ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国が実質的死刑廃止国である理由

2013-08-12 11:46:44 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 久しぶりの記事アップ。
 「散らかった部屋でのびているんじゃないか」等々気にかけて下さった皆さん、ご心配をおかけしました。
 慰安婦問題という気が滅入るような案件について記事を書きかけたこと、小説「28」がおもしろくイッキに160ページくらいまで読んだこと(全部で500ページ)、そして猛暑が空白の5日間の原因です。

 で、その慰安婦問題以外のテーマに差し替えました。しかし硬いテーマである点は同じ。

 過日<無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会>から会報「キラキラ星通信」82号が送られてきました。
 そこに6月9日の公開学習会での菊田幸一明治大学名誉教授(弁護士)の講演記録が載っていました。
 「今の日本で、死刑を、少なくとも執行停止を実現するためには、終身刑が必要」という持論が講演の主旨ですが、関連事項として死刑を取り巻く諸条件の例として韓国の死刑執行停止と、テキサス州の終身刑採用の状況を紹介しています。

 韓国の死刑をめぐる状況については、本ブログでも2011年11月~12年6月<韓国の死刑制度と、連続大量殺人事件>と題して次の4回に分けて記事にしました。
(1)制度と歴代政権の姿勢
(2)韓国の世論は?
(3)過去の大量殺人事件
(4)日本と韓国の状況

 要点だけ整理しておきます。

①韓国では、1997年12月30日に23名の死刑を執行(金泳三政権の時)して以来、現在まで執行されていない。最後の執行から10年後、アムネスティ・インターナショナルは実質的死刑廃止国として認定した。(しかし死刑は廃止されてはいないままで、この間の死刑判決は下されている。)  

②21世紀に入ってからだけでも、韓国は2003~04年21人を殺害した柳永哲(ユ・ヨンチョル)事件[←映画「チェイサー」の素材]、2004~06年13人を殺害し、20人に重傷を負わせたチョン・ナムギュ事件、2006年12月~08年女性7人を拉致・暴行・殺害したカン・ホスン事件のような大量連続殺人事件が起き、死刑執行再開を求める声はアンケート調査でも多数を占めている。
※2012年10月の「ファイナンシャル・ニュース」の記事によると、「大学生573人を対象とした調査で、死刑執行賛成は76%、反対は12%」だった。

③このような世論にもかかわらず、死刑が執行されない理由・背景としては、以下のことがあげられる。
[a]朴正熙政権の時、無実と思われるような民主化運動闘士が死刑になった過去があり、そして自身がかつて死刑判決を受けた金大中が大統領になった
[b]韓国が死刑を執行すると、死刑否定が基本方針の国連で、潘基文事務総長の立場を苦しくする。
[c]韓国社会で大きな影響力を持つキリスト教団体が死刑制度を撤廃することを要請している。仏教界からも死刑廃止を求める声が高い。


 さて、菊田幸一教授の講演内容ですが、韓国の執行停止について上記(a)(b)の事由を挙げるとともに、実際に「韓国に行って初めてわかった」こととして以下のことを語っています。

 韓国は、犯罪人引渡し条約をヨーロッパと批准している。  
 ところが、その条約には特例がある。
 たとえば、韓国内で殺人を犯してヨーロッパのある国に逃げた者がいたとして、韓国がその国に殺人者の引渡しを要求しても、死刑になるような凶悪な犯罪を犯して逃げた者を、死刑があるような国には戻さない、という特例である。
 なぜ韓国がこのような条約を締結したか? それは貿易協定のためである。犯罪人引渡し条約を批准しないと貿易協定を結べないというものなのだが、韓国はヨーロッパとの自由貿易を優先してこの条約を批准した。


