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「常盤山元自動車学校」との比較

2016-11-02 | 大川小学校
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年11月 2日(水)11時33分3秒

私は原告勝訴を予想していましたが、これは大川小学校周辺の地形をそれなりに詳しく調べていたことと、今回の裁判長(高宮健二氏)が「常磐山元自動車学校」事件(仙台地判平成27・1・13、『判例時報』2265号)の裁判長と同じであることを知って、「常磐山元自動車学校」事件で原告勝訴なのだから大川小学校も当然そうなるだろうな、と思ったからです。
「常磐山元自動車学校」事件は大川小学校と違い、それほど話題になりませんでしたが、海岸から750m離れた場所にあって、海岸には高さ6.2mの堤防があり、過去に住民の記憶に残るような津波被害がなく、平成16年の宮城県地震被害想定調査時に策定された津波浸水予測図では、宮城県沖地震(連動)が発生した場合、付近の津波浸水域は海岸から100mにも満たない範囲とされていて、大川小学校と非常に良く似た状況ですね。
判決では、教習所側が事前に津波を想定した避難計画を作っていなかったことはもちろん、予想される津波の高さを宮城県6m、福島県3mとする気象庁の大津波警報(第一報、午後2時49分)を教習所の役員・幹部社員が聞いた後に避難しなかったことも過失とせず、予想される津波の高さを宮城県10m以上、福島県6mとする気象庁の大津波警報(第二報、午後3時14分)についても、伝えなかった放送局があるなどの事情から教習所の役員・幹部社員が確認できたとはいえず、直ちに避難を実施しなかったことは過失ではないとした上で、その後の消防車による具体的な避難の呼びかけの広報があった時点で適切な対応を取らなかったことを過失としています。
ただし、大川小学校の場合と異なるのは、犠牲者は18・19歳の教習生と27歳のアルバイト従業員であって、地震発生後の情報収集・分析能力においては教習所側の役員・幹部社員とそれほどの違いがあったとは思えないこと、教習所から海と反対側(西方)700mから750mのところに標高53mの「戸花山」という小さな丘があって、徒歩で9分、自動車で2分30秒程度ですから、若い人だったら充分逃げるだけの時間があったことです。
普段から送迎バスを利用している人が多かったから、教習所側も送迎バスで教習生に待機してもらっていただけで、教習所側に独自の判断で行動する人を止める権限はないし、そうする意図もない状況だった訳ですね。
こうした状況なのに、裁判所は割とあっさりと具体的な安全配慮義務を認定し、割とあっさりと教習所側の過失を認めた訳で、私は控訴審では逆転の可能性もあるのでは、と思っていたのですが、結局、控訴審で和解が成立して終了してしまいました。
この「常磐山元自動車学校」事件と比較すると、大川小学校の場合は安全配慮義務の存在自体は極めて明確ですし、個々の児童が自分の判断で独自の行動を取る余地はなかったのですから、担当の裁判官が同じなら学校側の責任が認められる可能性は当然大きくなりますね。
なお、誤解してもらいたくないのは、私は原告勝訴を予想したとしても、今回の判決が全面的に素晴らしいものだと思っている訳ではない点です。
大震災後、暫くの間は学校側の責任を問おうとする遺族は全くの少数派で、地域社会では孤立しているように見えたので、私はその言い分は法的に相当な理由があるから頑張ってほしいな、とは思っていましたが、別に特段の支援活動をしたこともありません。
今回の判決に反発する立場の人の言い分もある程度は分かるので、「過失」があれば賠償金一人数千万円、「過失」がなければゼロ、という極端な二者択一ではなく、もう少し調和的な解決をもたらす法律論の組み立て方はないのかな、と思っています。

『記憶の部屋・東日本大震災』サイト内
「常磐山元自動車学校の悲劇・宮城県山元町」
http://memory.ever.jp/tsunami/higeki_joban-bus.html

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宮城・自動車学校津波訴訟 仙台高裁で和解が成立
毎日新聞2016年5月25日

学校側が安全上の不備認め陳謝 解決金は大幅に下回る
 東日本大震災の津波で犠牲になった常磐山元自動車学校(宮城県山元町)の教習生25人と従業員1人の遺族が、学校側に損害賠償を求めた訴訟の控訴審は25日、仙台高裁(小野洋一裁判長)で和解が成立した。学校側が安全上の不備を認めて陳謝した上で、教習生1人当たり50万円、計1250万円の解決金を遺族側に支払うとの内容。従業員側の和解協議は分離されており、協議を継続する。
 解決金は1審が学校側に命じた賠償金計約18億5000万円(1人当たり約4000万~8000万円)を大幅に下回った。遺族側の弁護士によると、金額は学校側の支払い能力を踏まえて決定したとみられる。
 和解条項によると、学校側は、地震や津波を想定した避難防災マニュアルを作っておらず、当日も適切な避難指示をしなかったことが死亡の一因となったことを認め、遺族に陳謝し、心から哀悼の意を表す。
 津波被害を巡る訴訟のうち、管理者側の賠償責任を認めた判決が出たケースで和解が成立したのは、同県石巻市の私立日和(ひより)幼稚園訴訟(2014年12月に同高裁で和解成立)に次いで2件目。
 教習生と従業員の遺族は11年10月から翌年にかけ、計約19億7000万円の支払いを求めて提訴。1審・仙台地裁判決は15年1月、「消防車による避難の呼びかけを学校側の誰かが聞いていたと推認できる」などとして学校側の安全配慮義務違反を認定した。
 学校側は「津波襲来は予測できなかった」と控訴。亡くなった教習生25人のうち19人と従業員1人の遺族も学校役員の個人としての賠償責任が認められなかったことを不服として控訴した。
 訴状によると、学校側は地震発生後に教習生を待機させ、約1時間後に送迎バス4台に分乗させるなどして帰宅させた。バスに乗った23人と徒歩で帰宅した2人が津波に巻き込まれて犠牲になった。【本橋敦子】

「世の中にこの事件の真相を知ってもらえると思った」
 遺族会代表の寺島浩文さん(53)は和解後、「お金を受け取ることが目的ではないが、子供の命の対価として解決金の金額が低すぎることは納得できない。ただ、和解を受け入れた方が、世の中にこの事件の真相を知ってもらえると思った」とのコメントを出した。

http://mainichi.jp/articles/20160525/k00/00e/040/203000c

>筆綾丸さん
私も地方自治法については全然詳しくありませんが、控訴には議会の議決が必要との解釈が一般的なようですね。

http://www.rilg.or.jp/htdocs/hosei/main/houmu_qa/2005/03_winter_03.html

石巻市議会の賛成16、反対10という数字は市民の微妙な感情を反映しているのでしょうね。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
「公式実務訪問賓客」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8626
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