ギリシャ神話あれこれ:ラオダメイアの愛(続)

 
 彼女は蝋で夫の似姿(むむ、ダッチ・ハズバンド!)を作らせ、夜毎、本物の夫さながらに、それに話しかけ、それと交わる。あるとき、召使がその様子を怪しんで、彼女の父に、忠義面して畏まってチクる。……ラオダメイアが、夜な夜な、新しい男を部屋に招き入れているようだ、と。

 激怒した父は、ある夜、戸を蹴破って娘の部屋へとなだれ込む。娘も驚いたが、父も驚いた。何しろラオダメイアは、死んだ夫とそっくりの蝋の像を抱いて共寝し、涙ながらに話しかけているのだから。
 父は、そんな蝋像を作っては、忘れられるものも忘れられない、とにかくその忌まわしい蝋像を焼き捨てなさい、と娘に言い渡す。が、彼女は従わない。

 一方、冥界に赴いたプロテシラオスも、ラオダメイアへの想いを、どうしても捨て切れない。こちらもアフロディテの呪いで、死んでなお妻への愛がめらめらと燃えていたわけ。
 彼は冥界の神々に、どうか今一度だけ、妻のもとに帰らせてくれ、と懇願する。で、とうとう、彼を憐れんだペルセフォネに、ヘルメス神の案内で、生きたままの姿に戻して、一夜だけ地上に帰ることを許してもらう。

 プロテシラオスの姿を見たラオダメイアは、戦死したはずの夫が思いがけず凱旋したのだと思い込み、狂喜してはしゃぎまわる。が、一夜明けた朝、夫は妻に真実を打ち明ける。
 膨れ上がった風船が萎むように、彼女は落胆する。そして、夫が再び死ぬときが来ると、彼女は夫の遺愛の短剣を手に取り、自ら胸を貫いて、夫とともに死者の国へと旅立った。

 愛の物語、お終い。

 画像は、ゴッドワード「古代の美女」。
  ジョン・ウィリアム・ゴッドワード(John William Godward, 1861-1922, British)

     Previous

     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ギリシャ神話... ギリシャ神話... »