世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ギリシャ神話あれこれ:ペロプスの戦車競走

子供の頃、ギリシャ神話関連の、いろんなバージョンの本を次々に読んで、よく分からなかったのが、呪われたペロプス一族の物語だった。呪いが呪いを呼ぶ連鎖にまず混迷し、さらに子供向けにと、殺人やら姦通やらのシーンをぼかして表現してあったりするので、ますます混迷して、何気に怖ろしいけど何が何やら……
で、学生になって神話のエピソードを整理しなおして、よくもまあこんなに呪いが連鎖するものだと、戦慄を通り越して呆れたものだった。
さて。鬼畜な父タンタロスに殺された後、神々によって再び生命を与えられて甦ったペロプス。彼は美しすぎる美少年として復活し、その美貌に一目惚れした海神ポセイドンに、侍童として寵愛された。
成長したペロプスは、エリス地方のピサの王オイノマオスの娘、美しいヒッポダメイアに恋をする。
ところで王のほうは、なんとしてでも娘を結婚させたくなかったために、娘の求婚者たちを次々と殺害していた。その理由は、娘婿に殺される、という神託を受けていたためとも、娘に邪な恋情を抱いていたためともいう。
で、娘の求婚者たちは、命がけの戦車競走を、王から挑まれていた。それは、求婚者はヒッポダメイアを戦車に乗せて、コリントスまで逃げなければならない。王はゼウスの祭壇に犠牲を捧げたのちに発車する。求婚者は、もし逃げおおせれば娘を得るが、追いつかれればその場で殺される。……というもの。
To be continued...
画像は、タラヴァール「タンタロスの饗宴」。
ユーグ・タラヴァール(Hughes Taraval, 1729-1785, French)
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ギリシャ神話あれこれ:タンタロスの飢渇

ギリシャ神話では、神々を憤らせる罪を犯した人間どもが、冥界の底よりも下方に潜む奈落タルタロスにつながれ、永遠の罰を受けている。子供の頃、私が一番重いと思った罪は、タンタロスの犯した罪だった。
タンタロスは小アジア、リュディアの王。骨肉の争いを繰り返すミュケナイ王家の家祖で、トロイア遠征におけるギリシア軍の総大将アガメムノンも、彼の家系。
タンタロスはゼウスの隠し子だともいい、とにかく神を父に持つ。権力の象徴である、人間世界を統べる王錫をゼウスから与えられ、とかく神々から贔屓にされていた。
神々の饗宴に招かれることもたびたび。饗宴では、神々の神酒ネクタルや神饌アンブロシアの飲食を許されていた。これらをこっそり人間界に持ち出して、神が人間に振るまうごとく、周囲に振るまって、己の権勢を増長させていたともいう。
こんな神々の食べ物を食べていれば、不死になってしまう。タンタロスも不死の肉体を得、のちにそれが仇となる。
あるときタンタロスは、今度は神々を地上の宮殿に招いてもてなすことにする。神々の寵遇から慢心していたタンタロスは、何を考えたのか、息子のペロプスを殺してその肉を切り刻み、煮込んだものを、神々の食卓に供する。
神を試してはならない。欺いてもならない。神々は顔をしかめて、料理には手をつけなかった。ただ一神、娘ペルセフォネを失って失意の渦中にあったデメテルだけが、放心のまま、つい肉を一口飲み下してしまう。
もちろん神々はタンタロスの不敬を憤り、彼を冥界の最奥底タルタロスへと放り込む。彼はここで永劫の、ユニークな罰を受けている。
彼は沼のなかに顎まで侵かり、その頭上にはたわわに実を結んだ果樹が枝を乗れ下げている。が、彼が実をもぎ取ろうとすると、たちまち枝は上がり、水を飲もうとすると水が引いてゆく。こうして彼は不死ゆえに、永遠の飢えと渇きに苛まれ続ける。
……まあ、タルタロスに送られた罪人は、不死でなくても、永劫に苦しまなくてはならないのだけれど。
さて。神々は、殺されたペロプスのバラバラにされた身体を集めてつなぎ合わせ、生き返らせてやる。デメテルがうっかり食べてしまった左肩の肉の部分も、象牙(あるいは金)で補い足して。
こうして甦った王子ペロプスは、生前(?)よりもますます美しい少年となり、神々に愛されたという。
画像は、アッセレート「タンタロス」。
ジョアッキーノ・アッセレート(Gioacchino Assereto, 1600-1649, Italian)
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ギリシャ神話あれこれ:処女神、母となる(続)

