死と生と狂気

 
 コエーリョ「ベロニカは死ぬことにした」を読んだ。「絶対に面白いから」と相棒に勧められて読んでみたけど、あんまり面白くなかった。
 構成や伏線はバッチリ、狂気という主題もしっかりしていて、却って、筋が先に全部読めちゃった。

 分断されたユーゴスラビアの一片、スロベニアの首都リュブリャーナの話。
 24歳のベロニカは、ある日、睡眠薬を大量服用して自殺を図る。が、未遂に終わり、意識が戻ると、精神病院「ヴィレット」のベッドの上。そこで医師に、「心臓を致命的に損傷したため、余命長くて一週間だ」と宣告される。
 残り数日の人生を、精神病院のなかで過ごすことになった彼女は、さまざまな精神病患者と出会うなか、生の意味を問い直すようになる。

 特に不満があるわけじゃないのに、満たされない生活。代わり映えせず、先が見えてしまう人生。生き続けても得るものなどなく、すべてがおかしくなってゆく世の中にあって、何もできることなどない自分。来る日も来る日も同じ繰り返しだけの将来を、見ずに済ますという選択。死にたいという積極的な思いよりも、生きたくないという消極的な思いから、死ぬことに決めたベロニカ。……なぜともなく死を選ぶ現代人の心理って、こんなふうだと思う。
 けど、睡眠薬を飲んだあとに、ふと、ある諺を思い出す。「この世界で起きることに、偶然はない」……この言葉が、物語の最後に意味を結ぶ。

 やがてベロニカは、規範フリーのヴィレットのなかで、平凡で単調な自分の人生が、自分自身で選択したものだったと気づく。
 自分の人生の無意味さは、自分の責任以外の何ものでもない。実際、誰もが狂っていて、一番狂っている類の人たちこそ、自分が狂っていることに気づかずに、他人に言われたことを繰り返すばかりなのだ。と。……他人に与えられた人生なら、簡単に捨てることもできるというわけ。 

 To be continued...

 画像は、ホイッスラー「黒と金のノクターン、落下する花火」。
  ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
   (James McNeill Whistler, 1834-1903, American)


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