ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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ソウルのミニシアターで朴正熙時代を描いたドキュメンタリー「維新の追憶」を見る

2012-12-19 23:53:31 | 韓国映画(&その他の映画)
 1つ前の記事で書いたように、昨日(18日)からソウルに来ています。
 この時期になって、今年初めての訪韓。
 もっと年も押しつまると、費用がぐんと高くなるし、一応大統領選挙のようすを見てみるか、ということで場当たり的に日本脱出しました。
 と言っても、スケジュールも全然決まっていなくて、ソウルに来てもほとんど場当たり的。しかしそのわりには昨日も今日も収穫がいろいろで、結果オーライ。

 昨日映画のブログ記事を書きながら思い出したのは、「韓国でしか観られない映画を観に行く」という懸案事項でした。
 そこで、韓国の映画関係サイトでいろいろ探した結果「유신의 추억 - 다카키 마사오의 전성시대(維新の追憶 – 高木正雄の全盛時代)」というドキュメンタリーに決定。上映館はインディスペース(INDIE SPAC)Eというミニシアターで、公式サイト(→コチラ)を見ると今日が最終日で、それも12時40分からの1回だけの上映。場所は世宗路の李舜臣像の前の道(새문안길)を西に約300m、ソウル歴史博物館のすぐ近く。今回宿泊のサットンホテル(←めったにない大名旅行)から歩いて行けるし、何から何までちょうどいいでないの。

 ・・・というわけで、朝ゆっくり発って、タラタラ道草しながら行きましたよ。大統領選挙の投票日で、家族連れの人たちも多く、街はなんとなくのんびりした雰囲気。

 すぐ見つかるか少し不安だったのですが、ソウル歴史博物館の前から下の写真のように映画のポスターがすぐに目に入って、すぐにわかってよかった!

      
           【ポスターの向こうの建物の2階です。】

※ホテルに戻って日本のサイトを探索したら、ソウルナビにこの映画館の詳しい紹介記事がありました。(→コチラ)。
最初に見ていれば不安はなかった。)

 ビルというにはこぢんまりとした建物の中はちょっと寂しい雰囲気。まあ、日本のミニシアターも大体そんなものですけどね。

    
        【いかにも「芸術的」な雰囲気。】

   
       【エレベーターに張られた上映時間表。】

 開映10分前に行ったら、客はまだ誰もいませんでした。チケット(8000ウォン)を買ったら、そのオネーサンが何か言ってたのは、座席の位置のことだったんですね。聞き取り能力が今ひとつ(ふたつ? みっつ?)なので、すぐわからなかったです。
 中はソウルナビの写真にあるようにすわり心地のいい座席が120席。

      
   【建物の外観や内装等から推測したよりもずっとキレイ。客はヌルボ1人だけ?】

 上の写真のように、背もたれも後ろに何やら札のようなものが貼られています。何かと思ったら・・・。

     
      【前の席にはイム・スルレ監督、その隣にはイム・クォンテク監督の名前が・・・。】

 私ヌルボの目の前の字を読むと「イム・スルレ」。「飛べ、ペンギン」「牛と一緒に7泊8日」等、大好きな作品の監督です。その他、いろんな監督や俳優の名札なんですね。
[2013年6月9日の追記] SARUさんのtwitterによると、ここの座席は「ポンサー席」といったもので、上記の名前は寄付した人の名前なのだそうです。SARUさんはイム・クォンテク監督の座席の真後ろに座ったそうで、写真も付いています。

 さて、映画が始まる頃には観客は7人に。3人の家族連れ以外の4人は皆1人で来た人(含むヌルボ)で、やっぱりこの手の映画のファンは日韓共通か?

 上映作品のドキュメンタリー「維新の追憶 – 高木正雄の全盛時代」は、朴正熙時代の民主化運動弾圧を当時の映像や、関係者の証言で構成したドキュメンタリー。この時期に上映するというのは、あきらかに反・朴槿恵をねらったものですね。それはそれとして、とても興味深い内容でした。今の金芝河が登場したり、歴史学者・韓洪九がいろいろ語ったり、民青学連事件について詳しく説明されたり、太刀川正樹さんの名前が出てきたり、早川嘉春先生が当時のことを語ったり、人民革命党事件のことも、拷問の実態等も・・・。

     
  【この映画のチラシ。彼の顔は、貫禄とか威厳とかが感じられない、ちょっととっつきにくい一般人という印象なんですが・・・。】

 この映画のように「漢江の奇跡」といわれた経済発展のことを全て省くと、朴正熙はただただ悪いヤツだったと、ほとんどの人は思うでしょう。省かなくても、同じです。しかし「今の韓国があるのは・・・」と歴代の大統領の中でも1番に評価する人が多いというのも事実です。しかし、弾圧を受けた当人や遺族は・・・、ということで、歴史評価は一筋縄ではいかないようです。

 映画の背景に、キム・グァンソク「灼けつく喉の渇きで(타는 목마름으로)」や、ヤン・ヒウン(楊姫銀)「常緑樹(상록수.サンノクス)」が流されていました。私ヌルボにとっても懐かしい歌です。
 <民主主義よ、万歳!>と謳う「灼けつく喉の渇きで」は金芝河の詩。しかし今の金芝河はは意外でもない朴槿恵支持者になっていて進歩陣営の詩人・安度眩(アン・ドヒョン.안도현)等からは批判され(→コチラ)、キム・グァンソクはとっくの昔(1996年)に32歳の若さで首を吊ってしまったし(→関連記事)、もうずいぶん前から時代は変わっていた、ということのようです。ひどかった時代から、また別の全然よくない時代に・・・。

 映画が終ってから、ロビー(というほどの高級感は全然ないが)に置かれた本棚を見ると、100冊以上はある(?)本の中に、郷田マモラの「교도관나오키(教導官直樹)」すなわち「モリのアサガオ」や、小手川ゆあの「사형수042(死刑囚042)」がありました。こういう漫画をおいているところがいかにもミニシアターらしいところ。以前死刑を考える作品を上映したりしたのかな?

 今、テレビで朴槿恵の当選確定のニュースをやってます。
 このブログでもその件について書くつもりだったのですが、もう時間が・・・。

 あ、ここのエレベーターの中に映画「拝啓、愛しています」「26年」の原作の漫画家・カンプルの投票をよびかける漫画が貼られていました。彼はかくれなき進歩陣営側だからなー。上映作品ともども、この映画館の政治的立場はあまりにもはっきりしてます。

      
   【投票をした確認証を今日持参したら5000ウォンに割引ですと。】

 ツラツラ振り返ってみれば、韓国で映画を観たのは1992年釜山の南浦洞の映画館に初めて入って以来。その間20年のブランクか。長すぎたなー・・・。