市の星月夜日記

織江市の短歌、エッセイ

虹のごときつぶやきありて一部屋の空白たちまち詩片となりぬ

2021-02-03 22:18:00 | Weblog

 今夜は在原業平を語ろう。

 彼は、紫式部より百年ほど遡って、平安初期に生きた。在原氏は臣下だが、もとは賜姓皇族で、業平の母は伊登内親王という皇女だった。
 母と息子の絆は深かったらしい。業平が主人公とされる歌物語「伊勢物語」に、母と彼との情愛を偲ばせる逸話がいくつかちりばめられている。

 漢文の公的記録に多少残る業平の人となりは興味深い。僅かな記事だが、彼が大変魅力的な男だったことがわかるからだ。

 容姿端麗。ハンサムだった。特に眼光鋭い、彫りの深い顔立ちだったようだ。そして外国語に秀でていた。当時だから英語ではなく中国語。外交官のような仕事もしたらしい。つまり、頭脳明晰でコミュニケーション力に優れたいた。
 以上が公的記録から想像される業平だが、文学としての伊勢物語に読む彼の生き様、恋模様は、まさにロマンチックヒーロー。多情多恨、元祖色好み。
 
 今日のまひる、私は業平を思い出しながら、自分でも驚くほど彼の歌を記憶していることに気づいた。実際、驚いた。
 なぜなら、私は伊勢物語より源氏物語が好きで、原文を二十代の頃から何度も通読、再読、再再読したのだけれど、呆れたことに、光源氏の歌をひとつも思い出せない。
 伊勢物語ももちろん原文を読んだが、源氏物語ほど熱心ではなかった。
 が、歌の記憶は業平の方が強い。
 理由はわかりやすい。業平の歌の方が、光源氏の歌よりすてきだからだ。ここに一応、私の主観で、と添えておく。  
 
 筒井筒井筒にかけし自分まろが丈 
  過ぎにけらしな妹見ざる間に

 五月待つ花橘の香を嗅げば
     昔の人の袖の香ぞする

 からころも着つつ慣れにし妻しあれば
   はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ

 君や来し我や行きけむ思ほえず
   夢かうつつか寝てか覚めてか

 白玉か何ぞと人の問ひし時
  露とこたへて消えなましものを

 百年にひととせ足らぬ九十九髪
   我を恋ふらしおもかげに見ゆ

 つひに行く道とはかねて聞きしかど
   昨日けふとは思はざりけり

 ……こんな列挙はあまり意味がない。思いつくまま並べたが、業平の歌は駄作がない、と私は思う。光源氏つまり紫式部が創作した方は駄作かと言うと、そんなことはないが、心に滴る情緒の雫は、やはりオリジナル業平の方が豊かだ、と言おう。私の主観で。

 古今和歌集には小野小町始め、六歌仙について述べた文章があり、そこには業平についてこんなふうに書いてある。
「心余りて言葉足らはず」
余情余韻が、和歌の三十一文字に包み切れずに、言葉から溢れている、と。

 こんなゆたかな歌を読む美青年が、モテなかったはずはない。彼の恋の相手は、まず幼馴染、それから伊勢の斎宮、その上に帝の妃とも密通してしまう。
 
 そうして、おん年99歳?の高齢女性の恋もひき受けている。おばば様から業平は熱烈に恋慕され、彼は「百年にひととせ足らぬ九十九髪」歌を詠んで、老女と情を交わしたそうだ。彼はこの時何歳だったのだろう。
 伊勢物語は、この段をこんな風に語る。「今の人は自分が好きな女とだけ情を交わすのだが、この昔男(業平)は、自分が好きな女も、また好きではない女も、差別せずに相手をしてやったものだ」
 好き、という現代語がふさわしいか、どうか。
 原文は「思ふをも、思はぬをも行きて逢ひけり」と、明快単一な「好き」よりもニュアンスの広い「思ふ」という動詞でエピソードをふっくらと包み込んでいる。

 今夜の独り言は長くなってしまった。
 
 最後に挙げた「つひに行く道」歌は、業平の辞世だ。学生時代、伊勢物語の講義を受けた時、教授はこの歌について感慨深げに、
「昨日けふとは思はざりしを、これはすごい表現なんですよ。けふ明日とは、ではなくて。今日、明日になったら自分は死ぬだろうではなく、昨日は今日死ぬとは思わなかった、と歌うのが、すごい辞世です」
 とおっしゃっていたのを、私は今も忘れない。
 

 神さまに感謝。

 

 
 鉛筆習作デッサン。





 

 

 



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レントの会、ワークショップで楽しむイースターエッグ

2021-02-03 13:59:00 | Weblog

 昨夜、南総ホールでの絵画展をお知らせしましたが、その期間中、今井香さん企画のワークショップについて。
 イースターエッグを作ります。その見本をアップ。
 卵の殻を使った小さいオブジェです。どちらも今井さんからいただきました。

 



 手作り講師は、今井さん、黒米さんです。

 

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