北海道美術ネット別館

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■移住の子 進藤冬華ーChild of Settlers Fuyuka Shindo (2019年7月20日~8月25日、札幌)

2019年08月25日 14時01分38秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 進藤冬華(1975~)は、札幌国際芸術祭2014や黄金町バザール2015などに参加した現代アートの作家(江別在住)。中堅どころとして高橋喜代史と双璧をなす存在であり、彼とおなじ時期に個展を開催しているというのが、なんとも素晴らしいと思うのだが、ここで「北海道美術ネット別館」として大いに反省しなくてはならないのは、過去のこのブログを検索しても、彼女の作品についてきちんと論じたテキストが全く出てこないのだ。
 いや、そんな人ごとみたいな言葉遣いは良くないですね。ちゃんと書いてないんだな、自分が。
 これは深く反省しなくてはいけない。すみません。

 北海道を拠点として、北海道についてリサーチベース(調査が基)の発表を続けているユニークな作家であることは間違いない。
 まず、フライヤーや、モエレ沼公園のサイトにある文章を引いておこう。

 進藤冬華は、北海道を拠点として活躍するアーティストです。世界各地を訪れ、伝統的な工芸や人々の暮らし、歴史をリサーチして制作する進藤は、歴史・文化と自らの接点をすくい出し、ユニークな方法で相対化することで、「世界」と「私」の関係性をあぶりだしていきます。

本展では、明治期の北海道開拓顧問ホーレス・ケプロン(1804 – 1885年)が活躍した「約150年前の北海道」と「現在の北海道」を行き来した思考の道筋が作品化されます。ケプロンが北海道にいた5年間、そののちに「開拓史」として整えられた歴史。そこから零れ落ちる事象を想像し、制作した作品は、与えられた歴史と対峙するひとりの人間としての抵抗の形であるともいえます。時に愛らしく、時に暴力的に、わたしたちの過去と今を思いもかけない方法で照らす、一風変わった体験ができる展覧会となることでしょう。


 続いて、作者のことば。

私はこれまで自分が暮らす北海道に関わる作品を多く制作してきました。それは、ここがどういう場所なのかという疑問からはじまっています。今回の展覧会では初期の北海道開拓やお雇い外国人、ホーレス・ケプロンに関わるリサーチを基に制作した作品群を発表します。この何年か続けてきたプロジェクトの成果発表であるとともに、私にとって節目となる展覧会であると感じています。 北海道の歴史を眺めたとき北海道開拓は大きな変化をもたらした出来事であり、それは現在の私たちの暮らしにも影響を与えています。こうした地方の歴史は自ら目を向けることで、はじめて見えてくる事も多く、日本の中にも様々な歴史の層があることを気づかせてくれます。 今回の制作を通じ、歴史には解釈の余地が多くあり、それをどう理解していくのかは歴史を見ている者に委ねられていると感じました。あなたはどう思うのか?その判断からどう行動するのか?と、問いを突きつけられているような気持ちになります。 私はこの問いを、この展覧会を見る人々、そしてこの開拓の歴史を共有する現在に生きる人々、世界各地で似たような歴史を持つ場所に生きる人々、そしてこれから先に生まれて生きていく人々に、投げかけてみたいと思っています。




 長々と引いたのは、彼女の作品がこういう前提条件を抜きにして理解することが非常に難しいと思われるためである。
 この点については、おなじ時期に個展を開いていた高橋喜代史の作品が、すっと入りやすいのと正反対という印象が否めない。むろん、どっちが良い悪い、という問題ではないが。
 ただ、個人的には、正面のイラストのところにあった長文のテキストを前にして
「ここまで説明が必要なのか」
と思ってしまったことも事実である。イラストがシンプルなものだっただけに。

 観光政策的にはクラーク博士ばかりがクローズアップされているようなきらいがあるが、実際に北海道開拓使のお雇い外国人としてはケプロンとダンは非常に重要な人物である。
 ケプロンが北海道滞在時に残した日記からの抜粋が、大きな本の形式になって、進藤さんの日記とセットになって展示されていた。露骨なまでの、日本人に対する上から目線など、いろいろ興味深いが、読んでいるうちに、彼女の作品がおもしろいのか、あるいはケプロンの日記がおもしろいだけなのか、わからなくなってくる。

 非常に興味深かったのは、奥の壁に投影された映像作品と、その手前左側の壁に貼られた写真。
 映像だと思わずに、両方を一瞥して同一の画像だと思って立ち去る観客が多いことに驚いたのだが、庭を上から撮影したこの作品は動画であり、中央の文字が
「大地」
になったり
「土地」
になったりするのである。
 そのたびに、コンクリートブロックや園芸道具の位置が微妙に変わっていく。
 情緒(フロンティアスピリッツとか)があれこれ染みついた
「大地」
という語が
「土地」
に変わるだけで、いろいろなものが急に浮上し、露呈してくるように感じられる。
 たとえば、開拓使と米国のお雇い外国人という二項の間からこぼれ落ちるアイヌ民族の存在。そもそも「大地」は、アイヌ民族の「土地」ではなかったのか。
 19世紀後半の米国で土地の公有化を主張し、ロシアの文豪トルストイをはじめ幅広く影響を与えながら、現在はすっかり忘れられている政治家・思想家ヘンリー・ジョージの存在なども思い出される。

 「列強による世界分割」は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて一気に進む世界史的な現象だけれど、実はそれはまさに自分たちの足下でも起きていたことだと、あらためて知るだけで、そういう公式な教科書的な言葉ではすくい取れない、生々しくリアルな問題を、私たちは感じ取る必要があるのだと思う。


2019年7月20日(土)~8月25日(日)午前9時~午後5時
モエレ沼公園 ガラスのピラミッド2階 スペース2(札幌市東区モエレ沼公園)

https://www.shindofuyuka.com

進藤冬華「砂丘と波」(2002年)=3月10日の項
リレーレクチャー4000万キロ報告展(2001年)=リンク先の2項目め




・地下鉄東豊線「環状通東駅」(H04)で中央バス「東69 あいの里教育大駅行き」か「東79 中沼小学校通行き」に乗り継ぎ「モエレ沼公園東口」降車。約840メートル、徒歩11分

・バスセンター、JR苗穂駅から中央バス「東6 モエレ沼公園行き」に乗り終点で降車。約530メートル、徒歩7分
2019年4月27日~11月4日の土曜日・日曜日・祝日(7月16日~8月16日は毎日運行)

・地下鉄南北線「麻生駅」(N01)、同東豊線「栄町駅」(H01)で中央バス「麻26 モエレ沼公園行き」に乗り継ぎ、終点で降車。約530メートル、徒歩7分
2019年4月27日~11月4日の土曜日・日曜日・祝日(7月16日~8月16日は毎日運行)


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