宇野全智「禅と生きる」山川出版社 2017年刊
長男の大学時代の同級生が本を書いたといって、送ってきた。彼の大学時代から顔見知りで、実家の山形のお寺にも寄せて貰っことがある。宗派は曹洞宗で、彼のお父さんの指導で座禅を組んだり、山菜や酒をごちそうになったり、村おこしの手打ちそばの店に連れて行ってもらったりした。
お互いの息子の結婚式に出席したりしたが、彼は至極落ち着いた好青年であった。同級生を奥さんにして卒業後、駒沢大学の総合研究センターに勤務している。東北大震災の後、今こそ宗教の出番なのに日本の宗教は役割を果たしていない、喝を入れねばと、研究センターの同級生と議論をしたことがあった。彼を入れて4人来た中で、一番マトモで宗教家らしかったのが彼であった。
そんな彼の書いた本なので大した期待はしていなかったが呼んでみて唸った。禅の入門書として実にわかりやすいし的を得ている気がする。
よく言う座禅の無の境地についても、食事の時の心得なども、目を開かせてくれるような解説である。その他、日常の生活に基づいた姿勢を教えている。しかもそれが「絶対に得心させるぞ」といった意気込みは感じさせない。
例えば、イスラム教やキリスト教は神を唯一とし絶対視する。対して仏教は真理すら相対的なものとし、あらゆるものを包含する。この融通性、柔軟性こそ宗教の本来持つべき寛容性ではないかと思うのだが、こんなことをわかりやすく日常の生活の中になぞらえて説いている。しかも決して抹香臭くなくすんなり胸に落ちる。
中々の好書である。お薦めできる一冊だ。