学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

0070 「幕府滅亡は偶然の産物であるという回答も十分ありうる」(by 木下竜馬氏)

2024-04-24 | 鈴木小太郎チャンネル「学問空間」
第70回配信です。


【逃げ若 歴史研究者解説#02】最新の研究だと鎌倉幕府が滅んだ理由は”●●!?”【逃げ上手の若君】
https://www.youtube.com/watch?v=OCL8V-6c33A

12:30 以降、鎌倉幕府滅亡の原因について木下氏が解説。

山田徹・谷口雄太・木下竜馬・川口成人『鎌倉幕府と室町幕府』(光文社新書、2022)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045944

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第五章 滅亡は必然か? 偶然か?
 一 全盛期のなかでの滅亡
 二 幕府滅亡の必然性─佐藤進一の得宗専制論
 三 専制化は滅亡を説明できるか?─近年の得宗専制論見直し
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p178以下。

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滅亡は必然か、偶然か
 本章では、得宗専制論の研究史から、「なぜ鎌倉幕府が滅亡したのか」という問いに先行研究がいかに答えてきたのかを概観した。結局、読者のみなさんには肩すかしかもしれないが、決定打といえるほどの原因は特定できない。滅亡の理由は「わからない」が現段階での結論だ、ともいわれるゆえんである[呉座二〇一四]。「わからない」というのはさすがに極論だとしても、幕府滅亡は偶然の産物であるという回答も十分ありうる。時計の針を正慶二年(一三三三)四月末に戻してみよう。もし名越高家が偶然戦死していなければ足利高氏の離反はなかったかもしれない。また分倍河原の戦いで新田軍に勝利していれば、東国だけで幕府が存続する目はあったように思う。切所で連敗したのが滅亡の原因と考えれば、それはまさに偶然の産物といえよう。
 むしろ、幕府滅亡の必然性を問うという姿勢自体に検討の目が向けられている。かつてはマルクス主義歴史学のように、体制の矛盾や崩壊の構造的原因を指摘すれば事足れりとされがちであったが、冷戦構造の解消とマルクス主義の知的ヘゲモニーの消失により、説明を要することが増えたのである。
 思うに、同時代人にとっても鎌倉幕府滅亡は説明のつかない珍事であり、「太平記」などの高時暗君説話や幕府の腐敗をあげつらう筆法は、その「わからない」に応え、幕府滅亡の「必然性」を説明するために編み出されたのであろう。現代のわれわれは、結果論に陥らず、鎌倉後期のさまざまな事象を的確に評価していくことが求められる。一方で、研究を進展させるのはいつでも問いの発するエネルギーであり、先人が「なぜ幕府は滅びたのか」という問いのもと積み重ねた業績は決して無意味になるわけではない。必然か、偶然か。その落としどころは揺らぎ続けている。
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呉座勇一『戦争の日本中世史―「下剋上」は本当にあったのか―』(新潮選書、2014)

「皮肉なことに、研究が進めば進むほど、それらの仮説が成り立たないことが明らかになっていき…」(by 呉座勇一氏)〔2020-09-02〕
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/dd09d6f406b181672282d558241a563c
熊谷隆之氏「鎌倉幕府支配の展開と守護」(その1)(その2)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ad744ef3434e4f9cf0c8979c794a88ba
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/da7bff9a309de752a2c9cfaa3f0d7503
「そう、これらの学説は「階級闘争史観」のバリエーションでしかない」(by 呉座勇一氏)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/e47fb1aa07b926849bc8edb8a5f6cf6e
「ひとまず「鎌倉幕府の滅亡は必然だった」という暗黙の前提を取り払ってみてはどうだろうか」(by 呉座勇一氏)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/19d0088a22e01a33551e189060f38b94
呉座説も「結局、人々の専制支配への怒りが体制を崩壊させた式の議論」
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/3a05fda1f50c2afc2ca40b7feee442db
ちょっと仕切り直しします。〔2020-09-14 〕
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