60年ぶりの大逆転
緒戦のアイオワ州予備選を落とし、直前に実施されたニューハンプシャー州の世論調査でも、対抗馬とされたオバマに2桁リードされた本命のヒラリー・クリントンが、蓋を開けると逆転した。ヒラリー陣営の誰もが2連敗を覚悟していた。
こんなに世論調査が外れた例は聞いたことが無い。経験豊かな米国の世論調査会社3社とも見事に外した。1948年現職のトルーマン大統領が負けるという予想を外して以来の大失態だという。一体何が起こったのかその後の報道や分析を注目してきた。
「涙」は女性の武器?
最初は表面的だけれど「涙」が急遽女性票を掘り起こしたという説だ。投票直前の懇談会で「冷たいヒラリー」が涙を浮かべたシーンが流され、危険な賭けは成功した。「人間味のあるヒラリー」と見直されたようだ。しかし、後から説明するように、「涙」も冷静で計算された選挙戦術だった可能性がある。
この大逆転劇について多くのメディアが更に突っ込んで分析している。タイム誌によるとアイオワ州の敗北とニューハンプシャー州の状況を分析し、勝負の決め手は女性票と判断、選挙前日に4000人のボランティアを動員し州内の105,000軒を戸別訪問させ、一夜にして情勢を逆転したという。その立役者は34歳の選挙参謀ニック・クレモンズ氏だったという。
そんなこと有得るのか。次元は違うけど、まるで母から聞いた何十年も前の田舎の議会選挙の噂話みたいだ。ある地区は一夜にして支持する候補者が転ぶ(変わる)、1票当たり幾らだから合計幾らで何票になる、みたいな話だ。もちろん今回買収があった訳ではないだろうが。
主役はジェネレーションY
ビジネスウィーク誌によると決定的な役割を果たしたのはベビーブーマーの子供達で「ジェネレ-ションY」といわれる20代の若者だと分析している。以前にも書いたことがあるがこの世代は父親より稼ぎが少なく、前世代まで当たり前に享受してきた医療保険や社会保険、条件のいい雇用が劣化し手に入りにくい社会で生きている。
父親がITバブル崩壊や粉飾決算で失業し年金を失うのを見、テロとの戦いや地球温暖化などで未来に対する不安がこの世代の世界観になっているという。彼等は出世の機会よりも充実した福利厚生を望んでいる。これら18―29歳の若者は米国有権者の2割の4300万人おり、彼らが今回の予備選の結果を左右してきた同誌は説明している。
この若者は前回の2004年選挙の投票より25%も増えたという。明らかに彼等の政治的影響力が高まった。少子高齢化社会で日本の若者は人口が少ないうえに無関心層が多く、政治が問題先送りして彼らに借金を残しても、立ち上がって政治を変えさせられないのと対照的だ。このデモグラフィーの違いは今後政治に更に大きな影響を与えるだろう。
敗者は世論調査会社
事前予測に乗って得々と情勢分析した政治評論家諸氏は酷く恥をかいた。しかし、最もショックを受けたのはオバマ候補や評論家よりもギャラップ社など世論調査会社だった。世論調査の信頼度が疑われては彼等の存在価値は無い。ニューズウィーク誌(1/30)は一因としてアイオワ州の余韻が残っているうちに短期間(5日)に次の選挙に入りオバマ氏有利の事前予測が出たと説明している。
一方で、当日投票対象をきめた有権者が通常5%なのに対し今回18%もあり、その多くはクリントンに投票したと報じている。もう一つは日本でよく言われるアナウンス効果で、世論調査を見てオバマ支持者は投票に行くのを止め、ヒラリー支持者は投票を動機付けられたというものである。タイム誌は最初の出口調査ではオバマ有利だったというが、結果が出る前に公表されたのだろうか。
予測が外れた理由はともあれニューハンプシャー州はヒラリーにとっては前半のターニングポイントとなった。痛手を受けた米国世論調査協会は予備選における世論調査方法について調べる委員会を設置したとニューズウィークは報じている。■