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韓国の死刑制度と、連続大量殺人事件 (1) 制度と歴代政権の姿勢

2011-11-21 23:54:43 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 うーむ、このところめっちゃ忙しいぞ! 今年4回目くらいの大波か?
 うち3割くらいは自分で忙しくしちゃってるんですけどね。

 たとえば昨日。茅ヶ崎で開かれた韓国のドキュメンタリー映画「赦し - その遥かなる道」の上映会に行ってきました。
 しかしお客さんの方ではなくて主催者側だから、無事にやらないと社会的指弾を受ける(!)ということで、映写担当の私ヌルボとしては、専門映写技師というわけでもないし、緊張しまくら千代子。まあトラブルなくてよかったです。

 それから資料作成も担当。資料といっても、B5版6ページ。そんなに分量はないですけど・・・。

      
         【映画「赦し」のDVDケース】

 映画の内容は、殺人事件被害者遺族3組についてのドキュメンタリーです。中でも中心は高貞元(コ・ジョンウォン)さん。2003年に21人(以上?)を殺害した無差別連続殺人犯・林永哲(ユ・ヨンチョル)に母・妻・息子の3人を殺され、人生に絶望して自殺しようと漢江の橋に立った時、啓示のように「加害者を赦そう」と考えるようになり、死刑に反対する運動とともに、被害者遺族同士の癒しのための活動を始めた人です。一方、同じ林永哲に兄を殺され、その後2人の弟も自殺で失った男性アン・ジェサムさんは激しい復讐心を持ち続けています。もう1人の犠牲者は、元恋人に殺された若い女性。しかし彼女の母は、娘の遺影に加害者の遺影も並べ、2人の冥福を祈っています・・・。
※この映画の公式サイトは→コチラ

 あ、主催団体はアムネスティの湘南グループですよ。アムネスティは死刑に反対している国際人権団体ですが、ヌルボの知るかぎり会員だからといって必ずしも死刑に反対、という人ばかりでもありません。当グループとしては、死刑の是非以前に、まずいろんな事実、さまざまな情報をもっと知らせるべきだろう、と考えてこの映画上映を企画したというわけです。もとは韓国SBSテレビの番組で、死刑反対派にありがち(?)な押しつけがましさはあまり感じられない映画だし・・・。

 ・・・ということで、私ヌルボが資料としてまとめたのが「韓国の死刑制度」について。
 映画についての感想を述べる前に、まずその内容を略述します。実をいうと、安直にウィキペディアに依拠して書いた部分が多いので恥ずかしいのですが・・・。

   【韓国の死刑制度】 

 韓国は法的には死刑制度がある。
 執行方法は一般の刑法では絞首刑、軍の刑法による死刑は銃殺刑と定められている。満18歳未満には死刑ではなく15年以下の懲役が課される。身体障害者と妊婦の死刑は猶予される。また国家反逆罪では最高刑は死刑である。
 死刑の執行は法務部長官(日本の法務大臣に相当)の命令による。長官が死刑執行命令を出せば5日以内に執行される。大統領には恩赦権があり、過去死刑囚を無期に減刑したことは多くあった。(※1990年大韓航空機爆破事件実行犯の金賢姫死刑囚に対し、盧泰愚大統領は特赦の決定を下した。)
 過去1949~97年に、計920名に死刑を執行した。しかし1997年12月30日に23名の死刑を執行(金泳三政権の時)して以来、2011年現在まで執行されていない
 2007年12月30日、最後の執行から10年経過したことを根拠にアムネスティ・インターナショナルは実質的死刑廃止国として認定した。
※死刑を廃止するよう刑法が改正されたわけではないので、死刑判決は現在も下されている。(2011年9月現在の死刑囚は60名)。

   【歴代の政権と死刑制度】

李承晩政権やその後の長い軍事政権下で、死刑が政治犯に使われてきた歴史がある。政敵を抹殺する手段とされたこともあった。このことから、民主化後は政治家の中にも廃止論が増えた。
※2006年2月に金大中前大統領がアムネスティに送った書簡の中で「憂慮すべきことは独裁者が 民主主義の主唱者や政治的反対者を弾圧し、追いやる手段として死刑制度を悪用した事例が数多くあるということだ」と訴えている。

○キリスト教徒の金大中、盧武鉉政権は死刑の廃止に前向きの方針をとった。 
 ※金大中は、1980年光州事件の首謀者等の理由で軍法会議で死刑判決。82年に全斗煥内閣により無期懲役に減刑、米国への出国を条件に刑の執行を停止された。
 ※全斗煥は光州事件弾圧によりは第一審で死刑判決。第二審、最高裁では無期懲役に減刑。刑の確定後、97年に金泳三大統領の特赦で釈放された。

