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中御門経任とは何者か。(その3)

2018-02-13 | 『増鏡』を読み直す。(2018)

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 2月13日(火)09時48分43秒

久しぶりに『中世朝廷訴訟の研究』を読んでみると、1960年生まれの本郷和人氏が1995年にこの本を出したのは本当にすごいことだったのだなと改めて思います。
私がたまたま『とはずがたり』を読んで、生真面目な国文学者たちが『とはずがたり』を基本的に事実の記録だと思っているらしいことに驚愕し、ついで『増鏡』を一読して、『とはずがたり』を膨大な分量で「引用」している『増鏡』の著者は『とはずがたり』の著者と同一人物なのではないかと思っていろいろ調べ始めたのは1996年で、『中世朝廷訴訟の研究』が出た直後でした。
しかし、当初はこの本のタイトルから鎌倉時代の裁判制度の研究だと思っていて、それこそ中御門経任は何者なのだろう、といった私の切実な関心に関係する本だと気づくのに若干の時間がかかりました。
いったんそれに気づいた後は興奮して寝食を忘れるような感じで何度も読み耽ったのですが、改めてこの本を読み直すと、当時の本郷氏はクマモン体型の面白いおじさんではなく、文章も切れ味抜群で、ところどころ殺気が漂っているような感じもします。

クマモン体型の本郷和人氏
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/d3c7d938cb3e18aa573e0041dbf8b40d

さて、『中世朝廷訴訟の研究』で中御門経任が最初に登場する部分も少し紹介しようと思います。
同書の構成は、

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はじめに
序章 朝廷訴訟の構造
第一章 九条兼実の執政と後鳥羽院政
第二章 承久の乱の史的位置
第三章 九条道家の執政
第四章 後嵯峨院政─後期院政の成立─
第五章 亀山院政─朝廷訴訟の確立─
第六章 持明院・大覚寺両統の治世
終章 朝廷訴訟の特質
付論 朝廷経済小考
廷臣小伝
おわりに
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となっていて、第四章は、

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(1)後嵯峨天皇の即位
(2)土御門定通と二条良実
(3)公武各々における対立
(4)後嵯峨天皇の譲位
(5)九条道家の失脚
(6)後嵯峨院政の展開
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と分れています。
この(6)に「上皇と密接な連絡を持つ」存在として中御門経任が出てきます。(p107以下)

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(6)後嵯峨院政の展開

 建長三(一二五一)年十二月、了行法師らの謀反計画があかるみに出、将軍頼嗣は罪を問われて京都に送り返された。関東申次を更迭されてもなお頼経の子孫が代々将軍になることに望みを抱き、幕府との結びつきに九条家の立脚点を求めていた九条道家にとって、その衝撃はあまりにも大きかったらしい。頼嗣更迭を奉じる使者入京の翌日、道家は急死してしまう。
 頼経が追われた際には一条実経が摂政の座を奪われたが、この時に同じ憂き目をみたのは、九条教実の子、忠家であった。先の事件に関与した廉で九条家は勅勘を蒙り、若くして右大臣の職にあった彼は、摂関にまで昇るべき官途を止められ、逼塞を余儀なくされている。道家の失脚、実経の失脚、道家の死、忠家の失脚とたて続けに打撃をうけて、九条家の権勢は一挙に崩れ去っていく。
 九条家に代わってこれ以後しばらくは、摂関の地位は近衛流の人々によって占められる。彼らは九条家の人々と違い、幕府との結びつきも、訴訟を主導した実績も持っていなかった。訴訟の興行の主体として摂関を凌駕する、という課題を負った上皇にとって、これは都合の良い事態であったといえよう。長い間朝政を動かしてきた九条家の力は朝幕間の一連の騒乱を経て一掃され、上皇を中心とする朝廷訴訟が円滑に行われるような状況が現出しているのである。そして『経俊卿記』をみると、すでに建長六(一二五四)年ごろには、上皇の意志が摂関を抑えて、直截に裁定に反映されるようになっている。後嵯峨上皇は果たして、朝廷訴訟の主導者としての地位を確固たるものにしている。
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長くなったので、いったんここで切ります。
なお、『経俊卿記』の著者、吉田経俊(1214-76)は吉田為経(1210-56)の同母弟で、「吉田三兄弟」、即ち為経男の中御門経任・吉田経長・冷泉経頼にとっては叔父になります。

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