自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★正論暴論2006「石油論」

2006年12月26日 | ⇒ドキュメント回廊

 これを暴論と解釈するか、先見と理解するか、おそらく意見は分かれるだろう。今年、識者のピニンオンでじっくり考えさせてもらったものを2つ紹介する。先日届いた07年1月1日-8日号の「アエラ」(朝日新聞社発行)で、脳学者の養老孟司氏が述べている「早く石油を使い切れ!!」は相当にインパクトがある。

  限りある天然資源、石油の可採年数はあと40.5年とされる。そこで「省エネ」と言って、長くも持たせよう、効率よく使おうと、地球温暖化現象ともあいまって世界中が大合唱している。しかし、養老氏は「ちょっと乱暴な言い方ですが」と前置きして、「省エネすれば石油資源の寿命が延びてしまう」「限りある資源だから一刻も早く使い切れ」「その先に幸せな地球が待っている」と断じる。

 石油をめぐり世界は戦争をしてきた。そもそも太平洋戦争はアメリカのルーズベルト大統領が日本への石油を止めて日本の譲歩を引き出そうとしたことが発端だった。これに過敏に反応した東条英機がパニックとなった。そこで、日本はシンガポールを攻略し、フィリピンを占領し、インドネシアの油田を確保した。この時点で日本の目的は達成された。しかし、深みにはまっていく。

  また、養老氏は石油がなくなれば社会問題(地方分権、医療問題、子どもの教育問題など)が解決すると主張する。要は、石油のために、人間が楽をすることを覚え、体を動かさなくなった。「人間は石油を使って機会をより便利にするために躍起になってきたけれど、機械を丈夫にすると人間が壊れる」

  最後に、中国が日本や欧米のように石油を使って都市機能を動かし始めると、温暖化どころか地球は滅びる、との内容で締めくくっている。

  もう一つ紹介する。先月、金沢大学で講演した月尾嘉男氏。東大名誉教授で「ITの伝道者」でもある。その月尾氏の持論は「日本が滅びるならテレビから滅びる」である。

  「では、なぜテレビから滅びるのか」。月尾氏の持論はこうだ。世界最大にして消滅した国家は古代ローマ帝国である。末期になり腐敗した帝国は「パンとサーカス」の政策で国民支持を集め国家を維持しようとした。ローマ市民には食料と娯楽を無料で提供したのである。巨大なコロセウムで開催される残虐な闘技、いつでも利用できる巨大な浴場を無償で提供する愚民政策により、政治への不信、社会への不満を解消しようとした。そして市民が娯楽に耽った結果、ローマ市民が蛮族と蔑視していたゲルマン民族により、帝国は短期で崩壊した。衰退の原因はサーカスであった、と月尾氏は強調する。

  月尾氏にすれば、現在のサーカスがテレビ放送なのである。月尾氏はTBSの番組審議委員でもあり、いくつもの番組を視聴して批評している。そして、レベルの低さに驚嘆する。背景となる知識のない芸人が社会を評論する番組、占師の独断と偏見に満ちたご託宣に若者が感嘆する番組、学者が世間に迎合するためだけの意見を開陳する番組など。

  さらにテレビの問題は、何事も画像で表現しようとすることだ。人間の重要な能力は物事を抽象し、言葉で表現し文字で記録することである。しかし、テレビは最初に画像ありきで、一字一句までをも画像で表現しようとする。このため日本人は現実を抽象する能力と、言葉から現実を想像する能力を急速に喪失しつつある。最近の若者の短絡した行動は、この能力の喪失と無縁ではない、と。

  50年ほど前、ジャーナリストで批評家だった大宅壮一が喝破した「一億総白痴化」は着実に進行している、と言うのだ。

 ⇒26日(火)朝・金沢の天気  くもり


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆ブック2006「リアルな虚栄」 | トップ | ☆哀悼2006「岩城宏之さん」 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
石油の後には水の争奪戦 (NI)
2006-12-27 20:14:28
このまま石油を使えば温暖化が加速して、次には水をめぐる争いが待っており、「幸せな地球」にはならないというのが最近の常識。養老先生の意図は別なところにあるような気がします。
返信する
ありがとうございます (UNO)
2006-12-30 16:58:55
 NIさん
 コメントありがとうございます。ご指摘の通りです。石油の次は水資源、その次は木材・・・。果てしなく続く資源争奪戦争です。水資源でいえば、すでに日本は大量の野菜を輸入していますので、その野菜の栽培にようした水のことを計算に入れると、途方もない量の水を「輸入」していることになりますね。養老氏の論は、人と社会の「石油依存体質」を改善しよう、と言うこと。そう簡単ではありませんが…。
返信する

コメントを投稿

⇒ドキュメント回廊」カテゴリの最新記事