mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

佐渡の旅(2) 深い天然杉の森に浸る

2014-06-22 12:06:56 | 日記

 佐渡島は、少しいびつなH型を45度横にした形をしている。その北西側を南北に連なる山並みを「大佐渡」、南東側の台地を「小佐渡」、その間にはさまれた平野部を国中(国仲)と人は呼んでいる。

 

 2日目(6/17)に訪ねたのは、大佐渡の北部地区にある「石名天然杉」。海沿いの和木地区から急峻な山岳地帯に入る。細い1車線の道路。とてもバスなどは入れそうにない。まるで農道にみえる。整備されていないらしく、つぎはぎのガタガタ。道を間違えたのではないかと、最初は思った。しかしnaviは、間違いなくこちらを示している。あとで分かったのだが、この石名天然杉を見て回る遊歩道は昨年開設され、今年は6月15日から開放された。それ以前だと、道がぬかるみ、歩くのに難儀するらしい。

 

 乗っている方々は、しかし、その途上の植物相に関心が向かう。ヤマボウシが咲き誇り、マタタビの葉が白くなって山肌の緑にアクセントをつける。車を止めると、降りてあちらこちらと歩き回る。私はもっぱら鳥の声に双眼鏡を向ける。高度を上げるにしたがって、徐々に霧が深くなる。雲霧帯というのであろうか、雲の中に入った。

 

 標高900mの石名に抜ける峠に、車が10台くらい止められるところがあり、そこから遊歩道がはじまる。タニウツギが花をつけて明るい。すぐに鬱蒼とした森に入り込む。オオイワカガミが大きな葉をひろげててかてかと輝いている。カタクリが平たい箱型の実をつけて、楚々として立っている。杉の木々の下にランの仲間も花をつけている。方々はいちいち立ち止まって、草の名前を言いながら、道程に余念がない。本当に植物が好きなのだと、みていて感じる。

 

 杉の木が枝を押し下げられたように地面に傾けて、長く伸ばしている。その枝の地面に着いたところから根を生やして樹幹が倒れないように支え、それが成長して幹同士がくっついて太い幹をかたちづくる。太いところは、胸の高さのところで12mを軽く超える。象牙杉とか四天王杉などと、5本にだけ名前が付けられている。これもあとで知ったのだが、名前を一般募集しその中から選んだという。しかしみている限りでも、名前のある5本以外にも、名前を付けてもいいと思えるような立派なスギが何本もある。屋久島の縄文杉もいいが、それほど歩けない人は、ここの杉をみて満足してもいいのではないかと思った。

 

 1時間余かけて一回りした見晴らし台のあたりで、団体さんらしい十数名が休んでいるのに出会う。年寄りが多いのに、元気がいい。歩くのも、私たちを追い立てるように速い。ウィークデイだから人が少ないのだろうが、「天然杉」と名所喧伝するほど道が整備されていないのは、ちょっとアンバランスな感じがした。まだ、始まったばかりなのかもしれない。

 

 車に戻り、外海府の石名に向けて山を下る。こちらの方は道がいい。「名所」の所管が違うからなのだろうか。くねくねと九十九折れの急斜面を下ると、日本海の大陸側に出る。狭いところにも必ずと言っていいほど田んぼがつくられている。ちょうど四阿が置かれトイレがしつらえられている休憩所で、お昼を食べる。

 

 食べながら田んぼの向こうに屹立する岩壁にユリが咲いている。スカシユリの仲間、イワユリだという。このあと、北鵜島のイワユリがたくさん咲いているところを子細に観察する。佐渡の特徴的な花だそうだ。植物の専門家は、ガードレールを踏み越えて海へつづく崖に咲くイワユリをカメラに収めようとする。危なっかしい。一眼レフデジカメが落ちないように手で押さえているが、身体が確保できずに転落しそうに見える。こちらは慌ててそばに行き、手や足の確保どころを指南するが、ご本人はそれほど危ないと思っていない。

 

 お昼を食べたところのそばの田んぼに、佐渡案内の方は目を落としている。モリアオガエルの卵をみつけている。暗い池に釣り下がる木の枝に卵を産み付けるとばかり思っていたのに、田んぼのヘリに産み付けている。卵がかえってオタマジャクシになっているのはアオガエル。ヤマアカガエルもオタマジャクシに手足が生え、しっぽがまだ長いままのがいる。産み落とされた時期が違うからなのか、卵もオタマもカエルもいて、踏み歩く草地からピョンピョンと田んぼみ飛び込む。

 

 翌朝の話になるが、宿の近くの田んぼでモリアオガエルのメスとオスを見つけたと、案内してくれた。メスは達磨のようなもっこりした大きな体、オスはその半分にも満たない小さい体をしている。田んぼにかかる木の枝葉に卵は泡とともにぶら下がっている。田んぼの周りにも卵泡は産み付けられている。田のまわりの草が刈られていたが、その中にも卵泡が転がっている。女性陣は一つ一つ拾って他の中に移してやっている。触ってみろというから卵泡にさわると、マシュマロのような反発力がある。面白い。

 

 大野亀に向かう。大野亀島と名づけられているが、陸続きで島ではない。国定公園に指定の看板をみると、大野亀の部分と陸の端境部分が区切られていて、大野亀は海中公園に含まれている。地質上の何か大きな違いがあるのかもしれない。この大野亀、トビシマカンゾウという佐渡に固有のカンゾウの密集生育地になっている。これを見に来たのだ。なるほど見事だ。が、知る人によると、かつてはこんなものではなかったそうだ。減っているという。

 

 二ツ亀に宿をとる。海から急に100mほど起ちあがった台地の上に、簡素な造りのホテル。見下ろす海辺には、歩道のようなものがつくられている。宮本常一の「佐渡紀行」によると、自動車道ができるまでは海辺を歩いていたらしい。それくらい山が海に迫っているのだ。二ツ亀との間は、引き潮のときには砂州でつながる。朝、ちょうど引き潮であったので二ツ亀まで歩いて渡り、亀に触ってきた。なぜ触っただけか。亀もまた急に起ちあがり崖になっていてとうてい登れなかったからである。海辺に沿って歩道があり、その向こうに2軒の旅館がある。「二ツ亀荘」と「よしや」と名前が大書してある。どちらも休眠中のようであった。きっと夏になると開くのかもしれない。

 

 とにかくホオジロがたくさんいる。そちこちの木々や岩場の先端に立ってけたたましく鳴きさんざめいている。山を越えるときにも、ホトトギス、カッコウ、ツツドリ、ジュウイチなど、とけん類の声を聴くことができた。佐渡は渡りの途中に立ち寄る島ではないのかな。でも、今ごろと渡りでもないか。

 

 気温は高いが、それほど暑さを感じない。今日2日めもまた、雨にあわなかった。(つづく)