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漆の実のみのる国

2011-05-04 12:04:38 | 雑感

東北 米沢藩主 上杉鷹山を描いた、藤沢周平の遺作とも言うべき作品。
史実をよく辿っているが、単なる記録の羅列にとどまらず、小説としても面白い。

鷹山はケネディ大統領、及び彼を尊敬するクリントン大統領が、尊敬する日本人
の一人に挙げたということで再認識された人である。藤沢周平全集24巻で読ん
だ。

米沢藩は越後上杉謙信の120万石を継いだ上杉景勝が関ヶ原の戦いの後、家康
に30万石に減封され、さらに後継ぎを定めるついて不手際があり、またその半
分の16万石にされる。しかし格式と家臣の数は殆どそのままの国を受け継いだ。
収入が1/9になっても支出はほぼそのままというとてつもない状況に陥った藩の
家臣とリーダーが藩の窮乏と戦う生き方を描いた物語である。

鷹山のことは、童門冬二の小説で読み、リーダーシップのあり方について感激し
たことはあるが、この藤沢版のほうがはリアリテイがある。単なる藩財政の成功
物語ではなく、果てしない窮乏との戦いの様子を描いたものである。
この状況を読むと、現在の日本の財政などはまだ良い方だと思えてくるほどだ。

当時の窮乏している藩の状況、そのなかで、良くはやっているが、抜本的な改革
はできず、ずるずると悪化の一途をたどる鷹山の義父政権。改革派が時の宰相を
断罪し政権交代を図り、改革を始める。徹底的な倹約で基礎財政を改善し更に、
前途に希望の持てる産業改善策を行う。その段階で、またも守旧派との争いが起
きる。そこで上訴に対し鷹山は事実の確認を慎重に行った上事情を聴取し、事実
を確認の上、守旧派を処分する。その後も処分した家の救済、義父に対する孝行、
更に改革を進めた宰相が、藩規を犯して失脚する事態が発生し、共に改革を進め
てきた朋輩も辞職する。天災、幕府の御用出金、など現実にあっただろうと思わ
れる事態も絡み、複雑な経緯が描かれている。しかし果てしのない藩財政窮乏化
との戦いは続く。遺作というだけあって、最後の方はやや描き足りない部分もあ
るが、徳川末期に向かう空気を反映した、名作と言える。

なによりも、現在の政治家が心がけるべき、トップのあり方、官僚の使い方がえ
がかれている。それだけではない。経営者が見習うべき点も多いのではないか。
社会、組織の動き方をよく掴んでいる藤沢ならではの重厚な作品である。痛快な
も筋立てではないが、考えさせられることの多い小説だ。