北国の地平線の彼方に連なる山並に日が落ちる荘厳な絵巻には及ばないが、屏風のように立ちはだかる北アルプスの夕暮れ、中でも春の夕暮れは好きだ。
微風が梅の香りを運んでくる。
薄い茜色の空と、蒼く雪をいただく山並、暮れなずむ街に瞬く灯。
ここがまだ村と呼ばれた頃、村の鎮守の祭りは、曜日に関係なく4月9日10日と決まっていた。
学校は休みで、家には親戚縁者が集まった。その日が子供心に待ち遠しくて仕方がなかった。
春の暮色の中に一抹の寂しさを感じ取るのは、待ちに待った村祭りが終わったあの頃の、夕暮れの寂寥感が今でも鬱積しているからかもしれない。