mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

奥日光自然観察ガイド

2014-06-10 14:29:43 | 日記

 昨日朝5時半に家を出て、奥日光に向かった。修学旅行の小学生のガイドをするため。地元で事務所を構えているMさんの会社に依頼が来る。評判がよく、学校単位で言えばリピータが多く、ほぼ毎年恒例になっている。

 

 ガイドの集合場所までに間にも、ヤマボウシが棚状の白い花をつけて、緑に覆われた道筋がにぎやかだ。マタタビも、その葉を白く変えて、花が咲いていることを示している。三本松あたりに来るとズミが花開いているのが目に止まる。そうか、ちょうど良い時期なんだと、幸先のよさを思う。

 

 私の担当するのは、いつも「健脚コース」。5時間のコースを歩かせる。おおむね一クラスを二つに分けたくらいの人数。今年は18人。相棒のKさんもひとパーティ担当して、同じコースを歩く。

 

 ところが直前に、午後から雷雨との予報があって、コースが変更になった。湯滝から北戦場ヶ原を抜けて光徳牧場までのルート。午後は天気の崩れ具合をみて森の散歩程度になりそうという話。

 

 8時20分、朝食を終えて準備のできた生徒が集まって、スタートの集会がはじまる。集まり方、集合点検の仕方、教師たちの声の出し方、生徒たちの動きをみていると、この学校が日ごろどのような指導をしているかが見えるように思う。ずいぶんしっかりしている。少し言葉数の多い教師もいるが、まあこれは習い性というやつか。

 

 生徒の数は140人。6年生。あとで歩きながら聞くと、1年生も4クラスあるというから、この小学校のある町は、なかなか若い。

 

 私とKさんのグループは、ほかの2グループとともに、まずバスに乗って湯滝へ移動する。湯滝から小滝を回るルート、泉門池には時間があれば立ち寄るということだけ決めて、準備の整ったところから出発。カメラマンが前になり後ろになって、シャッターを押す。サービス満点である。

 

 今日のポイントは、まず、湯滝から小滝への森。山歩きとは違うが、深い森。巨木が倒れ、それに生えた苔の上に新しい芽が育っている。倒木更新をみることができる。シカ柵もあり、シカの食害をササの大きさで見比べることもできる。ミズナラやカラマツの大木がねじれたり、3本が一つになったりしているのも、面白い。水量の多い湯川の流れに釣り人が入り込んで竿を投げ入れてはしゃくっている。これもこの時期の風物詩だ。木道を歩くのが、たぶん物足りない感じのようだ。エゾハルゼミの柔らかい鳴き声が森に満ちる。木々の間からわずかだが、青空も見える。

 

 小滝の橋の欄干に、ヤゴが張り付いている。ついさきほどここまで登ってきた、という風情。その傍らに、羽を乾かしている成虫のトンボが何匹がいる。まだ飛べないようだ。そっとしておいてやれ、と声をかける。

 

 ほかの小学校の隊列が脇を通り抜けていく。木道が作り直されたようで、歩きやすく、追い越したりすれ違ったりするのも、楽になった。生徒は「水に触りたい」という。泉門池の休憩まで待てといって、休まずに歩く。

 

 泉門池は、やはり戦場ヶ原に抜ける小学生の休憩場所になっている。生徒は水に手を入れ、ヒルを木の枝先に捕まえてつりさげる。ヒルはすうっと伸びて驚かす。男体山は雲の中に隠れている。教師がオヤツを取り出して生徒たちに配る。チョコと飴玉ひとつずつ。口に入れてもごもごさせながら、ヤチダモのことやマガモの名前を尋ねる。先ほどの深い森と違って、若いミズナラの明るい林に、声も軽くなる。

 

 ほかのグループは、やはり泉門池には届かなかった。もちろんガイドが立ちどまって詳しい説明をしているからでもあるが、私は歩かせる、遊ばせる、ときどき、説明をして森を比べるくらいにしている。あとで、「話を聞いていない」と愚痴るガイドもいたが、そんなことに耳を貸さないのがフツウの小学生だ。

