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ブータンの行き来はインドのデリー経由だった。その短い滞在時間を利用して、市内のガンジー記念館に行った。
有名なインド門を経て、着いたそこは森のなかに建つ(現在の政府高官の宿舎に比べても)案外質素な建物だった。
入り口右手に「真実は神だ」の言葉が掲げてある。ガンジーは下層階級の生まれだった。ものすごい秀才であり数々のカーストの壁を越えて国の要職につくようになった。しかしそうなっても、質素な暮らし向きは変わらずシンプルな生活をしていた。職務の傍ら、綿糸を紡ぎ、田畑を耕す。彼の主張と生き方は世界の人に共鳴された。ガイドによれば彼は「世界の父」だというが、マザー・テレサと併せるとインドは世界の両親を持つことになるのか?
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彼は自分の思想、主張をシンプルな言葉で表す。「神は見えないが確かに存在し、あらゆるもの浸透し動かす。故に真実は神である」。もう一つ彼の非暴力主義或いは無抵抗主義も「暴力は自殺行為だ」という短い言葉で表している。記念館には彼が暗殺に倒れた時の衣服が保持されているが、背中の側にはっきりとした血の痕がひろがっている。ガイドによれば暗殺者もその行為の直前に2000頁に亘る文章を残しているそうだ。
彼は暗殺者にも愛されていたのだろうか。古くはフィリピンのマルコス・イメルダ、ルーマニアのチャウシェスク、最近ではウクライナのヤヌコビッチ、中国高官などの、豪奢な生活が記憶に蘇るが、失脚したリーダーにはかけらも見られない自身の質素な生活は、洋の東西を問わずリーダーの求心力の源なのだろうか。
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帰途、クラクションがけたたましく鳴る交通渋滞、街中の喧騒、高級住宅と貧しい街角の混在に少々げんなりした。インドはブータンよりはるかにGDPの大きな国なのだが、強烈に貧しさを感じる。大多数の貧困の上に立つ富裕層のいるインド。全体は豊かではないが、平穏で穏やかなブータン。どちらがいいのだろう。しかしこんなインドでも70年前にはガンジーのような質素な生き方をした人が求心力を持っていたのだと変な感慨を覚える。
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この国の人は世界の富裕層100人のうち35人も名を連ねている。しかし9億人の他の国民には貧しい人が多い。立派な官舎を見ると役人は相変わらず優遇されているようだ。だが、ガンジー、ネール以来世界の尊敬を集めている人は出ているのだろうか。
ちなみにインド人は日本をイギリスからの独立に手を貸してくれたとして、概ね好感を持っているようだ。