 ・・・というもの。私ヌルボ、これは初耳という情報については極力クロスチェックして確認しているのですが、この件については日本・韓国のサイトで検索してみたものの未確認のままです。
 なお、日本は「刑を言い渡された者の移送に関する条約」は批准しているが、「犯罪人引渡し条約」は批准していないとのこと。
 とすると、今後貿易協定交渉が進展すると、関連して日本国内の死刑についてもなんらかの影響が及ぶ可能性があるということなのでしょうか?
ウィキペディアによると、「日本が犯罪人引渡し条約を結んでいる国はアメリカと韓国の2か国だけであり、 これは世界的に見て極めて少ない部類に属する」とあります。  
 靖国神社の門に放火して韓国に逃亡、さらにソウルの日本大使館にも火炎瓶を投げ込んで逮捕され、韓国で服役していた中国人の身柄引渡しを日本が請求していたのもこの条約によるもの。今年1月ソウルの高裁が条約に定める送還の対象外と認定して引渡しを拒否、中国人を釈放したことは記憶に新しい(かな?)。


 以前の記事の続きということで、朴槿恵大統領の死刑に対する見解について。
 菊田幸一教授が語ったところによれば、死刑についてどう思うかと問われて、彼女は「死刑についてそんなに特段な考えをする、変える必要がどこにありますか」と答えたそうです。つまり、執行停止状態を続けるということ。
 ヌルボ思うに、朴正熙政権下では473件もの死刑が執行されていて、それが民主化運動の弾圧等にも用いられたということが朴槿恵大統領に意識されているかも・・・。その中には1975年に8人が死刑判決が下され、18時間後に執行された人民革命党事件という「司法による殺人」もあったからなー。
 ※[参考]各政権下の死刑執行数(出典:<ハンギョレ21>の記事)
李承晩\t258
許政 \t0
尹譜善\t22
朴正熙\t473
崔圭夏\t0
全斗煥\t71
盧泰愚\t38
金泳三\t57
金大中\t0
盧武鉉\t0
李明博\t0

 菊田教授の話の中で、もう1つ私ヌルボが知らなかったことは、李明博前大統領の時から死刑囚が一般の刑務所に移されたということ。
 それまでは、韓国は基本的に日本の刑法が基本になっているから、日本と同じく拘置所に死刑囚がいる、ということでした。(死刑確定者は、刑を執行されるまでは「未決囚」なので懲役等は科せられず、拘置所に収容されている。) ところが韓国では、死刑囚の中から、処刑されるまで何もしないでじっとしているのはイヤなので働かせてくれという希望が出てきたので、それを容れたとのことで、刑務所で死刑囚を示す赤札をつけて働いているのだそうです。「そういう状況の中で、たとえばAさんを死刑にするって時に、じゃ工場から拘置所の処刑場まで運んで、そこで処刑できるか、そうそんなことは事実上できなくなる」というのが菊田教授の見解。

 今日本は、慰安婦問題をめぐる問題で「狭義の強制連行はなかった」ということにこだわるあまり、国際社会の「空気が読めなかった」ことにようやく気づき始めたようですが、もしかしたら、いつの間にか死刑廃止が「世界の常識」になっていて、存続によって不利を被る事態になっているかもしれません。(すでに「世界の常識になってきている」と言えると思います。)
 ヌルボとしては、世界の動向と関係なく、以前の記事で記したように別の理由で死刑には反対です。また自分たちが考えて「正しい」と判断したならば、不利を被っても存続するのが正しいでしょう。
 [2014年8月の追記]いずれにしろ、「当事者意識」をもつことが必要、というのが私ヌルボの意見です。日本人であれば皆死刑のスイッチを手にしているということを自覚しなければ・・・。裁判員になって死刑の裁判に関わるのが負担と言う人は、死刑存続国の一員であることは負担ではないのかな? 死刑を肯定するのなら、しんどくてもやり抜くのが責任感では? (裁判員だけでなく、死刑執行員も国民から選ぶという案はいかがか? 皮肉でも冗談でもなく、マジな提案です。)
コメント
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