真夏の潮騒と風音に。
生きてよも明日まで人もつらからじ
このゆふぐれをとはばとへかし
強い陽射しの作る濃い緑蔭を眺めながら、平安時代末期、式子内親王の有名な恋歌を思い出した。
彼女独特の激しい歌いかたは、古典和歌とは思えないほど。恋人を甘く優しく誘うどころのレベルではなく、相手に挑むような、試すような、真っ直ぐな情感で、新古今調の技巧を凝らしているとも言えない。まるで明治の明星短歌、与謝野晶子のようだ。いや、晶子ならもっと色っぽく、男の好き心をくすぐるだろう。
式子内親王は生涯独身で、少女時代を伊勢斎宮として神に仕えた。都に戻ってからも浮いた噂は皆無で、和歌の世界で繋がっていた藤原定家などが彼女の恋人ではないかなどと憶測されているが、現在まで研究諸説あり、多分違う。
彼女は、幻想の光源氏、あるいは伊勢物語の主人公である在原業平に向かって歌い込んだのではないだろうか。平安時代初期の実在人物在原業平は、禁域の聖少女である伊勢斎宮と艶聞をたてた美男で、多感な式子内親王のロマンティシズムを掻き立てたに違いない、と私は想像している。
そんなことをぼんやり考えながら、涼をくれる風音を喜んでいた午後だった。
愛と感謝。