自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆森発言 批判鳴り止まず

2021年02月05日 | ⇒メディア時評

   東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視ともとれる発言の波紋が広がっている。IOCのバッハ会長は、「組織委員会から森会長が発言を撤回し、謝罪したという報告を受けて、IOCとして、その部分はよく理解した。引き続き、東京大会の成功に向けて努力してほしい」(橋本オリンピック・パラリンピック担当大臣の談話、2月5日付・NHKニュースWeb版)と語ったと、報じられている。果たしてそれでこの発言問題は収束するのか。

   日本の新聞メディアはどうか。「森会長失言、批判噴出」と毎日新聞(2月5日付)は一面のトップ記事だ。朝日新聞(同)も「森会長、発言撤回し謝罪」と同じく一面トップ。一方、読売新聞(同)は「森会長が発言撤回」と一面ながら、扱いは3番目だ。日経新聞(同)も「森氏、発言を謝罪」と一面ながら扱いは4番目だ。では地元新聞はどうか。北國新聞(同)は「森氏『不適切』と謝罪」と一面の準トップ。北陸中日新聞(同)は「森会長 性差別発言を謝罪」と一面トップだ。扱いの大きさでそれぞれの新聞の編集方針が浮き出ている=写真=。

   では、海外の報道はどうか。アメリカのCNNは「Top Tokyo Olympics organizing official apologizes for sexist remarks that women talk too much in meetings」と伝えている。イギリスのBBCも「Tokyo Olympics chief Yoshiro Mori 'sorry' for sexism row」と。このニュースがさらに世界に広がり、オリンピックの競技でどこかの国の女子チームが不参加を表明したら、さらに大きなニュースとなって世界を駆け巡る。すでに、カナダのアイスホッケー女子五輪金メダリストでIOC委員を務めるヘーリー・ウィッケンハイザー氏は4日、「(森氏を)絶対に追い詰める」とツイッターに投稿し、発言への憤りを表明した(2月5日付・NHKニュースWeb版)。

   女性差別発言は海外ではさらに厳しくなるだろう。国際的な人権団体の格好の攻撃対象だ。森氏の辞任どころか、東京オリンピックそのものの開催も危うくなるのではないだろうか。ジェンダーの発言問題を収束させる機関も人物も手段もないのだ。

⇒5日(金)夜・金沢の天気   くもり

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★物議かもす森発言を読む 

2021年02月04日 | ⇒ニュース走査

   同じ石川県出身の森喜朗元総理の講演をこれまで何度か聞いたことがある。大学の教員となってからでは、2012年5月に金沢大学が発祥から150年となる「創基150年」の記念式典で、森氏の講演を聴いた=写真=。金沢大学の総合移転をめぐる話だった。以下当時の講演メモから。

   1970年代でもめた「筑波大学法案」(国立学校設置法等の一部を改正する法律案)では国会議員からも猛反発も受けたが、「私は一歩も引く気はなかった。なぜなら、わたしの頭には次は金沢大学の総合移転があった」と。金沢大学の移転をめぐっては反対意見もあり、「筑波の矛先を金沢に向ける保守反動、右翼森喜朗をつぶせ」などと書いたビラも金沢市内に貼られたが、森氏は「むしろ政治家のライフワークと自覚した」。大学移転後の金沢城では櫓や門などが復元整備され、附属小中学校の跡地には金沢21世紀美術館がオープンして人気を博している。どちらも2014年度末の北陸新幹線金沢開業に向けて、有力な観光スポットとして期待されている。「私の判断は間違っていなかった」と語気を強めた。

   講演では話の流れが分かりやすく、しかも、アドリブを利かせながら聴衆をひきつける。森氏は学生時代、早稲田大学の雄弁会で活躍したそうだ。鍛え抜かれた弁舌だと感じた。ただ、時にその弁舌はマスメディアの目線では誤解を生むこともある。

   2000年4月、森氏は脳梗塞で倒れた当時の小渕総理の後を継ぐかたちで総理に就任した。その直後の5月、神道政治連盟国会議員懇談会で森氏は「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く、そのために我々が頑張ってきた」と述べた。いわゆる「神の国」発言である。戦後、天皇は神性を否定する「人間宣言」をしているにもかかわらず、国の総理がそれを否定したとして大騒ぎとなった。その後、ハワイ沖で日本の高校生の練習船がアメリカの原子力潜水艦と衝突して死者を出した「えひめ丸」事故(2001年2月)への対応が問題となり、就任から1年で総理の座を小泉純一郎氏に渡した。退陣前の内閣支持率は9%(朝日新聞調査)と1桁に落ちていた。

   そして、きのう3日の発言も物議をかもした。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長である森氏はJOC臨時評議員会で「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。メディアはこの発言を女性差別であり、理事会への女性参画の流れにも逆行すると国内外でニュースとして発信した(2月4日付・NHKニュースWeb版など)。

