
(承前)
3月14日のシリーズの続きです。前回の更新から間隔が開いて、申し訳ありません。
山下圭介さんは香川県生まれ。奈良県の教員大学に進んで美術を学び、現在は北海道教育大岩見沢校で彫刻を教えています。
3月に北翔大学札幌円山キャンパスで開かれた「Work In Progress 12」展では、アトリエを再現したような展示をしていました。
胆振管内白老町で開催中の個展では、昨年の「Work In Progress」展でも展開していた、「Be my rain.」に着目しました(冒頭画像)。
会場には80の矩形のパーツが並んでいますが、これを一つずつ販売したのち、再展示の際には作者まで送ってもらうか、あるいは山下さんが所有者のところまで取りに行き、再展示が終わると作者が作品を「積層処理」して、所有者のもとへ送り返すーという手続きを繰り返すのだそうです。
「積層処理」というのは、おそらく、表面を削って色を塗り直すのだと思います。
この過程は、作品の完成というものを宙づりにするとともに、作者とコレクターとの関係を更新していくという意味があります。
現代アートの世界で定着した感のある「関係性の美学」を、シンプルな形態ではありますが、模索し実践しているということができるのではないでしょうか。
今回の木彫は、削っては、アクリル絵の具で着彩を施すという行為を繰り返すうちに、下地に塗った色と上からの色が重なってグラデーションが生じる、という手法による作品。
色の重なりは偶然ですが、そこに、半ば行き当たりばったりで北海道で美術を教えることになった自分の来し方を重ね、生というものの偶然性をも重ね合わせているようです。
<小さな出会いや、偶発的な出来事の一つ一つが今の自分を作っているのだと思います。>
という作者のことばが、なるほどとうなずけます。
さまざまな着彩が施された木彫は「layered animals」と名付けられています。
クマやキツネなど、北海道らしい動物が中心。
すこし太った鳥は、日本海に浮かぶ天売・焼尻島にすみ、絶滅危惧種とされているオロロン鳥でしょうか。
キノコのように見える4点は「growth time」と題されています。
さて、とくにいまの若い人にいいたいのですが、小さいころからの夢をそのまま実現できる人はごく少数だし、実現できなかったらといって恥じる必要なんてまったくないと思います。
「画家になりたかったけど、彫刻家になった」
「ミュージシャンが夢だったが、配送業のかたわらライブハウスに通ってる」
「イラストレーター志望だったけれども、営業職も向いていると思った会社で、社内報づくりに携わることになり、イラストの腕を生かして高く評価された」
とか、いろんな人がいて、それでいいんじゃないですかね。
その時その時で、自分にできることをすればいい。
なんなら、べつに夢なんてもたなくてもいいです。
人生は偶然の要因がかならずあり、それをなげいても仕方ないことが多いです。
だったら、その偶然を楽しんだほうがいいですよね。
…なんてことを、色とりどりの木彫を見ながら思っていました。
2025年3月1日(土)~4月6日(日)午前11時(初日午後1時)~午後5時、月火水曜休み
brew gallery (胆振管内白老町大町3)
山下さんのInstagram : @keisuke.yamashita.79
X : @Bambinastruke
過去の関連記事へのリンク
■フィギュールの森 (9) 2022 北翔大学北方圏学術情報センター プロジェクト研究美術グループ成果報告作品展
■フィギュールの森 Work in Progress 北翔大学北方圏学術情報センタープロジェクト研究 美術グループ成果報告作品展 (2021)
・JR白老駅から約260メートル、徒歩3分
3月14日のシリーズの続きです。前回の更新から間隔が開いて、申し訳ありません。
山下圭介さんは香川県生まれ。奈良県の教員大学に進んで美術を学び、現在は北海道教育大岩見沢校で彫刻を教えています。
3月に北翔大学札幌円山キャンパスで開かれた「Work In Progress 12」展では、アトリエを再現したような展示をしていました。
胆振管内白老町で開催中の個展では、昨年の「Work In Progress」展でも展開していた、「Be my rain.」に着目しました(冒頭画像)。
会場には80の矩形のパーツが並んでいますが、これを一つずつ販売したのち、再展示の際には作者まで送ってもらうか、あるいは山下さんが所有者のところまで取りに行き、再展示が終わると作者が作品を「積層処理」して、所有者のもとへ送り返すーという手続きを繰り返すのだそうです。
「積層処理」というのは、おそらく、表面を削って色を塗り直すのだと思います。

この過程は、作品の完成というものを宙づりにするとともに、作者とコレクターとの関係を更新していくという意味があります。
現代アートの世界で定着した感のある「関係性の美学」を、シンプルな形態ではありますが、模索し実践しているということができるのではないでしょうか。

色の重なりは偶然ですが、そこに、半ば行き当たりばったりで北海道で美術を教えることになった自分の来し方を重ね、生というものの偶然性をも重ね合わせているようです。
<小さな出会いや、偶発的な出来事の一つ一つが今の自分を作っているのだと思います。>
という作者のことばが、なるほどとうなずけます。

クマやキツネなど、北海道らしい動物が中心。
すこし太った鳥は、日本海に浮かぶ天売・焼尻島にすみ、絶滅危惧種とされているオロロン鳥でしょうか。
キノコのように見える4点は「growth time」と題されています。

さて、とくにいまの若い人にいいたいのですが、小さいころからの夢をそのまま実現できる人はごく少数だし、実現できなかったらといって恥じる必要なんてまったくないと思います。
「画家になりたかったけど、彫刻家になった」
「ミュージシャンが夢だったが、配送業のかたわらライブハウスに通ってる」
「イラストレーター志望だったけれども、営業職も向いていると思った会社で、社内報づくりに携わることになり、イラストの腕を生かして高く評価された」
とか、いろんな人がいて、それでいいんじゃないですかね。
その時その時で、自分にできることをすればいい。
なんなら、べつに夢なんてもたなくてもいいです。
人生は偶然の要因がかならずあり、それをなげいても仕方ないことが多いです。
だったら、その偶然を楽しんだほうがいいですよね。
…なんてことを、色とりどりの木彫を見ながら思っていました。
2025年3月1日(土)~4月6日(日)午前11時(初日午後1時)~午後5時、月火水曜休み
brew gallery (胆振管内白老町大町3)
山下さんのInstagram : @keisuke.yamashita.79
X : @Bambinastruke
過去の関連記事へのリンク
■フィギュールの森 (9) 2022 北翔大学北方圏学術情報センター プロジェクト研究美術グループ成果報告作品展
■フィギュールの森 Work in Progress 北翔大学北方圏学術情報センタープロジェクト研究 美術グループ成果報告作品展 (2021)
・JR白老駅から約260メートル、徒歩3分
(この項続く)