自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「見せたくないTV番組」

2006年06月30日 | ⇒メディア時評

 先日、あるテレビ系列のキー局から事業報告書が郵便で届いた。放送業界の動向を理解するために株を持っている。送られてくる事業報告書はいわば株主向けの1年ごとの業績報告だ。それによると昨年度の売上高2493億円、経常利益173億円となっていて、ここ5年間でともに最高ある。この数字で見る限り、すでに株式公開(2000年10月)で得た手元資金でデジタル化を乗り切り、経済循環の好転を受けて巡航速度で母船(キー局)は走り出している、との印象だ。

   今回この話題を取り上げたのは、好調な業績に拍手を送るためではない。ちょっとした問題提起をしたかったからだ。事業報告書の3㌻目にテレビ放送事業という欄があり、レギュラー番組の中から高視聴率の番組が写真付きで紹介されている。少々違和感があったのは、火曜日夜9時の「ロンドンハーツ」である。「平均14%を超える高い視聴率をマークした」との説明がある。が、先月18日付の新聞各紙にはまったく反対の評価が掲載されている。

  その内容は、日本PTA全国協議会が小学5年生と中学2年生の保護者らを対象にした「子どもとメディアに関する意識調査」で、子どもに見せたくないテレビ番組の1位が3年連続で「ロンドンハーツ」、見せたい番組の1位は「1リットルの涙」だった。見せたくない理由は「内容がばかばかしい」「言葉が乱暴である」、と。

  PTAの調査内容をもう少し細かく紹介すると、「ロンドンハーツ」は親の12.6%が見せたくない番組に挙げ、素人参加のトーク番組「キスだけじゃイヤッ!」(8.3%)やバラエティーの「めちゃ×2イケてるッ!」(8.1%)を大きく引き離している。若者には14%を超える人気番組かもしれないが、子を持つ親には「二桁もの反感」を買っているのである。かつて見た番組の印象では、女性タレントが言い争うコーナー「格付けしあう女たち」が人気のコーナーだが、冷静に考えば、ギスギスした人間関係を助長し、「だからそれが何だ」と思いたくもなるシーンもままある。

  大学に勤める身だからといって、何も堅物になっているわけではない。実は、日本小児科学会は2004年4月、児童の言葉の遅れや表情が乏しい、親と視線を合わせないなどの症状を抱えて受診する幼児の中にテレビやビデオの長時間視聴する子どもがいることを指摘して、「2歳までのテレビ・ビデオ長時間視聴を控える」「授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴は止める」「子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パソコンを置かない」などの提言をまとめた。

  この提言以来、月刊誌「COMO」(主婦の友社)などの子育て雑誌には盛んに子どもの発達とテレビ、あるいはテレビゲームとのかかわについて特集が組まれるようになった。ちなみに最新の「COMO」(8月号)では「子どもとテレビ&ゲームどうつきあわせる?」の特集が掲載されている。子どもを持つ親は食の安全の問題と同等に、心の発達の問題としてテレビやテレビゲームに気を使うようになってきている。また、子育てを目的にしたNPOなどが提唱して、テレビを視聴しない日をつくる「ノーテレビデー」を実施する動きが各地で広がっているのだ。

 つまり、テレビが子どもに与える影響について親たちが深刻に考え、一部では行動を起こしていると言いたかったのである。

  テレビ局側は「頭の固いPTAが感情論で…」などと軽んじないほうがよい。子どもを持つ親たちは感情論ではなく、医学や発達心理学の論拠を得て理詰めで考えている。業を煮やしたPTA全協が「物を言う」一株株主になって、「3年間も連続でワースト1と指摘されているのに、なぜ改善しない。学童を持つ視聴者の声を聞け」などと突っ込んできたらどう対処するのだろうか。

 ⇒30日(金)夜・金沢の天気  あめ    

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする