自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★哲人政治家ホセ・ムヒカ氏の「ことばのチカラ」

2020年10月28日 | ⇒メディア時評

   「世界一貧しい大統領」として知られた元ウルグアイ元大統領のホセ・ムヒカ氏が今月20日、政界からの引退を表明した。新型コロナウイルスの感染拡大で、政治の身上である「議員の仕事は人と話し、どこへでも足を運ぶこと」ができなくなり、免疫系の持病もあるとして、この日議会で演説し明らかにした。(10月21日付・共同通信Web版)。

   ムヒカ氏は85歳で2010年から15年まで大統領を務めた。以降は上院議員として活動した。ホセ・ムヒカ論については、朝日新聞の萩一晶記者が現地での単独取材を元に出版した朝日新書『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』(2016年発行)に詳しく記されている。以下引用させていただく。(※写真は、朝日新書『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』の帯から)

   ムヒカ氏は政治的な辣腕をふるって自国を経済的に豊かにしたのか、実はそのようなタイプの政治家ではない。むしろ、教育に全力を注いだ政治家である。南米ウルグアイには、スペインからの独立戦争、封建制度と貴族政治、軍政との長い戦いがあり、民政に移管されたのは1985年だった。本人もかつて極左ゲリラ組織のメンバーとして誘拐などに関与、「投獄4回、脱獄2回、銃撃戦で6発撃たれた」(同書)という過去もある。

   ムヒカ氏の言葉は日本人に心によく刺さる。「私が思う『貧しい人』とは、限りない欲を持ち、いくらあっても満足しない人のことだ。でも私は少しのモノで満足して生きている。質素なだけで、貧しくはない」。まさに人生訓だ。もう一つ。「生きていくには働かないといけない。でも働くだけの人生でもいけない。ちゃんと生きることが大切なんだ。たくさん買い物をした引き換えに、人生の残り時間がなくなってしまっては元も子もないだろう」

   日本にも「清貧」という言葉がある。昔から「清く貧しく美しく」という生き方が良しとされてきた。清貧であることを美化するつもりはまったくない。ただ、日本人の発想の根底には清貧があって、それが、現在のReduce(消費削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再生利用)という環境活動の3Rなどにつながっていると考えている。話が横にそれた。

   ムヒカ氏がよく使う言葉は「Nobody is more than nobody」(英訳、同書)。誰も誰かより偉いということはない、という意味だろう。近い響きが、福沢諭吉の「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずといへり」(『学問のすゝめ』)ではないだろうか。こうしたムヒカ氏の言葉はどこからくるのだろか。ウルグアイの軍政下で13年にも及んだ刑務所生活での悟りのなのだろうか。ちなみに福沢の「天は人の上に・・」はアメリカの独立宣言の一節「・・ that on all men are created equal on、・・」 を意訳したものといわれている。 

   ムヒカ氏は世界に向けても言い放った。2012年6月、ブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」(Rio+20)での演説。「西洋の豊かな社会と同じような消費と浪費を、世界の70億、80億の人ができると思いますか」「発展することが幸福を損なうものであってはなりません。発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならないのです」と。

   12月から始める金沢大学での教養科目「ジャーナリズム論」では講義(12月23日)に萩記者を招いて哲人政治家、ホセ・ムヒカ氏について語っていただいく予定だ。ぜひ、この話の続きを聞きたい。

⇒28日(水)夜・金沢の天気   はれ


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