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韓国内の映画 週末の興行成績 [1月24日(金)~1月26日(日)]と、人気順位 ►「リチャード・ジュエル」は期待通り。数多くの冤罪事件が現実に数多くあることを認識しましょう!

2020-01-28 23:58:17 | 韓国内の映画の人気ランク&興行成績
▸この1週間もグッと抑えて観た映画は「リチャード・ジュエル」だけ。で、やっぱりクリント・イーストウッド監督作品に裏切られることはありませんでした。テーマも構成もわかりやすく、主人公の側に感情移入できる作品で、観た人たちの高評価もうなずけます。
 テーマは冤罪なのですが、事実に基づいた作品という点では過去の冤罪関係の映画の多くと軌を一にしています。たとえばサッコ=バンゼッティ事件を扱った「死刑台のメロディ」(1970)のように。また「リチャード・ジュエル」によく似たマスメディアによる誤報道が大きな要因となった点で共通しているのが松本サリン事件ですが、これは「日本の黒い夏 冤罪」(2000)として映画化されました。その他、松川事件・帝銀事件・名張毒ぶどう酒事件・袴田事件・狭山事件・菊池事件等々が映画化されています。その中には菊池事件のようにもしかしたら間違って死刑にされてしまったものも含まれています。悲劇に終わらないでよかったという映画の背後に、多くの悲劇が過去だけでなく現在もあるということを多くの人に認識してほしいと思います。(袴田事件など、ふつうに考えても無罪なのに、いまだに決着をみないのはなぜなんでしょうか?)

▸韓国では1月25日(土)が旧正月で、24日(金)~27日(月)が4連休。後述のように期待の新作がどっと登場し、韓国映画が興行成績のベスト3を独占しました。
 その第1位「南山の部長たち」は早くも観客動員数200万人を超える好調なスタート。1979年10月朴正熙大統領を暗殺した中央情報部部長金載圭(キム・ジェギュ)の側に重点を置いて1961年の5.16軍事クーデター頃から暗殺までをたどった作品のようですが、虚実が入り混じっていてその判別がむずかしそうです。日韓を問わないかもしれませんが、概して観客は映像を事実として受けとめる傾向が強そうな点が懸念されます。<NAVER映画>のネチズンの寸評を見ると、否定的評価とともに「自分の知ってる史実と違う」というものもあったり、「現在の政権は朴正熙大統領を貶めるため、金載圭を英雄として持ち上げようというのか!?」「2016年の総選挙前には「インサイダーズ/内部者たち」が公開されたが今度はこれか?」「親北の「白頭山」に続いてこれも・・・」といったカキコミも相当数ありました。以前も書いたことがありますが、日本人がそれと気づかない歴史物にも韓国を二分する進歩系と保守系の観方の違いが込められている例はいくつもあって、この作品もどうやらそのひとつかもしれません。
 ※<ナムウィキ>の「남산의 부장들(南山の部長たち)」の項目(→コチラ)に、<事実との違い>が全25項目記されています。

▸ごく最近の韓国映画関係の情報で一番うれしかったのは、ようやくキム・ボラ監督(女性)による話題の作品「はちどり(벌새)」が4月日本公開されると決まったこと。→昨年9月4日の記事で初めて紹介した時「注目は10位「ハチドリ」!」と書いて以来5ヵ月近く。国内の映画祭で上映されないか、ずっと期待していたのに何度も裏切られ、しかたないからソウルで上映している間に観に行ってくるか、とあきらめかけていたところでした。この作品は、2018年の第23回釜山国際映画祭で最優秀アジア映画賞・観客賞を受賞して以降、第69回ベルリン国際映画祭のジェネレーション14プラス部門でグランプリの受賞をはじめ、これまで世界の映画祭で世界の映画祭で44以上の賞を受賞する等、非常な高評価を得てきました。[以下は昨年9月の記事から] 物語の時代は1994年。主人公は14歳の女子中学生ウニ(パク・ジフ)。彼女は周囲から愛されるために、世界と自分だけの関係を構築していきます。タイトルの「はちどり」は、愛されるのは下手だが不断の努力をするウニを1秒に90回羽ばたきをするハチドリに喩えているようです。そんな彼女に進むべき道を示してくれた<航海士>が漢文学院のキム・ヨンジ先生(キム・セビョク)でした・・・。なぜ1994年かというと、(監督によれば)聖水大橋が崩落した年を背景に作ろうと考えた、とのこと。また、その事件がウニが結んでいた関係の崩壊につながり、また韓国社会でいくつもの崩壊が起こる時、彼女がどのように生を乗り越えていくのかを示すことが重要だったとも・・・。とくにドラマチックなストーリーが進行するという作品でもない?ようですが、多くの観客はウニの物語が当時の自分の話のように共感したとのこと。映画評論家ソン・ヒョジョンは「エドワード・ヤンの初期作品が思い浮かぶ」と評していますが、キム・ボラ監督自身も「ヤンヤン 夏の想い出」を参考にした」そうで、また「一個人が主人公ではなく、互いに影響を及ぼしあう形が似ていたらと思った」と語ったそうです。評論家や映画記者の評を見ると、「一番平凡な少女が書いた大叙事詩」(イ・ジヘ)、「個人の経験談が普遍の感性として拡張される魔法」(チョン・ジウ)、「時代のしわを広げてアイロンがけした回想の映画。その頃願ったことを今聞かせる、幻想の映画」(ソン・ギョンウォン)、「デビュー作で驚くべき世界観、加えてしっかりした女性の視線を見せてくれたキム・ボラ監督の出現は、それ自体で韓国映画の事件として、より良い未来に記録されるに値する」(イ・ファジョン)等々。
 ※「はちどり」の日本公開情報は→コチラと、→コチラ

