学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

河北新報・片桐大介記者

2013-11-06 | その他
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2013年11月 5日(火)23時33分35秒

今日の河北新報に少し気になる記事が出ていました。

----------
請戸(浪江)・小高(南相馬)/汚染、時が止まったまま

 陸地に打ち上げられた漁船、1階部分がぶち抜かれた2階建て家屋、折れた電柱、砂浜にボンネットが埋まった車…。
 10月下旬、福島県浪江町の沿岸部、請戸地区に向かった。東日本大震災の津波襲来直後から時が止まったような風景が連なる。
 浪江町では津波による死者・行方不明者が181人、全壊家屋は613棟に上った。宅地や田畑などの跡を外来種セイタカアワダチソウが覆う。福島第1原発事故の放射線を浴びたがれきが野積みにされたままだ。
(中略)
 河口まで1キロ弱の請戸橋でサケの魚影を追っていると、南相馬市小高区のホッキ漁師志賀勝明さん(65)に出会った。「賠償は不十分。東電や国は被災者が死ぬのを待っているのか」と思いの丈を語った。
 1985年ごろから、請戸川河口から南側ではホッキ貝が採れなくなった。「冷却用に海水を取水する原発が砂も吸い込むからでは」とみるが、東電は認めていない。原発は廃炉に向かうが「もはやここでホッキが採れても食えるか? 食えないな」。放射能汚染への憤りは消えない。
 志賀さんは憲法改正反対を呼び掛ける「小高9条の会」の会員でもある。「居住の自由を奪ったのが原発事故。人権侵害も甚だしい」。声色が一段と激しくなった。

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1125/20131105_01.htm

「福島第1原発事故の放射線を浴びたがれきが野積みにされたまま」とあり、予備知識なしに片桐大介記者の記事を読んだ人は、請戸は相当な高線量地域だと誤解するはずですが、実は請戸地区は福島第一原発のすぐ近くなのに放射線量が極めて低い場所なんですね。
私が今年4月に訪問したとき、請戸集会所前に設置されていたリアルタイム放射線量測定装置の値は毎時0.07マイクロシーベルトでした。

http://6925.teacup.com/kabura/bbs/6781
http://chingokokka.sblo.jp/article/64835247.html

これは福島市あたりと比べると本当に低い値で、私が住んでいる宮城県南部の柴田郡と同じくらいなんですね。仙台だってたいして変わりません。
請戸について記事を書こうとする新聞記者がこの事実を知らないはずはないのですが、何故か片桐記者は沈黙しています。
そして、記事の後半、「河口まで1キロ弱の請戸橋でサケの魚影を追っていると、南相馬市小高区のホッキ漁師志賀勝明さん(65)に出会った」とありますが、たまたま出会った人が<憲法改正反対を呼び掛ける「小高9条の会」の会員>で、反原発の持論を滔々と述べる、というのも若干不自然な感じがします。
もちろん南相馬市小高区の人だって浪江町に入るには浪江町の許可が必要なので、なぜそんな人が請戸橋にいるのかも不思議です。
そこで「志賀勝明」で検索してみると2013年9月26日の東京新聞の記事が出て来て、志賀勝明氏は1973年以来の筋金入りの反原発派、ということが分かります。

---------
 七三年、国の原子力委員会は福島第二原発建設をめぐり公聴会を開催する。三十人中二十一人が賛成派。反対派は六十人の参加希望を出したが九人しか認められなかった。反対の声はかき消された。
 その公聴会に、南相馬市小高区村上のホッキ貝漁師の志賀勝明(65)は反対派の一人として出席していた。仲間の漁師たちは最初「海が汚染される」と反対したが、原子炉が増設されるたびに支払われる膨大な補償金で腰砕けとなり、最後は孤立無援となった。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/kenpouto/list/CK2013092602000139.html

別に「9条の会」が悪い訳ではありませんが、ホッキ貝が取れなくなったのは明らかに今回の原発事故とは別の問題です。
そして、請戸ではなく小高区村上に住む志賀氏は「もはやここでホッキが採れても食えるか? 食えないな」と断言しますが、いわき市や相馬市等で既に実現しているように魚介類の放射線量検査体制が確立し、かつ請戸の放射線量が極めて低いことが周知されたら、売れないことはないんじゃないですかね。

というか、そもそも東京あたりの普通の消費者は福島県の漁港の違いなど分からないので、福島県で取れる魚介類の検査体制がしっかりしているとの評判が出来たら、水揚げ港が請戸かどうかなど関係なく購入するんじゃないですかね。
思想は人それぞれですから反原発の主張は結構ですが、それと現に福島県の漁港に水揚げされている水産物、そして津波で壊された漁港が整備された後に水揚げされるであろう水産物の安全性は別問題であり、漁師を名乗る人が風評被害の拡大につながるような発言を軽々にすることに私は疑問を感じます。

志賀氏の考え方はともかく、片桐大介記者は請戸橋で偶然、小高区村上に住む40年来の反原発派の志賀氏と出会ったというような作り話はやめて、水産物の安全性の問題と原発の問題は別々に論じてほしいですね。
もちろん特定の漁港周辺の空間線量とそこに水揚げされる魚介類の放射線量は別問題ですが、片桐記者には事実の正確な認識と記録についての職業意識が乏しいように思われるので、注意してほしいですね。

写真は請戸小学校から見た請戸集会所、津波で破壊された請戸集会所の様子、請戸集会所近くのリアルタイム放射線量測定装置です。
いずれも2013年4月4日撮影。

(追記)
志賀勝明氏が小高町のような保守的な風土の中で40年前から反原発運動を続けたこと自体はそれなりに立派な行為で、原発事故が起きた後では高い見識を誇ってもよいと思いますが、それと請戸で将来ホッキ貝が採れるようになった場合に「食えない」かは別問題ですね。
原発事故直後の混乱はやむをえませんが、小高区や浪江町の沿岸部のように早い段階で低線量であることが判明していた地域をいつまでも立ち入り禁止にしていたのが根本的な問題であって、その国の判断を居住移転の自由を奪った、憲法違反だというならば私も賛同します。


※写真
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/7000


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« おでんの日? | トップ | 「イエズス会宣教師が見た中... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

その他」カテゴリの最新記事