前回の続きです。
少し戻ります。
通報によって逮捕された聡子。
そのとき泰治の台詞。
『通報があった。匿名で手紙が届いたんです。神戸からサンフランシスコに向かう船の中に密航者が乗っていると、最初、我々はそれこそ福原優作だと予想しました。まさか、あなただとは』
通報が手紙であったこと、密航者は福原優作と予想していた事。これから考えられるのは、手紙は船の出航前に確実に届かなければならず、出航の2~3前には憲兵隊に届いていた筈。
だとすると、密航者が優作と予想した憲兵隊は、手紙が届いた段階で、優作を監視下に置いた筈です。当然、当日、家を出るとき、港に着いたとき、乗船するとき、すべては見張られていた筈。
しかし、船で発見されたのが、優作ではなく、聡子だった事を驚いているのです。こんな間抜けな憲兵隊はありません。ドラマ展開としても、安易で、不自然で、蒼井優の熱演に水を差します。
まあ、そう言う話は、話として、次の展開に移ります。
いよいよ、泰治の指示でフィルムが上映され、スクリーンを見つめます。
『ご覧下さい。これが彼の地で行われている所業です』と聡子。
フィルムが回り、そこに映し出されたのは、以前、優作の会社での忘年会で上映された、優作が監督し、文雄と聡子が出演した、プライベートの短編映画。
何?これ?一瞬、混乱する聡子。
『何だ!これは?あなたは、どうして、こんなものを海外に持ち出そうとしたのですか?』との、泰治の問い掛け。
聡子はしばらくの沈黙のあと、笑い出し、スクリーン駆け寄り、
大声で笑い、『お見事!』大声で叫び、床に倒れ込みます。気が動転して失神?
場面は変わって、ボートに乗り、陸に向かって帽子を振る優作のシーン。
ロングなので、顔の表情は確認できないのですが、私には笑っているように見えました。「そようなら聡子」「そようなら日本」と云っているように見えました。
聡子が大望のために文雄を官憲に売ったように、優作も大望のために聡子を売ったのです。
優作は文雄を売ったことを許していなかったのです。
優作は、官憲の目を逸らす為に、大望の為に、聡子を犠牲にしたのです。そのことに気付いた聡子は、優作に届くように大声で『お見事!』と叫んだのです。
幼なじみ泰治に見捨てられ、夫の優作にも見捨てられた聡子。
聡子は、
『大きな望みを果たすなら、身内も捨てずにどうします?』と、云ってみたり。
『僕はスパイじゃない。僕は自分の意思で行動している』に対して、『どちらでも結構。私にとっては、あなたは、あなたです。あなたがスパイなら、私はスパイの妻になります。それだけです』と、云ってみたり。
『捕まることも、死ぬことも、怖くはありません。わたしが怖いのは、あなたと離れることです。私の望みは、ただあなたと居ることなんです』と、云ってみたり。
『優作さん。これ以外にも、フィルムがあるんじゃないんですか?映像があれだけでは、女を連れ帰る危険と、見合うとは思えません』と、冷静な分析をしてみたり。
しかし、私としては、聡子の想いは最初から変わらず、
『あなたのせいで、日本の同胞が何万人も死ぬ・・・、それは正義ですか?・・・私たちの幸福はどうなります・・・国際政治がどうとか、偶然が選んだとか、そんなの知ったことじゃありません』
最初から、最後まで、このあたりが本音だと思います。
「あなたがスパイなら、私はスパイの妻になります」と云った、聡子の限界。
「あなたがスパイなら、私もスパイになります」と云ったのなら、もっと行動も言動も違ったものになるはず。
『戦争という時代のうねりに翻弄されながらも、自らの信念と愛を貫く女性の姿を描くラブ・サスペンス』が作品のうたい文句ですが、優作への一途な愛はあっても、信念はあまり感じませんでした。
時代的な制約と云えば、云えますが、でも、しかし、この2020年の時代に、古い女性像を描く意味は無いと考えます。
それで、ボートに乗り、陸に向かって帽子を振る優作のシーンで、ENDマークが出てくると思っていたら、その先が未だありました。
この先は、次回とします。
それでは、また。
よろしく。