市の星月夜日記

織江市の短歌、エッセイ

肺葉の窓とほる風かすかなる歌のごと雪の便り知らせぬ

2021-10-17 20:50:00 | Weblog

 いきなり寒くなり、昨日あたりから風邪気味。こたつを立てて、丸一日読書。

 北日本では初雪とか。

 山﨑豊子さんの、「沈まぬ太陽」全5巻を読了。大変難しかったが、社会経済政治について、わかりやすい叙述で、満足感たっぷり。
 勧善懲悪を避ける結末も、近現代の物語の流れとしてナチュラル。利権を握る悪が清廉な善意を圧倒するというパターン読みは短絡で、軽すぎるが、主人公恩地のようにひたむきで正義を選ぶ有能さは、リアルとして俗世間に馴染まないだろうと、私は思う。
 だから彼が最後にナイロビに左遷されたのも、納得できた。こういう純粋な人は日本社会にいない方がいいと。

 それにしても、山﨑さんの人物造形はすごい。さまざまな身分、職業、男も女も見事に彫りあげられ、しかも悪は悪なりに魅力がある。読んでいて物足りなさがまるでない読書体験は久しぶり。
 例えば、私は服飾ファッションが好きなので、登場人物の風采や着物にこだわるが、山﨑さんが的確な描写をしているので、いつも嬉しい。本筋に色を添えるだけの点描にせよ、芸者衆の裾引きや料亭女将の着物など、昭和の豪奢と粋を楽しめる。

 


 とはいえ、読後感は重い。
 
 勧善懲悪ではないから、人間の欲深さや、現世に対して冷淡な気持ちになることは否めない。それで良いのだろう。
 現実に、日航御巣鷹山事故の生存者の少女は、カメラマンと記者のために、身体を覆った毛布を強引に剥ぎ取られて、下着姿に近い写真を撮られたそうだから。人間は欲のために残忍になる。
 
 山﨑豊子さんはすばらしい作家だ。


 全てに感謝。
 
 

 

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