         ★★★ NAVERの人気順位(1月28日現在上映中映画) ★★★

     【ネチズンによる順位】
       ※[記者・評論家による順位]とも、評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
        「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。

①(1) 泣くな、トンズ2:シュクラン ババ(韓国)  9.76(116)
②(2) モンマルトルのパパ(韓国)  9.76(87)
③(3) フォードvsフェラーリ  9.53(7,456)
④(4) 主戦場  9.51(1,338)
⑤(5) ヘロニモ(韓・米)  9.46(236)
⑥(新) スパイズ・イン・ディズガイズ  9.42(924)
⑦(新) 娘は戦場で生まれた  9.42(60)
⑧(9) 2人のローマ教皇  9.38(494)
⑨(7) 星の庭園(韓国)  9.37(199)
⑩(10) タバルガと氷姫  9.35(108)

 ⑥と⑦の2作品が新登場です。
 ⑥「スパイズ・イン・ディズガイズ」(仮)については後述します。
 ⑦「娘は戦場で生まれた」は、シリア・イギリス合作のドキュメンタリー。昨年のカンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した注目作です。ジャーナリストに憧れるシリア・アレッポ大学の女子学生ワアド・アルカティーブは、2011年アサド政権に対するデモ運動への参加をきっかけにスマホでの撮影を始めます。しかし、内戦は激化の一途を辿り、都市は破壊されていきます。そんな中、ワアドは医師を目指す若者ハムザと出会いました。彼は仲間たちと廃墟の中に病院を設けて空爆の犠牲者の治療にあたっていましたが、多くは命を落としていきます。そんな中で2人は夫婦となり、女の赤ちゃんが誕生します。ワアドは自由と平和への願いを込めて、アラビア語で“空”を意味するサマと名付けます。アサド政権側の攻撃が激しさを増し、ハムザの病院は街で最後の医療機関となります。ワアドはその間スマホで内戦とその中での人々の苦しみや自分たち家族の生活等を映像を撮り続けました。この作品は彼女が6年間にわたり撮影した映像を共同監督のエドワード・ワッツ監督と共に編集したもので、「シネ21」の記者の「血と闘争の現場で書いた育児日記」という言葉がまさにぴったりです。なお、ワアドは2016年家族と共にアレッポから避難して、現在は夫と2人の娘と一緒にロンドンに住んでいます。韓国題は「사마에게(サマへ)」。日本公開は2月29日で、すでに→公式サイトが用意されています。

     【記者・評論家による順位】

①(1) 燃え立つ若い女性の肖像  9.22(9)
②(2) アイリッシュマン  9.11(9)
③(3) パラサイト 半地下の家族[寄生虫](韓国)  9.06(16)
④(新) 小さな光(韓国)   8.67(3)
⑤(4) マリッジ・ストーリー  8.50(2)
⑥(5) はちどり(韓国)  8.38(13)
⑦(-) ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド  7.90(10)
⑧(-) ジョーカー  7.64(11)
⑨(7) フォードvsフェラーリ  7.63(8)
⑩(-) キム君(韓国)  7.57(7)