 

 北戦場ヶ原に出る。急にミズナラがなくなり、シラカバの幼樹が林立する。視界が開け、茅が多くなる。男体山や大真名子山、太郎山などが姿を見せる。ノビタキであろうか、さえずりが大きく響く。遠くからカッコウの声が聞こえる。生徒たちはカッコー、カッコーと叫び始める。逆コースを歩いてきた同じ学校の一段とすれ違う。ガイドの一人が「北戦場をでたところのシカネットにシカが角を巻き込んで悶えている」と情報をくれる。生徒たちは「行こう行こう、早くいかないと居なくなっちゃうよ」と騒ぐ。まあまあ、そういうな。見るところをみないとね、と私はいうが、彼らの足は速くなる。さらに別の一団がやってきたので、ガイドに、まだシカがいたかと聞く。いや見なかったよ、と言う。ほら、もう離脱したんだよと話して、いつもの歩調に戻す。

 

 国道に出る。車が来ているかどうかを確かめて、道路を渡す。橋の袂から逆川沿いに降ろし、光徳に向けて川の右岸を歩く。少し行くと、大木の根方にシカの骨が転がっている。この冬に死んだシカの肉が喰われ、すっかり骨になってしまっている。ひずめのついた脚がリアルのシカを思わせる。生徒たちはこわごわと覗き込んで、無言。

 

 また少し行くと、岩壁の下にシカの死骸がある。肉はおおむね食べられているが、骨について干からびているところもある。臭いがしそうなほど生々しい。3メートルほど上から覗き込んでいる生徒たちも、さすがにこちらは「祟りがあるぞ」とひそひそささやいている。

 

 こうして、光徳沼に立ち寄り、またしばらく水遊びをさせて、お昼時間に間に合うように目的地に着いた。

 

 午後、雨は降りそうにない。「健脚組」は山王峠から下ってくる登山道を逆に登り、中腹の「シラカンバとダケカンバが混在している地点」の看板を目指す。1時間という制限時間なので、35分登って、25分で下ってくると、目安をつける。「もっときついところを歩こうよ」と言っていた生徒たちも、「やあ、これは山歩きだ」と嬉しそうだ。先頭の私よりも先へ行きたがる。少しばかり先を歩かせると、振り返りつつ、いろんなことをしゃべりながら、ずんずんと登る。後とはなれないようにと声をかけて、でも彼らのペースは悪くないと、私もついていく。

 

 歩き始めて32分、目的の看板に着く。「やったあ」と声をあげて喜ぶ生徒たち。全員が到着したのを確認して下山にかかる。同じ道をたどるが、階段状のところを飛び下りるなと注意する。膝を痛めるからだが、「は~い」と応えながら、そんなことは知っちゃいないと言わんばかりに駆け出す。後ろとの間をみて下れというのも、すぐに忘れて、どんどん降りてしまう。「健脚組」の女子も、男子に負けじと急ぐ。へばる子が出てくる。荷物をもってやると、ハアハア言いながらついて降る。下の方に来ると、荷物を自分で持つと言い、背負って降っていった。彼らの目的は、光徳牧場の「アイスクリーム」。教師が全員分のチケットをもっていて、下山後にいただくことにしていたわけだ。

 

 こうしてガイドは終わった。天気はもった。いろは坂を下り、清滝から高速道路に入るころに雨が落ちてくる。良かったねと同乗のKさんと言い交しながら鳴虫山のトンネルを抜けたら、途端に前が見えないほどのどしゃ降り。速度を落とし、視界を確保しながら走り抜けた。帰宅して天気情報をみていると、日光は3時過ぎに大雨だったと伝えている。あれだあれだ、と思いながら、無事の帰還をよろこんでいたのであった。