自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「自然産業の世紀」

2007年01月03日 | ⇒ランダム書評

 この正月に読んだ「自然産業の世紀」(創森社、編集・アミタ持続可能経済研究所)には考えさせられた。なにしろ、京都にあるこの民間の研究所は自らをシンクタンクと呼ばない。現場主義を貫き行動するシンクタンクだとして、「ドゥタンク」と称している。

  「人類はどこから来て、どこに行くのだろうか」という壮大なテーマを掲げて、持続可能な社会とは何かを徹底して論理的に実践的に追求する、そんなドゥタンクなのだ。設立は2005年7月、京都市上京区室町道にある築150年の京町屋に研究所を構えている。

  本の中身を紹介する。琵琶湖ではブラックバスが幅を利かせている。ルアーでのバス釣りファン(バサー)に分け入って、市民らで構成する「外来魚バスターズ」がスズキのエビまき釣りを応用してブラックバスの大物をどんどんと釣り上げる。バサーたちは釣りの魚信を楽しんでまた湖に放す(C&R=キャッチ・アンド・リリース)。バスターズたちの楽しみは駆除だ。バスの大物が駆除され、その制圧力が失われると、在来魚のフナを中心とするコイ科の中型魚が勢力を取り戻し、ブルーギルや小型のバスを駆逐する。だから、湖の生態系を守るためには大物バスをまず釣り上げ駆除する必要があるのだ。

  バスを湖に放流したのは誰か。琵琶湖と言わず、日本中の湖沼にバスが放たれた。バス釣りブームが起き、儲けた者たちがいる。そして2005年6月に外来生物法が施行され、バスはその一次指定種となる。なぜ法律までつくらなければならなかったのか。これは「密放流の上に成立したブラックバス釣り産業の問題だ」と断じる。そして話は駆除のためのエコマネーへと展開していく。実は、2003年から3年計画で行政が予算をつけ、実際にエコマネーが実施される。すると、ホームレスの人々が琵琶湖に来て、簡単な釣り竿とミミズをエサに外来魚を釣りまくるという「意外な活躍を見せた」とエピソードを紹介している。

  内容は生態系にまつわる事例から、衣料にも及ぶ。京都のある「裁縫カフェ」を話の切り口に、オーガニックコットンの話が展開される。コットン(綿)は栽培に大量の農薬と化学肥料を使い、さらに製品加工に蛍光増白剤などの化学薬品を使用する。この量が半端ではない。しかし、少々コストはかかるが、農薬を使わない栽培方法が進んでいる。スポーツ衣料の最大手・ナイキもこのオーガニックコットンを採用し、2010年までにすべての綿製品を切り替えるという。もう綿衣料の国際的なトレンドは決まっているのだ。

  ところで、タイトルにある「自然産業」とは何か。いまの日本の自然資源を長く継続的に利用して発展させるさまざまな経済活動を定義する。アジア・モンースの恵まれた気象環境の中で、農薬を散布しない安心で安全な米作りを我々の先祖は何千年にもわたってしてきたではないか、そんな風にこの本は読者に語りかける。

  研究所が出版した本というと「机上の物語」の印象が強く、すぐ飽きがくる。しかし、ドゥタンクをめざすだけあって、この本の記述は現場目線に徹していて具体的、かつ面白い。話の切り出しはローカルのネタながら、論理の展開はグローバルに広がっていく。

 ⇒3日(水)夜・金沢の天気  くもり


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