自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆メディアのツボ-01-

2006年07月24日 | ⇒メディア時評

  マスコミあるいはマスメディア、メディアとも言う。マスコミ業界では「媒体」とも呼ぶ。新聞やテレビのことである。では一体、メディアとは何かと問われるとなかなか端的に表現するのは難しい。そこで、メディアのさまざまなテーマを切り取りながらそのポイントを押さえるという手法で、メディアの全体像がぼんやりとながらでも浮かび上がらせたいと思う。このシリーズを「メディアのツボ」と名付ける。

    「2011年7月24日」問題~上~

 きょう7月24日、東京・霞ヶ関の総務省では総務大臣の竹中平蔵氏をテレビキー局(NHKを含む)の6人の女子アナたちが囲んで「地上デジタル移行まであと5年! カウントダウンセレモニー」を行われた。2011年7月24日に地上アナログ放送が終了するちょうど5年前ということで、銀座数寄屋交差点付近の「モザイク銀座阪急ビル」の広告スペースに「カウントダウンボード」が設置され、そのボードのスタートのボタンを押すというのがセレモニーの内容だった。竹中大臣らのスイッチオンで、カウントダウンボードには「あと1826日」と現れた。この様子は今夜、各テレビ局がニュースで報じていた。  

 セレモニーの席上、竹中大臣は「つい先日、ようやく我が家にデジタル対応のテレビセットを買うことができました。私が買うぐらいだから、相当普及しているということでしょう」と語っていた。社団法人地上デジタル放送推進協会(D-pa)も「今年度にアナログ終了の認知率50%以上、地上デジタル対応受信機の普及2000万台以上を達成する」と目標を掲げていた。では、実際の認知率や普及率はどうか。総務省の3月の調査で、アナログ放送の終了時期を正しく知っている人は32.1%である。さらに、6月末時点での地デジ対応受信機の普及台数は1190万台だ。目標と現実の差はかなりある。キー局の人気の女子アナを並ばせての派手な演出も理解できるような気がする。

  そもそも、なぜ2011年7月24日なのだろうか。総務省北陸総合通信局のホームページによると、平成13年(2001年)の電波法改正で、アナログ周波数変更対策(アナ・アナ変換=デジタル放送用チャンネル確保のためのアナログチャンネル変更)に電波利用料(国費)を当てるための要件の一つとして、アナログテレビ放送による周波数の使用は10年以内に停止することと規定された。

  もう少し詳しく説明が必要だ。アナ・アナ変換は、テレビ電波が過密状態にあるため、アナログからデジタルへの周波数変更の前に必要となる、アナログからアナログへの周波数変換をいう。具体的には、デジタル地上波はUHF13~32チャンネルを使うため、その周波数帯を使っている中継局を、別のアナログ周波数帯に移す。地域によっては家庭のテレビ1台1台のチャンネルを設定し直したり、アンテナを交換した。これには国費850億円が投じられた。つまり、国費を出して周波数を変更する以上は、古いシステムから新たなシステムへの移行が速やかに行われなければならず、古いシステムがダラダラと居座るようなことは困る、というわけだ。そこで、アナログ地上波は切りよく今後10年という期限が設けられた。改正電波法によるアナ・アナ変換計画の公示の日(平成13年7月25日)から起算して10年目の日、つまり平成23年(2011年)7月24日がアナログテレビ放送で使用する周波数の使用期限となったのである。

  ところで、この電波利用料はテレビ局も払っているが、そのほとんどは携帯電話会社が払っている。もともと目的税で使途が決まっていたため、改正電波法で「特定周波数変更対策業務」を新たに追加したのである。2011年7月25日以降、それまでテレビ局が使っていたVHF帯は携帯電話用に開放される見通しで、すでに「取引」は成立しているというわけだ。

  余談だが、改正電波法以前は、「地デジ対応受信機の普及率が85%に達し、放送局のエリア内のカバー率が100%に達するまでは、現行のアナログ波を終了しない」となっていた。この方針に不満を持っていたのはテレビ局側だった。つまり、受信機の普及が進まなければ、デジタルとアナログの同時並行放送(サイマル放送)を果てしなく続けることになり、経営を圧迫する。改正電波法で10年のタイムリミットが設けられ、テレビ局側も胸をなで下ろしたのだ。

  しかし、テレビ業界は安心したかもしれないが、一般の視聴者にそのツケが回ることになる。それは次回で。

 ⇒24日(月)夜・金沢の天気 くもり


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