 ④「小さな光」が新登場です。韓国では昨年「私たちの家」「はちどり」「なまず」といった独立系映画が注目されましたが、本作もその後をうけて、2018年の第44回ソウル独立映画祭でトクプル将軍(=一匹狼)賞を受賞し、第7回茂朱(ムジュ)山谷映画祭ではニュービジョン賞(大賞)と映画評論家賞を同時受賞した注目作です。脳の手術を間近に控えたジンム(クァク・ジンム)は、手術の後に記憶を失うかも知れないという医師の言葉を聞いて、バラバラになっていた家族たちの姿等々、忘れたくないものを一つ一つビデオカメラに収め始めます。そうしているうちに、家族との思い出、そして今まで思い出すことのなかった父への思い出が蘇ってきます・・・。

      ★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績1月24日(金)~1月26日(日) ★★★
           1~3位を「南山の部長たち」以下韓国映画が占める

【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(36)・・南山の部長たち(韓国)・・・・・・・1/22 ・・・・・・・2,012,079 ・・・・・2,604,693 ・・・・・・・23,257・・・・・・1,659
2(22)・・ヒットマン(韓国)・・・・・・・・・・・1/22・・・・・・・・・928,776 ・・・・・1,146,204 ・・・・・・・10,202・・・・・・1,121
3(41)・・ミスター・チュ:消えたVIP(韓国)・・1/22・・・・289,296・・・・・・・393,862 ・・・・・・・・3,378 ・・・・・・・692
4(新)・・スパイズ・イン・ディズガイズ・・1/22 ・・・・・・・174,652・・・・・・・233,833 ・・・・・・・・1,969 ・・・・・・・712
5(1)・・傷つけない(韓国)・・・・・・・・・・・・1/15・・・・・・・・・130,975 ・・・・・1,128,520 ・・・・・・・・9,522 ・・・・・・・603
6(3)・・ドクター・ドリトル ・・・・・・・・・・1/08・・・・・・・・・・42,331 ・・・・・1,573,165 ・・・・・・・13,194 ・・・・・・・352
7(2)・・バッドボーイズ フォー・ライフ・・1/15 ・・・・・・28,963・・・・・・・513,818 ・・・・・・・・4,620 ・・・・・・・302
8(7)・・燃え立つ若い女性の肖像・・・・・・1/16・・・・・・・・・・16,332・・・・・・・・73,383・・・・・・・・・・625・・・・・・・・90
9(4)・・白頭山(韓国) ・・・・・・・・・・・・・・・12/19・・・・・・・・・・11,191 ・・・・・8,242,747 ・・・・・・・69,750 ・・・・・・・123
10(新)・・オズの魔法使い・・・・・・・・・・・・1/22・・・・・・・・・・10,865 ・・・・・・・15,426 ・・・・・・・・・・123 ・・・・・・・251
       :妖術の靴と話す本
     ※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。

