勝福寺 Gikoohの日替わり法話

山寺の住職、Gikoohが日々感じたことを綴っております。
(プロフィール用の落款は天野こうゆう僧正さま彫刻)

伝統工芸品(木工芸)の話を

2023-06-27 22:32:08 | Weblog

これは食籠(じきろう)といって、作者は岡山県の木工芸家、故・林鶴山。主菓子(生菓子)を人数分盛り込んで出すための蓋付きの器をいう。サイズは、W250㎜×八角 / H150mm。八本の稜線が頂で一つになる光景に神秘ささえ感じる。

因みに本作品の正式名称は「欅拭漆八角食籠」(けやきふきうるしはっかくじきろう)。樹齢は500年前後。欅の塊から刳り抜いて彫られ、20回以上もの拭漆が施されている。なぜこんなに美しいかというと、約500年という年輪の内奥から滲み出る上品さを、鶴山氏の卓越した職人技によって見事に道具として引き立たせているから。

茶の湯の世界に限らずとも、日々の生活の場面において、こんな道具があると心が豊かになり、その場の空気が一気に上品になる。上品とは品格のある様をいうが、美の世界を楽しむためには、知識や見識もある程度は有利かも知れないが、むしろ人間としての教養と感性が合致しなければ成り立たないだろう。

近年、我が国においても専ら欧米スタイルの生活が主流となり、畳の上で生活する人が少なくなった。新たに建築される住宅には床の間も和室も神棚も仏壇もほぼなく、文化を大事にする生活は悉く淘汰される傾向にある。床の間がなければ、掛軸も生花も香炉もなく、神棚や仏壇がなければ、神仏や先祖、或いは親に対する畏敬の念さえ薄れるというもの。

昔は、美の世界や文化に対する教養人が多くて文化的な生活をする人を文人(ぶんじん)といった。しかし、現代は生活スタイルが一変して、和の文化や工芸品に関心を示す人が少なくなったことに一抹の寂しさを感じる。

北大路魯山人の「器は料理の着物」という有名な言葉があるけれど、例えば生菓子も器が上品であれば、生菓子がただの生菓子でなくなり神々しく映るようになる。

Gikoohの日替わりブログをご覧いただいているのも何かの縁。今回は伝統工芸品から話を展開したけれど、工芸品までいかなくても部屋に花を一輪生けたりするだけでも心は豊かになるもの。Weekdayは時間に追われて難しいかも知れないけれど、週末は例えばスマホから離れて文化的な生活をお勧めしたい。

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