自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~2~

2021年09月06日 | ⇒ドキュメント回廊

   エルサルバドルの芸術家シモン・ヴェガ氏の作品「月うさぎ:ルナークルーザー」は木造の月面探査機が海に向かって飛び出そうとしているイメージだ=写真・上=。珠洲の空き家から出た廃材と、宇宙船という非日常性が一体化したフォルムがなんとも面白い。創作された場は児童公園なので、おそらく子どもたちの人気の的になっているに違いない。ガイドブックによると、「未来は過去の中にある」というヴェガ氏のコンセプトを表現している。そして、作品づくりにあたっては地元の伝説などをよくリサーチしたようだ。

    海が見える歴史の場、生業の場で発想したアートとは何か

   なぜこの海をのぞむ児童公園を創作の場に選んだのか。上記のガイドブックを読んでなんとなくイメージが浮かんできた。この公園の入り口には、万葉の歌人として知られる大伴家持が珠洲を訪れたときの歌碑=写真・中=がある。「珠洲の海に 朝開きして 漕ぎ来れば 長浜の浦に 月照りにけり」。748年、越中国司だった大伴家持が能登へ巡行し、最後の訪問地だった珠洲で朝から船に乗って越中国府に到着したときは夜だったという歌だ。当時は大陸の渤海(698-926年)からの使節団が能登をルートに奈良朝廷を訪れており、大伴家持が乗った船はまさに月面探査機をイメージさせるような使節団の船ではなかったか。ヴェガ氏もこの話を地元の人たちからこの話を聞いて発想し、ここでルナークルーザーを創ったとすれば、歴史の場を意識した作品ではないのか。こうした勝手解釈ができるところが作品鑑賞の楽しみでもある。

   普通の工場なのだが、海が見渡せると発想すると工場全体がアートにもなる。これが芸術作品かと一瞬思ってしまうのが、沖縄・東京・地元珠洲の作家とデザイしたチーム「Noto Aemono Project」が制作した「海の見える製材所」=写真・下=。製材所の海側の壁は透明なアクリル壁に手直しされ、ベンチに座ると海の水平線を望むことができる。

  チ-ムのテーマはもっと深い。製材所という工場の歴史と役割だ。かつて地域の森で育まれ、伐り出された木は建築材として活用されてきた。しかし、安価な輸入木材などが使われるようになり、地域の木が使われなくなった分、山は荒れてクマやイノシシなどがはびこるようになった。地域材の循環という視点からも製材所の果たす役割は大きい。海を前にたたずむ製材所から見える山と里、人と暮らし、自然環境と地域経済の繋がりが見えてくる。海の見える製材所を見出したアーティストの感性が伝わってくる。


⇒6日(月)午前・金沢の天気     はれ


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