或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

国境の南、太陽の西

2013-11-06 05:28:13 | 010 書籍
およそ1年半振りの読書ネタ。これはいけませんね、本を読まないというのは。なんだか最近自分が完全にネット人間になっているような気がして。というか完全になっているけど。どうも日常生活に忙殺されて、読書する雰囲気に自分を持っていくことができないでいる。たまたま今回は、ゴルフのせいか風邪ぎみになり、家で夜の早い時間から横になり、暇ができたから。

書斎に入り、積んである書籍を隅から隅まで眺めていて目に止まったのが、村上春樹の「国境の南、太陽の西」(1992年)。なんだかとても懐かしくて。かつて彼の小説をむさぼり読んだなと。この小説は、なんかタイトルが冒険小説っぽくて、長編で読むのに時間がかかりそうということで避けていたような。だけど、あまり期待しないで読んだ割には、なかなか面白かった。

物語は現実的でもあり、非現実的でもある、まさに村上のいつもの世界。主人公が、うだつのあがらないサラリーマンを8年やり、30歳でジャズバーの経営者に転身して成功するという辺りからぐっと気持ちが引き寄せられて。BMWに乗り、青山のマンションに住み、妻と二人の娘と幸せに過ごしていながら、どこかその幸せに浸りきれないでいる。同じ世代の匂いを強く感じて。

絡んでくる2人の女。イズミと島本さん。彼女達のプロフィールを全て明かさないところが、物語全体を霧に包まれたようなミステリアスな世界に導いてくれている。ラスト近くでは、少し哲学的な世界に変化していく。そして最後に出てくる主人公の言葉。いや、素晴らしい。久しぶりに自分自身を振り返る、そしてこれからの人生を改めてみつめ直すトリガーを与えてもらったなと。

「僕はこれまでの人生で、いつもなんとか別な人間になろうとしていたような気がする。僕はいつもどこか新しい場所に行って、新しい生活を手に入れて、そこで新しい人格を身に付けようとしていたように思う。...僕は違う自分になることによって、それまでの自分が抱えていた何かから解放されたいと思っていたんだ。...でも結局のところ、僕はどこにもたどり着けなかったんだと思う。僕はどこまでいっても僕でしかなかった。僕が抱えていた欠落は、どこまでいってもあいかわらず同じ欠落でしかなかった。...その欠落そのものが僕自身だからだよ。」

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