自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ブック2006「リアルな虚栄」

2006年12月25日 | ⇒ドキュメント回廊

 今年読んだ本の中で、印象深い本と言えば、アメリカ史上最大の合併といわれ、ウォールストリート最大の失敗に終わったAOLとタイムワーナー社との合併劇の結末を描いたルポルタージュ「虚妄の帝国の終焉」(アレック・クライン著、ディスカヴァー・トゥエンティワン社刊)と、1990年代のボスニア紛争でうごめいた情報操作の一部始終を描いた「ドキュメント戦争広告代理店」(高木徹著、講談社文庫)だ。とくに「虚妄の帝国の終焉」は2度読んだ。

  一度目は茶の蛍光ペンで気になるセンテンスをマークした。二度目はピンクの蛍光ペンで印をつけた。どこに反復して読む価値があるのか。この合併劇の失敗は「放送と通信の融合の失敗の事例」と日本でも喧伝されていた。果たしてそうなのかと検証したかったからである。単にルポルタージュを楽しみながら読むというより、今後日本でも十分起こりうる放送と通信・インターネット企業の合併という展開を分析したかったからだ。

  精緻な資料分析とインタビューを構成した「虚妄の帝国の終焉」は、CNNなどを擁しメディア帝国と呼ばれたタイムワーナーが企業風土も違う新興のAOLとの合併を決意したものの、最終的にはAOL側の粉飾決算などで、そのシナジー(相乗効果)が十分に発揮されないまま、AOLがタイムワーナーの一部門に降格していく様を描いている。アメリカンドリームの面白さと企業ドキュメントのリアルさが蛍光ペンを2度走らせることになったのである。

  もう一冊の「戦争広告代理店」もアメリカのネタである。NHKの取材ディレクターが丹念に取材したドキュメンタリー番組をその後に加筆してまとめ上げたもの。ボスニア紛争で「モスレム人=被害者」、「セルビア人=加害者」という分かりやすい善玉・悪玉論を情報操作したアメリカのPR会社「ルーダー・フィン」社のジム・ハーフという男の動きに焦点をあてている。どのような手法で世論を形成し、アメリカ大統領をどのように動かし、紛争に介入させたか…。そのキーワードとなった「民族浄化(エスニック・クレンジング)」という言葉がどう使われたのか、克明に描かれている。

  ジム・ハーフが駆使したPR手法の数々は高度なテクニックではあるものの、なかには企業の広報マンも使えそうな細やかな対人折衝の心得のようなものもある。「インタビューする主役に最大限に注目が集まるように、黒子(PR担当マン)は息を殺してその存在感を消す」といったプロの所作である。この本が単行本として世に出た2002年に講談社ノンフィクション賞などを受賞している。

  2冊ともダイナミックな政治と経済がテーマである。アメリカンドームと紛争。受け止めようによってはアメリカのリアルな虚栄とも表現できる。

⇒25日(月)夜・金沢の天気   はれ


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