自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆プラチナ社会への道

2015年10月24日 | ⇒トピック往来
   金のようにギラギラとした欲望社会を目指すのではなく、プラチナのようにキラキラと人が輝く社会づくりを理念に掲げているが、まだ余り知られていない団体がある。「プラチナ構想ネットワーク」だ。会長は、小宮山宏氏、元東京大学総長で現・三菱総研の理事長でもある。日本を他国に先駆けて、たとえば少子高齢化、過疎化などの課題が顕在化している「課題先進国」と定義し、 この状況を困難であると同時にチャンスと捉え、国際社会で本来の競争力を持った国にするためにどう手を打つべきか、行政や経済界、学術関係の有志らが集うポータル的な団体組織だ。

   その解決の知恵を集めるのが「プラチナ大賞」制度。いろいろな創意工夫を通じて、過疎・高齢化などの地域の課題解決を目指す自治体や民間企業の取り組みを評価しようと、プラチナ構想ネットワークが2年前から実施している表彰制度だ。今年3回目となり、全国から57件の応募があり、昨日(23日)は最終候補に残った10件の審査発表会が東京・千代田区のイイノホールで行われた。その中に10件の中に、金沢大学が能登半島の珠洲市などと取り組んでいる、能登里山里海マイスター育成プログラムなどの大学連携(あるいは域学連携)のプログラムが残り、珠洲市の泉谷満寿裕市長と金沢大学の中村浩二特任教授が最終のプレゼンテーションに登壇した=写真=。

   発表のタイトルは「能登半島最先端の過疎地域イノベーション~真の大学連携が過疎地を変える~」。以下はその概要。珠洲市は日本海に突き出た能登半島の最先端に位置する。県庁所在地である金沢市まで約150㌔、車で約2時間余りかかるという地理的なハンディがあり、さらに奥能登地区(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)に大学などの高等教育機関がないことから、若い人は高校を卒業するとほとんどが市外に出てしまう。こうした中、昭和29年の市制施行当時(1954)、3万8千人だった人口は現在1万5千人に、年平均350人のペースで人口減少が進んでいる。高齢化率は44%を超える。

   2006年6月に泉谷氏が市長に就任したころチャンスがめぐってきた。金沢大学からの連携事業の提案があった。生物多様性をテーマとした環境保全プロジェクト「里山里海自然学校」(三井物産環境基金)だった。市内の空き校舎を双方で選定し、市側で改修整備し無償で貸与した。市民と大学の研究者が協働で調査するオープンリサーチセンターが誕生した。翌2007年、金沢大学、石川県立大学、奥能登の2市2町で「地域づくり連携協定」を締結し、連携を広範囲に広げて、「能登里山マイスター育成プログラム」の人材育成事業が始まる。金沢大学から、5名の教員スタッフが常駐し、主に45歳以下の若い方を対象に週末を中心としたカリキュラムを展開している。環境境保全型の農林水産業を実践的に学び、これまで9年間で、128名のマイスターが誕生した。この人材育成プログラムを受講するために、市外、県外から移住してくる若者も現れてた。珠洲市内だけでも、この事業を通して12名の若者が移住し、現在も定住している。東京から移住した女性はスイーツの製造販売と民家レストランを営んで、お年寄りに喜ばれている。同じく、東京から移住した男性は、和がらしの製造販売などの商品開発や、企画・デザインを生業として、インバウンドの能登旅行も手掛けている。最初、マイスターの活躍は点としての存在だったが、点と点が結びついて線となり、そして人数が増えるとともに、いまは面として、能登半島に活気をもたらしている。

   2011年には、「能登の里山里海」が国連の食糧農業機関から、佐渡とともに我が国初めてとなる「世界農業遺産」に認定されたが、その際にも、この人材育成事業が高く評価された。このような、域学連携や世界農業遺産の認定を受けて、市内のNPOなど民間団体による、生物多様性や里山里海を保全する活動も活発化している。金沢大学は、能登半島の先端という地の利を活かして、アジアの環境問題に関わる、大気観測も行っている。これからの高齢化社会を見据えた、自動運転システムの国内初となる公道での実証実験も珠洲市で実施している。さらに、珠洲市での人材育成事業のノウハウは、世界遺産であり、世界農業遺産にも認定されているフィリピンのイフガオの棚田で、JICA国際協力機構と連携した、人材育成事業へと展開している。

   発表時間は8分。大学と自治体が連携して多様な事業展開がここまで高まったことが評価され、見事に大賞・総務大臣賞を射止めた。泉谷市長は表彰の挨拶で、「人口の減少を食い止めることは並大抵ではなく、とても難しいことだ。しかし、大学との連携を通して地域の質と魅力を高め、プラチナ社会を、そして未来を切り開いていきたい」と述べた。

   同じく大賞・経済産業大臣賞は積水ハウスの「5本の樹で命あふれる笑顔のまちを」が選ばれた。生態系の保全などにつなげるため、クヌギやコナラなど地域の気候風土にあった在来種の植物を住宅の庭木などに植える取り組みを進めている。

⇒24日(土)午前・金沢の天気    はれ

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