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ギリシャ神話あれこれ:タンタロスの飢渇

 
 ギリシャ神話では、神々を憤らせる罪を犯した人間どもが、冥界の底よりも下方に潜む奈落タルタロスにつながれ、永遠の罰を受けている。子供の頃、私が一番重いと思った罪は、タンタロスの犯した罪だった。

 タンタロスは小アジア、リュディアの王。骨肉の争いを繰り返すミュケナイ王家の家祖で、トロイア遠征におけるギリシア軍の総大将アガメムノンも、彼の家系。

 タンタロスはゼウスの隠し子だともいい、とにかく神を父に持つ。権力の象徴である、人間世界を統べる王錫をゼウスから与えられ、とかく神々から贔屓にされていた。
 神々の饗宴に招かれることもたびたび。饗宴では、神々の神酒ネクタルや神饌アンブロシアの飲食を許されていた。これらをこっそり人間界に持ち出して、神が人間に振るまうごとく、周囲に振るまって、己の権勢を増長させていたともいう。
 こんな神々の食べ物を食べていれば、不死になってしまう。タンタロスも不死の肉体を得、のちにそれが仇となる。
 
 あるときタンタロスは、今度は神々を地上の宮殿に招いてもてなすことにする。神々の寵遇から慢心していたタンタロスは、何を考えたのか、息子のペロプスを殺してその肉を切り刻み、煮込んだものを、神々の食卓に供する。
 神を試してはならない。欺いてもならない。神々は顔をしかめて、料理には手をつけなかった。ただ一神、娘ペルセフォネを失って失意の渦中にあったデメテルだけが、放心のまま、つい肉を一口飲み下してしまう。

 もちろん神々はタンタロスの不敬を憤り、彼を冥界の最奥底タルタロスへと放り込む。彼はここで永劫の、ユニークな罰を受けている。
 彼は沼のなかに顎まで侵かり、その頭上にはたわわに実を結んだ果樹が枝を乗れ下げている。が、彼が実をもぎ取ろうとすると、たちまち枝は上がり、水を飲もうとすると水が引いてゆく。こうして彼は不死ゆえに、永遠の飢えと渇きに苛まれ続ける。
 ……まあ、タルタロスに送られた罪人は、不死でなくても、永劫に苦しまなくてはならないのだけれど。

 さて。神々は、殺されたペロプスのバラバラにされた身体を集めてつなぎ合わせ、生き返らせてやる。デメテルがうっかり食べてしまった左肩の肉の部分も、象牙(あるいは金)で補い足して。
 こうして甦った王子ペロプスは、生前(?)よりもますます美しい少年となり、神々に愛されたという。

 画像は、アッセレート「タンタロス」。
  ジョアッキーノ・アッセレート(Gioacchino Assereto, 1600-1649, Italian)

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