自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★能登の風景を変える人々

2013年03月12日 | ⇒トピック往来

   先月9日、水戸市に出かけた。平成24年度「地域づくり総務大臣表彰」を受けるためだ。金沢大学が能登半島の先端で展開する「能登里山マイスター」養成プログラム運営委員会(代表:中村浩二教授)が授賞したのだ。中村教授に随行者として同行した。このブログでも何度となく紹介したが、「地域づくりは人づくり」、この地道な5年間のプログラムを振り返ってみる。

   日本海に突き出た能登半島に金沢大学の能登学舎(石川県珠洲市)がある。しかも、地元の人たちが「サザエの尻尾の先」と呼ぶ、半島の先端である。ここに廃校となっていた小学校施設を市から無償で借り受けて、平成18年から研究交流拠点として活用している。学舎の窓からは、日によって海の向こうに立山連峰のパノラマが展開する。この絶好のロケーションで、環境に配慮した農林漁業をテーマに社会人のための人材育成が行われている。

   能登半島は過疎・高齢化が進み、耕作放棄地も目立っている。追い討ちをかけるように、平成19年3月25日、能登半島地震(震度6強)が起き、2000棟もの家屋が全半壊した。能登の地域再生は待ったなしとなった。震災の発生する2月前に文部科学省科学技術振興調整費(当時)のプログラム「地域再生人材創出拠点の形成」に「能登里山マイスター」養成プログラムを申請していた。5月に正式採択されたが、喜びよりもミッション遂行の責任の重さがずっしりと肩にのしかかってきたとの思いだった。石川県が仲介役となって、金沢大学と石川県立大学、そして奥能登にある2市2町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)の6者が「地域づくり連携協定」を結び、同年10月に開講にこぎつけた。連携する自治体は、広報やケーブルテレビを通じて受講生の募集業務やプログラムを受講する職員の推薦、移住してくる受講生の窓口の役割を担ってもらった。実際、このプログラムを受講した移住組は14人に上った。

   能登の地域再生を目指す人材像を3タイプに分けて、毎週土曜に講義と演・実習を2年間受講する形式を取った。その3つのタイプとは、「環境に配慮した農林漁業人材」、「付加価値をつけ流通させるビジネス人材」、「地域リーダー人材」である。事業の最大の成果は、修了生62人(45歳以下)のうち52人が奥能登に定着し(定着率84%)、能登を活性化する多様な取り組みの中心として活躍していることである。たとえば、農林漁業人材では、水産加工会社社員(男性)が同社の新規農業参入(耕作面積26㌶)の中心的役割を果たし、地域の耕作放棄地を減少させている。製炭業職人(男性)は高付加価値の茶道用の高級炭の産地化に向けて、地域住民らともに荒廃した山地に広葉樹の植林運動を毎年実施している。この男性は平成22年度の地域づくり総務大臣表彰で個人表彰を受けた。

   定着率が高いのは、2年間のカリキュラムを通して、受講生同士の情報交換や仲間意識といったネットワークづくりが奏功したのだと分析している。また、追い風もある。平成23年6月、国連食糧農業機関(FAO)から「能登の里山里海」と「トキと共生する佐渡の里山」が世界農業遺産(GIAHS)に認定され、持続可能型社会のモデルとして国内外で注目され始めている。5年間で終了した「能登里山マイスター」養成プログラムの後継事業として、平成24年10月から能登「里山里海マイスター」育成プログラムが大学と自治体の出資でリニューアルスタートとした。受講生は40人余り。東京から通いで学んでいる女性たちもいる。マイスター修了生の活動の輪がさらに広がり、近い将来、能登の風景を明るく変えてくれるに違いない、と楽しみにしている。

※写真は、農産物の販売実習の風景

⇒12日(火)夜・金沢の天気    はれ


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