   表現が率直過ぎて、笑える失言もある。2005年8月、参院で郵政民営化法案が否決された当時の小泉総理が衆院解散を決意する。それを思いとどまらせようと森氏が官邸を訪ねたが、「殺されてもいい」と小泉氏に拒否された。会談直後に、森氏は握りつぶした缶ビールとチーズを記者団に見せて、「寿司でも取ってくれるのかと思ったらこの干からびたチーズだ」「硬くて歯が痛くなったよ」と不平を漏らした。

   干からびたチーズを前総理の森氏に出したことで小泉氏は解散総選挙への本気度を示したとメディアが報じ、結果、選挙は自民大勝となった。その干からびたチーズはフランス産高級チーズ「ミモレット」だった。

⇒4日(木)午後・金沢の天気     くもり

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☆能登のグローバルな伝統行事アマメハギ

2021年02月03日 | ⇒トレンド探査

   きのうは節分、きょうは立春。能登では節分の恒例行事としてアマメハギが行われた。これまで取材などで何度か能登町秋吉地区を訪れている。当地では、アマメは囲炉裏(いろり)で長く座っていると、足にできる「火だこ」を指す。節分の夜に、鬼が来て、そのアマメをハギ(剥ぎ)にくるという意味がある。節分は季節を分ける、冬から春になるので、農作業の準備をしなさい、いつまでも囲炉裏で温まっていてはいけないという戒めの習わしでもある。現在では子どもたちに親の言うことを聞きなさいという意味になっている。

   秋吉地区で行われるアマメハギは高校生や小中学生の子どもが主役、つまり仮面をかぶった鬼を演じる。玄関先から居間に上がりこんで、木の包丁で木桶をたたきながら、「なまけ者はおらんか」などと大声を出す。すると、そこにいる園児や幼児が怖がり泣き叫ぶ。その場を収めるために親がアマメハギの鬼にお年玉を渡すという光景が繰り広げられる。ただ、今年は新型コロナウイルスの感染拡大に配慮して、鬼は居間に上がらず、玄関先での訪問となったと昨夜のテレビニュースで伝えていた。

   この伝統行事もこれまで何度か時代の波にさらされてきた。少子高齢化と過疎化で今でも伝承そのものもが危ぶまれているのは言うまでもない。行事を世話している地域の方からこんな話を聞いたことがある。かつて、アマメハギで鬼に扮する小中学生への小遣い渡しが教育委員会で問題となり、行事を自粛するよう要請されたこともあったそうだ。このことがきっかけで行事が途絶えた地区もあったという。

   時代の洗礼にさらされながらも、2018年にアマメハギが秋田・男鹿半島のナマハゲなどともに日本古来の「来訪神 仮面・仮装の神々(Raiho-shin, ritual visits of deities in masks and costumes)」として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。国際評価を得たのだ。と同時に、面白いことに、アマメハギやナマハゲの行事は日本のローカルな行事ではなく、世界中にあるということに気づかされた。

   ヨーロッパの伝統行事「クランプス(Krampus)祭」。クランプスはドイツやオーストリアの一部地域で長年継承されている伝統行事。頭に角が生え、毛むくじゃらの姿は荒々しい山羊と悪魔を組み合わせたとされ、アマメハギの仮面とそっくりだ。12月初め、子どもたちがいる家庭を回って、親の言うことを聞くよい子にはプレゼントを渡し、悪い子にはお仕置きをするのだという。そこで、ドイツ・ミュヘン市の公式ホームページをのぞくと「Krampus Run around the Munich Christmas Market」と特集が組まれていた。現地では有名な行事のようだ。

   「能登は上質なタイムカプセル」と評し、伝統産業や行事を持続可能なカタチで引き継ぐ風土への評価がある(坂本二郎・金沢大学教授)。能登にはユネスコ無形文化遺産だけでなく、FAOの世界農業遺産(GIAHS)という国際評価もある。SDGsに取り組む自治体もある。グローバルな価値観をあえて持ち込むことで未来へのソフトチェンジが拓けていくのではないだろうか。

(※上の写真は能登町のHPより、下の写真はドイツ・ミュンヘン市のHPより)

⇒3日(水)午前・金沢の天気   はれ

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★能登にある「グローバル過疎地」

2021年02月02日 | ⇒トレンド探査

   能登半島の里山の一角を自身は勝手に「グローバル過疎地」と紹介している。安倍前総理も2019年1月の通常国会の施政方針演説でこう紹介している。「田植え、稲刈り。石川県能登町にある50軒ほどの農家民宿には、直近で1万3千人を超える観光客が訪れました。アジアの国々に加え、アメリカ、フランス、イタリア、イスラエルなど、20ヵ国以上から外国人観光客も集まります」。観光による地方創生の成功事例として紹介されたのは能登町の農家民宿で組織する「春蘭(しゅんらん)の里」だ。

   春蘭の里にインバウンド観光客が訪れるきっかけとなったのは、2011年11月にイギリスBBC放送の番組「ワールドチャレンジ」にエントリーしたのがきっかけだった。世界の草の根活動を表彰する同番組には毎年600以上のプロジェクトの応募がある。2011年に「春蘭の里 持続可能な田舎のコミュニティ~日本~」を掲げてエントリーし、最終選考(12組)に残ったものの、惜しくも4位だった。が、投票を呼びかけるBBCのこの番組で12組の取り組みが繰り返し放送されたことで知名度が上がり、国内外の観光業者から注目されるきっかけとなった。