虞武鉉大統領は、死刑廃止を公約に掲げて当選した。2004年与党(ヨルリン・ウリ党) 柳寅泰(ユ・インテ)議員が死刑制度廃止特別法案を国会に提出、この法案には与野党議員175人が署名した。05年4月には国家人権委員会が死刑廃止を勧告。06年法務部は死刑廃止・絶対的終身刑の導入検討のための公聴会を行う予定だったが結論は出なかった。(法務部は廃止には消極的であるためといわれる。)

李明博大統領は、候補者時代に「犯罪を予防するという国家としての義務を果たすため、死刑制度は維持しなければならない」と明言した。しかし次のような事情もあって、執行再開には至っていない。
・1985年以後、事実上の死刑廃止国となった国の中で、その後執行を再開した国がないため、もし韓国が再開すると外交的に強い圧力を受けるようになるとして、韓国の死刑執行モラトリアムは継続されるとの指摘もある。
・国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は07年、死刑制度についてあいまいな回答をして窮地に追い込まれた。ある記者の「サダム・フセイン元イラク大統領は処刑されるべきか」との質問に、「彼は残酷な犯罪を犯し、イラク人に暴政を行った責任がある。死刑は各国が決める問題だ」と答えた。欧米のメディアは、「潘総長の答えは、人権に基づき死刑に反対する国連の基本的立場とは異なる」と指摘したが、その後すぐに、潘総長が死刑制度を維持している韓国出身だという事実が取り上げられた。(韓国が死刑執行を再開すると、潘基文事務総長の立場を苦しくする。)

☆憲法裁判所はこれまで4度にわたって死刑存廃問題を審理してきた。
 1996年には7対2で死刑制度は合憲とされた。
 2010年2月25日には合憲5対違憲4(うち1人は一部違憲意見)で合憲とする決定をした。


 ・・・「死刑は各国が決める問題」という発言も、「死刑を否定していない」と批判する、というヨーロッパ諸国の<常識>は、すでに世界の<常識>となりつつある、とみていいのでしょうか?
 一方、死刑存置派が増えているといわれる日本同様、韓国でも一般国民の過半数は死刑の存置に賛成しています。そして凶悪な連続殺人事件(韓国では「連鎖殺人.연쇠살인」)も、死刑が行われていないこの10余年の間にも何度も発生しています。しかし執行再会はされないままです。
 日韓両国は、政治・社会制度は共通点が多いようですが、死刑制度についての差異は何に由来するのでしょうか?

 続きの記事でさらに考えてみます。

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4 コメント

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Unknown (yohnishi)
2011-11-23 10:37:50
>ヨーロッパ諸国の<常識>は、すでに世界の<常識>となりつつある、とみていいのでしょうか?

Wikiの同項目の英語版では、先進民主主義国(多分OECD加盟国+台湾?)の中で死刑存知国は日米韓台の4カ国のみとありますね。

米が抜けているのをどう見るか、ということになるのでしょうが。

因みに最近の韓国映画の話をすると、韓国の死刑執行が再開された、という設定で作られた映画が、知る限りでは2本あります(『執行者』と『味噌』)。
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『執行者』と『味噌』 (ヌルボ)
2011-11-23 13:29:30
コメントありがとうございます。
『執行者』は観ていませんが、この記事の続きで紹介する予定になっています。刑務官を主人公にした映画では、日本にも『休暇』という作品がありますね。

『味噌』は、私も最近東京国際女性映画祭で観ました。死刑囚が、処刑直前に「最後に言い残すことは?」と問われて「テンジャンチゲが食いたい!」と叫びますね。(この映画、最初コメディかな、と思いました。)

さらに『私たちの幸せな時間』についていも、yohnishiさんは当然ご存知のことと思います。

 ・・・しかし、こういう重たいテーマについては書きづらいですね。賛否どちらにもはっきりした主張をする人もいるし、私なんぞはどちらに対してもびびってしまいがちです。ただ、責任観念や想像力の欠如に対しては断固批判します。
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Unknown (サンリ)
2011-11-25 08:54:52
このドキュメンタリー私も持っています。上映会をしようしようと思いながら時間がたってしまっています。ヌルボさんの活動に敬意を表します。
「執行者」のDVD字幕ないものですが持っていますよ。もしご関心あれば郵送いたします。私の治療院のHPからメールをいただければ対応いたします。
「私たちの幸福な時間」も良いですねえ。この原作は私が初めて原書で読んだ本ですから思い入れもあります。
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おーっ! (ヌルボ)
2011-11-26 00:20:24
サンリ様

「赦し」の上映会、生来の無精者の私1人だとやらずじまいだったでしょうが、員数は少なくても強力な仲間に恵まれて実現したというわけです。
このDVDの企画・製作に携わったLさんにも話していただきました。SBSとの交渉で、何枚でもコピーOK、無料で上映会もOKということにしてもらったというDVDです。
このマイナーな映画をサンリさんがすでに所持されているとは意外でした。

「執行者」、もちろん関心はありますが、余裕がないもので・・・。そのうちお願いするかもしれません。日本で劇場公開してくれればいいんですけどねー。
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