mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

静かな甲州不老山と権現山

2015-12-08 10:26:57 | 日記
 
  朝6時5分、Hさん宅に車をつける。玄関口にすでに荷物を置き、Hさんと奥さんが待っている。奥さんは私に「よろしく」と挨拶をしてご亭主の見送り。昨12月7日、上野原市の甲東不老山824mを経て権現山1312mへ足を運んだ。予報よりも天気は良く、青空が広がって、風もなく陽ざしが明るい。naviに指定した地点は桑久保の神社の所、番地。みごとにすぐ近くの空き地に案内してくれる。すでにランド・クルーザーが1台とまっている。先行登山者のものだろうか。
 
 8時、歩き始める。すぐに登山道に入り、急斜面を登る。Hさんは、私より5歳年上、若いころからの山屋さん。山へ同行するのは心臓不安を抱える奥さん。だからペースも歩行時間も、むかしのようにはいかない、機会があったら誘ってくださいと言われていたので、声を掛けた。私もたいてい単独行だが、誰かが一緒の方が安心ではある。まして山の達者となら、いっそう安心できる。
 
 Hさんに先を歩いてもらう。彼はよくしゃべる。たいていは山の話。ふむふむと聞いているだけで疲れを忘れる。若いころの登り方とどう変わって来たか、用具がどれほどよくなってきたか、年を取ることによって歩き方をどう変えてきたか。30年ほど前に知り合ってからも、一緒に山を歩いたことは海外登山の2度ほどしかないが、共に見知った山仲間は何人もいるから話題には事欠かない。
 
 ペースが遅いかと聞く。そんなことは気にしないでゆっくり行ってください、コースタイムとのずれはピッチを切るごとに伝えますから、と応じる。彼はストックを使う。私もストックは持参しているが、登りのときには極力使わない。バランス・トレーニングのためだし、今日はスピードを上げる必要もない。その違いが齢の違いだと、彼は断じる。でもそれに気づいているかどうかが決定的ではないか、と私は思う。
 
 1時間で甲東不老山に着く。コースタイムは1時間20分だから、ふだん私が単独で登るときのペースと変わらない。彼もちょっと自信を回復したようだ。富士山が朝日を浴びて白い山体を輝かせている。いつも山からみる西側寄りの富士山と違って、宝永火口の盛り上がりがくっきりと見える。私のカメラは故障して目下修理中だから、目にとどめるだけ。Hさんはスマホを出してちゃかちゃかとシャッターを押している。
 
 そこからしばらくは少しばかりのアップダウンを繰り返す稜線歩き。南側斜面の紅葉はすでに盛りを過ぎ、北側斜面はヒノキの林になる。下枝がたくさん枯れて付いたまま、手入れはされていない。高指山911mを越え、ゴウド山987mを通過し、ポンと舗装林道に出る。新和見峠。ゴウド山も標識がなかったのか、巻道で山頂を踏まなかったのか、地図の目安になっただけで、気づかずに通り過ぎてしまった。ここから雨降山(あふりやま)への急登になる。
 
 ところがそろそろかというところで、「雨降山近道→」という標識が目に止まる。登山道は、雨降山と権現山の中間点に向かっているようだ。ならば雨降山は帰りによればいいということにして、トラバース道をゆっくりと登る。地理院地図には記されていない。標高1200mで稜線部に出る。標識はない。西へと進み、11時20分に権現山の広い山頂に着いた。むろん富士山は見える。不老山からよりも視界が広く大きく見えるが、太陽が高く上に上がっているから、全体がまぶしくコントラストのある鮮やかさが見られない。南東には丹沢の山並み、北側には三頭山や御前山など奥多摩の山々が峰を連ねている。風もなく穏やか。ベンチ代わりに置かれている丸太に腰掛け、お昼にする。食べ終わるころには富士山にも雲がかかってくる。気圧が不安定のようだ。Hさんの高度計は1300m地点でピピッと音が鳴るようにしてあるそうだが、お昼を過ごしている間に何回かピピッ、ピピッと鳴っていた。この山頂の気圧が1300m前後を昇降しているのだ。
 
 11時50分、帰路に就く。山頂直下に神社の社がある。はじめ小さな避難小屋かと思ったほど、掘立小屋にみえた。暗い中にはなにやら「説明書き」があり、Hさんが近寄って読んでくれる。なんでも犬のお使いがやってきて福をもたらすということが記されており、それを祀ったという。そういえば三峰神社も狛犬ではなく山犬(狼)ではなかったかとHさん。それにしてもこの山深いところにおいてあるのはどうしてなのか。
 
 稜線を30分ほど歩き、雨降山をエスケープした合流点に着く。そのまま直進し雨降山に向かう。二つ方向の下山路分岐の標識があるが、私たちがすすむ「近道」への進入路は記されていない。パラボラアンテナの「施設→」を回り込んでみるが、行き止まりのように見える。少し引き返し、踏み跡のしっかりした登山路に踏み込む。山頂はまだ先だとみたのだ。すすむが、標高は少しずつ下りになり、気がつくと雨降山の標高点1177mより50mも降っている。それに、南へ下るはずだのに、東へ向かっているように見える。間違えているとみて、引き返す。引き返していると草原の隅に標識がある。見ると私たちが下っていた道が東の用竹へにルートと分かる。となると90度ずれたところに……と、施設を回り込むと端の方に何か記した方向標示がある。近づくと「不老山近道→」とある。これだ。30分のロス。
 
 その「近道」はほとんどだれも歩いていないかのように、落ち葉が降り積もり、道が隠れている。急な斜面にしつらえられたゴム製の階段も、落ち葉の下。Hさんは要領よく踏み跡らしきところをたどってどんどん下る。ひょいとトラバース道に合流する。そこからしばらくはヒノキの樹林の間を下る。道はくねくねと曲がっているが、Hさんはストックを使ってショートカットして直進する。時間をロスしたのが悔しいのかもしれない。振り返って権現山を眺めると、大きな山体の斜面が日差しを浴びて黄色く見事に色づいているのが広がる。「いやあ、いいねえ」とHさんも声を立てる。
 
 1時間5分で甲東不老山にやってくる。コースタイムは1時間25分だから、ずいぶん挽回した。あとは55分で出発点に着く。2時15分、ゆっくりと下りはじめる。40分ほどでポンと舗装路に出る。「おやっ、こんなところあったっけ?」とHさん。私も記憶にないが、あったような気もする。いい加減だなあと我が臍を噛む。そのまま降ると明らかに見たこともないほど民家が並ぶところに出た。これは間違えた、戻ろうとしたところで、民家の親父さんが「……?」という顔をしているのと、目が合う。「下山路を間違えたようです。神社のところに車を置いてあるのだが……どう行けば」と尋ねる。奥さんも出てきて教えてくれる。どこかで踏み間違えて降ったから、一つ尾根を違えたようだ。教えられたとおりに、少し下って登り返す舗装路をとる。歩いていると、軽自動車のバンが来る。避けたら止まり、先ほどのご夫婦が「神社のところまで乗せていくから、乗れ」という。Hさんは「ありがとうございます。助かった」と声をあげて乗り込む。私も乗り込んで「でも、山登りに来たんでしょ。」とHさんに言い、素直じゃない。朝、走った覚えのある道を車は駆けあがり、無事神社に着いた。たしかに歩いていればさらに30分はかかったかもしれない。ありがたくご夫婦に感謝して、帰路に就いた。
 
 間違えもして、教訓に富んだいい山であった。