自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★清張、荒波の情景

2010年12月10日 | ⇒トピック往来
 景勝地の能登金剛は、松本清張の推理小説『ゼロの焦点』の舞台となった場所だ。清張生誕100年を記念し、昨年(2009年)11月に広末涼子らが出演して再映画化された。この地には、清張の歌碑がある。「雲たれて ひとり たけれる 荒波を かなしと思へり 能登の初旅」。歌碑は昭和36年(1961)に建てられた。

 この短歌の意味は、現場に立てばイメージがわいてくる。『ゼロの焦点』のシーンにある冬の日本海の荒波。その波は大きくうねり、そして岩に砕け散る。その砕け方は一瞬の飛び散りだ。この荒海の様子をじっと眺めていると、「人間と同じだ」と思えてくる。人は出世欲、金銭欲、さまざまは欲望をうねらせて突き進むが、最後には自らの矛盾や人間関係、社会制度に突き当たって一瞬にして砕け散る。清張が能登金剛を取材に訪れたとき、日本海の荒波はそのような情景に映ったのではないか。そして「かなしと思へり」と感じた。清張の小説を読めば、欲望と矛盾がサスペンスを生んでいる。

 2010年は激動の一年だった。いや、波乱の幕開けなのだろう。住友生命保険が今年の世相を四文字で表現する「創作四字熟語」を発表し、10日付の各紙朝刊で掲載された。優秀作品の「三見立体(さんみりったい)」は、3D映像の映画やテレビがブームになったことを「三位一体」にもじって表現したもの。案外面白いのは、ちょっとスパイスが効いた入選作品だ。鳩山前総理のとき、アメリカ軍普天間飛行場移設問題で「最低でも県外」と言ったのに、それが「知れば知るほど」に海兵隊の重要性がわかり、その後に沖縄県内の「辺野古」にプランが戻った。それを揶揄して「棄想県外(きそうけんがい)」の作品ができた。その混迷の結果が、「菅鳩交代(かんきゅうこうたい)」だった。

 人々の絆が薄れた社会は「無縁社会」と呼ばれている。高齢者の所在不明が相次ぎ、「戸籍騒然(こせきそうぜん)」となった。その後に、年金詐欺問題が続々と出てきた。もう一つ。「熱烈歓元(ねつれつかんげん)」は「熱烈歓迎」をもじったものだが、「歓元」にひねりが効いている。消費欲が盛んな中国人観光客が日本を訪れているが、歓迎しているのは中国の人より、お金という意味だろう。

 再び、清張の「かなしと思へり 能登の初旅」の歌。今の欲望社会を満たし続けるのはもう限界ではないのか。いつかクラッシュがくる。清張のテーマは単なる小説の題材ではなく、社会への警鐘だと感じている。

※写真は、能登半島・珠洲市真浦町の海岸

⇒10日(金)夜・能登の天気 はれ
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆「老兵」は能登で復権 | トップ | ☆武士の家計簿 »

コメントを投稿

⇒トピック往来」カテゴリの最新記事