自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★こだわり農家の未来

2010年11月21日 | ⇒トピック往来
 能登半島の北の方は「奥能登」と呼ばれる。自治体で言えば、輪島市、珠洲市、穴水町、能登町となる。この2市2町の人口は現在7万9100人だが、10年後の2020年には21%減の6万2500人、高齢化率(65歳以上の年齢割合)は46%を占めると予測されている(「石川県長寿社会プラン2009」より)。過疎化が進む理由には、若者の働き場所が少ないなどの条件不利地という面がある。ただ、日本地図を広げて、日本海に突き出た能登半島は実にわかりやすい。「能登産」という食材はスーパーマーケットなどでは通りがよい。

 奥能登で生産された米の販売会が、20日と21日に金沢市にあるスーパー「どんたく金沢西南部店」であった。店頭に並んだ奥能登の米は、海洋深層水を利用したもの、鶏ふんなどの有機肥料を用いたり、棚田ではざ干し、女性たちが耕す棚田米などそれぞれ特徴を打ち出した「こだわり米」なのだ。NPOや農業法人、生産組合など10つの団体が出品した=写真=。

 どのくらいのこだわりかいくつか紹介する。農業法人すえひろ(珠洲市)が耕す田んぼは見ればわかる。一面に稲のじゅうたんの水田で飛びぬけて草(ヒエなど)が生えている田んぼがそれ。「農家では普通3回、除草剤をまくが、うちは1回しかまかないから」(北風八紘さん)。さらに売りは「完熟堆肥」だ。。牛ふんにもみ殻や糠(ぬか)、小豆の殻を入れて混ぜ、それを一冬寝かせて堆肥をつくる。完熟した堆肥は臭みがほとんどない。この堆肥を、苗を植える前の春先に田んぼに混ぜて土づくりを行う。いまでは350戸から耕作委託を受け、水田を65㌶に広げている。

 川原農産(輪島市)のこだわりは、米も人間と同様に「伸び伸びと元気良く育てる」をモットーとしてる。稲株の間隔を広げ、葉っぱを伸ばさせる植え方をしている。一坪(3.3平方㍍)で45株が目安だ。普通は60から70株と言われるので、随分ゆとりある環境だ。自家製の堆肥は米糠ともみ殻を使い、田んぼに還元するやりかた。売れ筋は「能登ひかり」だ。一昔前まで能登の気候に合う品種ということで生産されていたが、モチモチ感のあるコシヒカリに押されて生産する農家は少なくなった。ところが、京都や大阪といった関西の寿司屋から見直されている。「ベタベタとした粘りがない分、握りやすく、食べたときにも口中でパラッとバラけるので、寿司によいのだという」(講談社新書『日本一おいしい米の秘密』)。さらに、このバラける食感がスープ料理にも合うということで、川原農産の能登ひかりは金沢市のレストラン「ポトフぅ」(同市里見町)で使用されている。

 さらなるこだわりが、川原伸章さんにはある。「能登の米がおいしいのは、新潟・魚沼地方と同じ緯度にあるからって、よく農家自身が説明するでしょう。でも、こんな表現をしたらいつまでたっても能登の米は魚沼を超えられない。一番になれない」と心意気にもこだわる。川原農産も耕作委託を受け、水田を20㌶に広げている。平地に比べ、条件不利地であるがゆえに奥能登の生産農家はこだわらなければ生きていけない。その精神がものづくりのマインドを高める。

 TPP(環太平洋経済協定)の論議が白熱している。加盟国間で取引される全品目の関税が2015年を目標に撤廃される。もし日本がTPPに加盟すれば、農家が生き抜く道は2つだろう。経営の大規模化か、黒毛和牛のような高品質の「こだわり農産品」だろう。面白いことに、先に紹介した「すえひろ」「川原農産」のように、こだわった米づくりに挑戦し続ける農家には耕作委託が舞い込み、期せずして経営規模も広がる傾向にある。これは奥能登だけでなく全国の傾向だろう。TPP時代のパイオニアとして光り輝き、生き抜くのはこうした「こだわり農家」ではないだろうか。そんなことをスーパーの店頭で思った。

⇒21日(日)夜・金沢の天気  はれ
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