汚らわしい! カンカンに怒ったアテナは、すぐに腿を羊毛で拭い取り、ポイとばかりに捨て去った。が、その精液は大地に沁み入る。大地は懐胎し、やがて赤ん坊を生み落とす。
生まれた赤ん坊エリクトニオスは、下半身が蛇という異形の姿。が、アテナはこの奇っ怪な姿の赤ん坊を、自分の子と認め、アテナイの王ケクロプス(この王も下半身が蛇という姿)の三人の娘たちに養育させることにした。
エリクトニオスを不死にしようと考えたアテナは、赤ん坊を箱に入れ、決して見てはならない、と言いつけて、ケクロプスの娘たちに託す(赤ん坊を蛇に巻かせて、箱のなかで育てると、不死になるらしい)。箱の開けず、中身も見ずに、どうやって赤ん坊を世話するのか、ちょっと分からないのだが、この種の話の例の漏れず、娘たちは早々に、禁を破って箱のなか覗いてしまう。
で、娘たちは、赤ん坊の蛇に殺されたとも、アテナの怒りを買って発狂し、アクロポリスの崖から投身して死んだともいう。
その後、母神アテナの神殿で育ったエリクトニオスは、成長してアテナイ王となる。
脚が不自由だった彼は、父神ヘファイストス譲りの鍛冶の技術で、四頭立ての二輪戦車を発明した。なので、ぎょしゃ座はこのエリクトニオスなのだという。
画像は、ヨルダーンス「エリクトニオス坊やを見つけるケクロプスの娘たち」。
ヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens, 1593-1678, Flemish)
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ギリシャ神話あれこれ:処女神、母となる

ギリシャ神話では、男神の精液が無駄に放出されることはない。女性(神であれ人間であれ)の胎内に届かなかった精液は大抵、大地に落ちて、大地(つまり大地神ガイア)が身籠ることになる。で、大地から、神の血を継承した何かしらが生まれる。
こうした内容が、えてして、「あるとき神さまが精をお漏らしになって……」とかなんとかと表現されている。こんな表現、小さな女の子にはなかなか分かんないよ! ……で、私にも分からなかった時期があった。
さて、鍛冶神ヘファイストスは美神アフロディテの夫。なのだが、アフロディテには軍神アレスという逞しい愛人がいる。ので、醜く跛のヘファイストスは妻から相手にされない。
あるとき、知恵と戦争の女神アテナが、武具をあつらえにヘファイストスの鍛冶場を訪れたところ、ヘファイストスはつい、むらむらと欲情してしまう。
欲情したら早急な行動に出るのがギリシャの神さま。ヘファイストスもまた、アテナに迫って犯そうとする。永遠の処女神、しかも軍神アレスも敵わないほどの武芸の達人であるアテナに向かって、この行動は、無鉄砲すぎる。
案の定、アテナは拒んで、さっさと逃げ出す。それでもヘファイストスは、男神に恥じぬ不屈の執着ぶりで、不自由な足を引き引き追いかける。で、アテナに抱きついた途端、その精液がアテナの腿を濡らしたのだった。
To be continued...
画像は、ボルドーネ「ヘパイストスを拒絶するアテナ」。
パリス・ボルドーネ(Paris Bordone, 1500-1571, Italian)
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ギリシャ神話あれこれ:クリュティエとレウコトエ(続々)

厳格な王はまず驚愕し、次に激怒して、娘の不義密通の罪に対して裁きを下す。レウコトエの弁解にも哀願にも耳も貸さずに、生きたまま砂に埋めてしまった。
すべてを眼にする太陽神ヘリオスのことだから、もちろん、この父王の無情な所業も眼にしたに違いない。太陽の運行という務めとどう折り合いをつけたのかは分からないが、とにかくヘリオスはレウコトエの危機に急行し、自らの光で地面に穴を開けて助け出す。が、レウコトエはすでに息絶えていた。
悲嘆に沈むヘリオスが、レウコトエの亡骸に神酒ネクタルを注ぐと、彼女の身体は乳香の木に姿を変えたという。
一方、嫉妬の激情に駆られるままにレウコトエを破滅させたクリュティエだったが、彼女の所業もやはり、すべてを眼にするヘリオスの知るところとなる。
もうこうなっては、一度失った愛を取り戻すことなんてできない。ヘリオスは永久にクリュティエを振り向かなかった。
それでもなおクリュティエはヘリオスを愛し続ける。力なく大地に立ち、ヘリオスが天空を翔ける姿を、ひたすらに見つめ続ける。9日間、ただ空を仰いで、口にするものは雨露と、自分の流す涙ばかり。太陽の行く先を追ううちに、いつしか足は地に根づき、ヒマワリ(あるいはヘリオトロープ)に姿を変えた。
花になってもやはり、クリュティエは太陽を追って、その行方を見つめ続けているという。
画像は、F.レイトン「クリュティエ」。
フレデリック・レイトン(Frederic Leighton, 1830-1896, British)
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