まだ布団の中で聞いた。それを受けて株式市場は、ダウ平均は小幅に下げ(-17.6㌦)NASDAQは上昇(+5.4㌦)と冷静に反応した。
昨夜(米国では朝方)は直近の失業保険申請が予想より少なかった為100㌦以上も上昇していた。破綻処理のニュースの影響はダウ平均マイナス100㌦ということか。今年初め頃はGM、クライスラーの破産は部品メーカーや販売店等の裾野産業に大打撃を与え、米国から自動車産業が無くなるというような悲観的な見方があったのに、様変わりだ。
その理由は、当局が組合・債権者・部品メーカー等のステークホールダーに厳しい条件を飲ませ、破綻後の再生のフィージビリティを事前調整した、謂わば計画的な「護送船団的倒産」だったからと考えられる。商品力・開発力を見てはじめから単独再建はない、問題はどういう手順で落としどころに持っていくか、がオバマ政権の基本方針だったようだ。
破産させた後もフィアットの提携と政府の資金支援を続けるという、救済に批判的な世論を配慮した巧妙な落としどころだった。だが仕組を作っても生き残れるかどうかは又別の話である。最後はフィアットの小型車を含めたタマが売れるかどうかだ。オバマ政権はどうなろうと「軟着陸できれば良し」と考えている節がある。
この「計画倒産」で、誰が笑い、誰が泣いたか、市場の反応から推測してみた。
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ォードは安堵感から高笑い、GMは明日は我が身と身構え、組合は世間の厳しい目に身をすくめ、小口債権者は徹底抗戦、大手金融機関はダメージ・ミニマム・モードといったところか。確かなのは、救済劇の主役は自動車産業と思っていたが、オバマ政権の演出で動かされていた。更に補足すると、クライスラーの破産はフォードの「生き残り感」が現実かもしれないと思わせるようになったことか。
「他人の不幸は蜜の味」というが、今高らかに笑っているのはフォードだろう。2ヶ月前にはたった1㌦まで下がった株価が、昨日ほぼ6㌦まで暴騰した。GMとクライスラーの危機が伝えられ救済の繋ぎ資金が注入された頃から、フォード・ディーラーの店頭を訪れる顧客が増え始めたと報じられていた。15%前後国内シェアが増えたと見られている。
一方、昨日のGMの株価は微増、1.92㌦に留まったのが、同社の微妙な立場を表していた。今月末までに債務交換や組合員の医療費を株式で返済する等のリストラ策をちゃんとやらないと破綻させる、という強烈なプレッシャーが経営・債権者の両方にかかることになる。
最後まで抵抗した一部の債権者はヘッジファンドや個人投資家、年金組合などの機関投資家で、大手金融機関はクライスラーに融資しておらず昨日の株価は殆ど動かなかった。だが、GMはそうはいかない。シティやJPモルガン等の大手金融機関やヘッジファンドが巨額の投資をしているおり、債務不履行となれば深刻な影響がでると予想する。オバマ政権は、クライスラーとは異なる落としどころを決めていると推測する。
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り返ってみると、2006年のムラリー氏がボーイング社からフォード会長に就任して2ヶ月以内に、会社の資産を担保にして$23.6B(2.4兆円)のローンを組んだのが、今日のGMとクライスラーの混迷とフォードを隔てる決定的な分岐点となった。
2006年といえばまだ住宅バブルが弾ける前で、氏の決断は当時評価されたとはいえなかった。ボーイング社での経験が危機に対する備えとして流動性を確保する決断をさせたという。この先フォードが生き残れば、酷評に動じず信じることを実行したリーダーとして人々の記憶に残るだろう。
現実に戻れば、フォードは昨年売り上げが20%減少、$14.6Bのキャッシュを使い果たし、今年の1-3月も昨年同期比43%減少した。フォードのキャッシュポジションは、このまま自動車販売の低迷が続くと後1年分しかないと見られている。
フォードが生き残る為には、今後の自動車販売市場回復と中型セダン・トーラス等の新車の売れ行きにかかっている。最近のAutoPacific社の調査では、72%が政府支援を受けて無いフォードの車を買うと答え、ショールームの来客数が増えているという。■