   春蘭の里がBBCにエントリーしたのは、突飛な話ではない。2010年10月、名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の公認エクスカーション(石川コース)では、世界17ヵ国の研究者や環境NGOメンバーら50人が参加し、春蘭の里でワークショップを開催している。そして2011年6月、北京でのFAO国連食糧農業機関の会議で「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認定され、能登を世界に売り込むチャンスが訪れていた。春蘭の里はこの機会を逃さず、「ワールドチャレンジ」にエントリーにした。

   昨年9月に春蘭の里のリーダー、多田喜一郎氏を大学の研修で訪ねた。新型コロナウイルスのパンデミックの影響でインバウンド観光客は鳴りを潜めているが、それまでは毎年20ヵ国ほどから2000人余りを受け入れていた。「インバウンド観光客が求めているものは、むしろ田舎にある」は、多田氏の持論だ。森の中で暮らす、食するは人類共通の願いである、とも。もう一つの持論は「行政に頼らない。むしろ、行政が応援したくなるような地域づくりをしたい」。この発想が多様なチャレンジを広げていのではないか。

   では、60代や70代が中心の民宿経営者たちがいかに20ヵ国ものインバウンド観光客と接することができるのか、集落に通訳業の人たちがいるわけではない。多田氏は「ポケトークだと会話の8割が理解できる。すごいツールだよ」と。春蘭の里ではこの74言語に対応した音声翻訳機「ポケトーク」を8台所有し、必要に応じて貸し出している。この文明の利器を介して、炭焼きや山菜採り、魚釣りなどの体験をインバンウンドの人たちと楽しんでいる。過疎地にしてグローバル、「グローバル過疎地」と紹介する所以である。

(※写真=「春蘭の里」には世界から日本の里山を見学に訪れる。左はリーダーの多田喜一郎氏)

⇒2日(火)夜・金沢の天気

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☆節分に叫ぶ「コロナは外」「ワクチンはうち」

2021年02月01日 | ⇒メディア時評

   きょうから2月、ことしは節分は2日、立春は3日となっている。国立天文台公式ホームページによると、立春はこれまでずっと4日だった。同天文台の観測によって、「太陽黄経が315度になった瞬間が属する日」を決めている。計算ではことしの立春の日は3日23時59分となるそうだ。1分の違いではあるものの、立春は3日となる。実にきわどい二十四節気ではある。従って、節分はその前日の2日となる。

   さて、節分と言えば豆まき。季節の変わり目に起きがちな病気や災害を鬼に見立て、それを追い払う風習が知られる。「鬼は外、福は内」と声を出しながら煎り豆をまき、豆を食べて厄除けをする。ここからきょうの論点だ。ことしの豆まきの掛け声は「コロナは外」「ワクチンはうち」ではないだろうか。ワクチンをめぐってさまざまな国際問題が起きている。

   WHOは新型コロナウイルスのワクチンについて、EU域内で製造されたワクチンの輸出を制限するというEUの発表を批判し、パンデミック長期化の原因となりかねないと警告した。EUは製薬会社の製造の遅れで当初契約された量が確保できていないことから、輸出制限を発表した(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。今、世界ではワクチンの囲い込み騒動が起きているのだ。EUは域内で製造されたワクチンについて、域外への輸出規制を強化することは加盟国の人々を守るために必要な行動と表明していた。

   このEUの動きに対して、WHOのテドロス事務局長は、EUなどの富裕国がワクチンを独占して最貧国が苦しむならば、世界は「破滅的なモラル崩壊寸前」だと警告した(1月18日付・時事通信Web版)。まさにワクチンの争奪戦だ。

   EUはワクチン開発に際して域内の製薬メーカーなどに1億ユーロ(126億円)を投資していた。なので、EU域内の感情論だと、域内の製薬メーカーで生産されたワクチンがなぜ国民に行き渡らないのかと疑問に思ってるだろう。実際、EU4億4800万人のうち、これまで840万人しかワクチンを接種していない。ドイツ155万人、イタリア129万人、スペインは115万人、フランス100万人の順だ(1月26日付・BBCニュースWeb版)。ワクチ ンは域内で行き渡っていないのだ。そこにテドロ氏の「破滅的なモラル崩壊寸前」の警告はEUの国民の気持ちにどう響くのだろうか。

   日本政府はアメリカのファイザー社との契約でワクチンを確保し、医療従事者を対象に2月下旬から接種すると述べている。政府がファイザー社と契約した量は年内で7200万人分(1人2回で1億4400万回分)だ(1月30日付・NHKニュースWEB版)。ここに、WHOが日本に対し、「半分寄こせ」と直談判してきたら日本政府はどう動くのだろうか。国益との矛盾が見えてくる。日本は率直に「コロナは外」「ワクチンはうち」と相手をかわすことができるのだろうか。

(※写真は、ファイザー社のホームページより)

⇒1日(月)夜・金沢の天気   くもり

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