「奥能登国際芸術祭2020+」が開催されている石川県珠洲市は能登半島の尖端に位置する。さらに海に突き出た最尖端に「禄剛崎(ろっこうざき)灯台」がある。灯台の近くには、「ウラジオストック 772㎞」「東京 302㎞」などと記された方向看板がある=写真・上=。この看板を見ただけでも、最果ての地に来たという旅情が沸いてくる。別の石碑を見ると、「日本列島ここが中心」と記されている。確かに地図で眺めても能登半島は本州のほぼ中央に位置する。最果てでありながら、列島の中心分に位置するという不思議な感覚が今回のアートでも表現されている。
能登半島を中心に描くジオアート、クジラ伝説を描く考古学アート
市内の多目的ホール「ラポルトすず」のロビーに、加藤力、渡辺五大、山崎真一の3氏によるアーティストユニット「力五山」が創作した「漂流記」が展示されている=写真・中=。アクリル板を使って日本列島と島々を表現し、天井から逆さでつるすことで、周辺の海域や能登半島と大陸の位置関係などを示している。背景の壁面にはユーラシア大陸が描かれ、周辺海域や日本列島の特性、大陸と能登半島の歴史などもゆらゆらと揺れながら浮かび上がる。
「漂流記」という作品タイトルはおそらく、作品全体が館内の空調でゆらゆら揺れることから、あたかも大陸から船に乗って能登半島に渡って来るイメージではないか。能登半島には平安時代に大陸の渤海からの使節団を迎える「能登客院」が置かれ、大陸の玄関口だったとの言い伝えがある。それにしても、実にダイナミックな「ジオアート( Geo Art)」だ。
そして、「考古学アート」もある。 珠洲市には、イルカを祭神の使いとして祀る須須神社があり、同神社前の海にイルカが現れると地元では「三崎詣(まり)り」と呼んで、その姿に合掌する習わしがある。また、同市馬緤(まつなぎ)の海岸には、「巨鯨慰霊碑」がある。明治から昭和にかけて、シロナガスクジラなどが岩場に漂着し、地域の人たちに恵みをもたらした。それに感謝する碑である。こうした海の生き物に感謝する歴史と伝説を調査し、土地の人々からの聞き取りを基に、台湾出身の作家、涂維政(トゥ・ウィチェン)氏は「クジラ伝説遺跡」を創作した。
旧・日置小中学校のグラウンドには、体長10㍍のクジラの骨が出土する考古遺跡がアートとして再現されている=写真・下=。遠い昔の伝説、海の生き物への感謝、そして生命の営みの跡という実感がリアルに迫って来る。骨組みの一つ一つが丁寧に創られ、まさに発掘現場を描く「考古学アート」ではないだろうか。
⇒7日(火)午後・金沢の天気 くもり
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