或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

東京奇譚集

2007-02-26 06:25:35 | 010 書籍
たまたま図書館でみつけて、久しぶりに読んだ村上春樹の最近の作品、「東京奇譚集」(2005年)。コピーによれば、奇譚というのは不思議な、あやしい、ありそうにない話という意味。はやい話がタモリのTV番組「世にも奇妙な物語」の小説版。まあ遠くない。中には短篇が5編。

全体にシンプルな抽象画のような気品とイマジネーションが漂っている。いいですね。彼も年を取って枯れてきたのかなあ。文章がとても読みやすく、自然に別世界に入っていける。オトナの小説。ある意味で彼の新境地かも。最初の4編はどれも気に入ったけど最後の“品川猿”でガックリ。この本のための書きおろしで期待していたのに。話の構成も文体も別人のよう。

それで面白かったのが登場人物の女性描写。彼は男の視点で特徴を説明してくれる。例えば最初の“偶然の旅人”では、郊外に住んでいる40歳前後で二人の子持ちの妻を、「小柄で・・・、身体のくびれているべき部分にいくらか肉がつきはじめていた。胸が大きく、人好きのする顔立ち・・・」、“どこであれそれが見つかりそうな場所で”では、高層ビルの36階に住んでいる35歳の妻を、「筋の通ったきれいな鼻だった・・・それほど遠くない昔に整形手術を・・・ストッキングに包まれた脚は美しく、黒のハイヒールがよく似合っていた。そのかかとは致死的な凶器のようにとがっている」、なんて感じ。

なんか人妻専門の出会い系サイトでも見ている気分になったような。なんて失礼ですね。でもそれが全体の中でいいアクセントになっている。日常の中で普通にありそうで、でも絶対になさそうな。男の妄想をさりげなく掻き立てる描写が上手い。

たまたま“奇譚”つながり?で、津原泰水の「綺譚集」(2004年)をその前に読んでいたけど、これがかなりのキワもの。最初の”天使解体”からしてグロのてんこ盛り。彼ってなんか特別な幼児体験でもしているのかなあ。だめなんですよ、こういうの。中には”ドービニーの庭”のように面白いのもあるんだけど。その意味では、村上のこの作品は良い口直しになりました。

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