 この3週間はベスト10中2作品ずつしか入れ替わりがなかったのが、今回は1~4位と10位の5作品が新登場。旧正月の連休を見越して満を持していたということでしょうか。
 1位「南山の部長たち」は、1979年10月26日朴正大統領が側近の中央情報部(KCIA)部長金載圭(キム・ジェギュ)によって射殺された事件を、金載圭を中心に据えて事実と推測や虚構を織り交ぜつつ描いたドラマ。したがって実在の人物が多数登場しますが、実名は後に大統領になった金泳三だけで、金載圭はキム・ギュピョン、朴正熙はパク・トン、国軍保安司令官だった全斗煥はチョン・ドゥヒョク、金載圭の前の中央情報部長だった金炯旭(キム・ヒョンウク)はパク・ヨンガクと別の名前を用いています。以下はあくまでも本作の概要です。1979年10月26日、中央情報部長のキム・ギュピョン(イ・ビョンホン)がパク・トン大統領(イ・ソンミン)を暗殺します。この事件の40日前、前中央情報部長パク・ヨンガク(クァク・ドウォン)がアメリカでの聴聞会の場で全世界にパク政権の実態を告発して波紋を起こしていました。それに対処するためキム・ギュピョンと警護室長のクァク・サンチョン(イ・ヒジュン)が出向き、大統領の周辺には忠実な勢力と反対勢力が入り混じってぶつかり始めます・・・。原題は「남산의 부장들」です。
 2位「ヒットマン」は、韓国のコメディ&アクション。秘密プロジェクト<バンペヨン(長凧)>出身の伝説の暗殺要員ジュン(クォン・サンウ)が国家情報院を辞めたのはウェブトゥーン作家つまりネット漫画家になりたかったから。しかし、現実は連載漫画を描く度に誹謗中傷を浴びるばかりです。ある時酔った勢いで描いてはいけない1級機密を描いてしまい、ウェブトゥーンは思わぬ超大当たりになりますが、そのためにジュン国家情報院とテロリストからダブルターゲットになってしまいますが・・・。原題は「히트맨」です。
 3位「ミスター・チュ:消えたVIP」は、韓国のコメディ&ドラマ。国家情報局のエース要員テジュ(イ・ソンミン)は、特使として派遣されたVIPの警護の任務にあたっていましたが、突然の事故でVIPはいなくなり、さらに悪いことに動物たちの鳴き声が言葉として聞こえ始めます。突然奇妙な行動をするテジュを疑うミン局長(キム・ソヒョン)とマンシク(ペ・ジョンナム)を後に残して、テジュは軍犬アリと一緒にVIPの行方を追いますが・・・。なんか目下上映中の「ドリトル先生~」と「傷つけない」をミックスしたような? 原題は「미스터 주: 사라진 VIP」です。
 4位「スパイズ・イン・ディズガイズ」(仮)は、アメリカのアニメ。SFアクション、コメディ等々いろんな要素が織り込まれた作品です。全世界を脅かす違法な武器取引情報を入手したスパイエージェントは、スーパースパイのランスを派遣します。ところが最先端の装備で武装した正体不明の極悪人キリアンはランスに偽装して武器を盗み、彼をわなに陥れます。武器を盗んだ濡れ衣を着せられ、スパイエージェントにまで追われることになったランスは、キリアンに対抗するためにMIT出身の超秀才ウォルター(トム・ホランド)を訪ねて行きますが、ランスはそこで実験中の謎の液体を飲んで一瞬にして無数の鳩に変身してしまいます。1人では世界を救うことができない鳥になったスパイのランスは、力を合わせれば、世界を救うことができると信じるウォルターと組んで特級のミッションを開始するのですが・・・。韓国題は「스파이 지니어스」。日本公開は未定のようです。
 10位「オズの魔法使い:妖術の靴と話す本」は、ロシアのアニメ。名作「オズの魔法使」(1939)の主演女優ジュディ・ガーランドに焦点を当てた「ジュディ 虹の彼方に」(日本公開3月)が話題になっていることとは関係ない、のでしようね。まあ元はといえばライマン・フランク・ボームが1900年に刊行して以来1世紀以上も世界で親しまれてきた児童文学作品が原作なので、どこの国がアニメを作っても気にする方がおかしいかも・・・。で、物語の舞台はもちろん神秘的な魔法の世界オズ! 貪欲狡猾な悪役オピンは王になるために邪悪な計画を立ててエメラルドシティを危険に陥れます。このニュースを聞いて、ドロシーはティムと仲間たちと共に再び幻想の世界へ旅立ちます。ドロシーの強固な支援軍ブリキの木こりや弱虫ライオン、そしてカカシと力を合わせてオピンのたくらみ防ぐためには、いくつものわなを通過しなければならないのですが・・・。韓国題は「오즈의 마법사: 요술구두와 말하는 책」です。

【独立・芸術映画】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・・・上映館数
1(1)・・燃え立つ若い女性の肖像 ・・・・・・・・1/16・・・・・・・・16,332・・・・・・・・・73,383 ・・・・・・・・・625 ・・・・・・・・・90
2(3)・・ロイヤルコーギー ・・・・・・・・・・・・・12/24・・・・・・・・・4,340・・・・・・・・199,386・・・・・・・・1,503 ・・・・・・・・・・9
3(2)・・パヴァロッティ ・・・・・・・・・・・・・・・・1/01・・・・・・・・・2,407・・・・・・・・・43,280 ・・・・・・・・・346 ・・・・・・・・・21
4(新)・・エリック・クラプトン~12小節の人生~・・1/23・・1,972・ ・・・・・・・・3,198 ・・・・・・・・・・25・・・・・・・・・・24
5(4)・・ギャング(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・1/16 ・・・・・・・・・1,204・・・・・・・・・・6,779 ・・・・・・・・・・19・・・・・・・・・・・3

 4位の「エリック・クラプトン~12小節の人生~」が新登場です。日本ではすでに2018年11月公開されています。韓国題は「에릭 클랩튼: 기타의 신」です。


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