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ギリシャ神話あれこれ:クリュティエとレウコトエ(続)

 
 美と愛の女神であるアフロディテは、本領発揮、ヘリオスの胸に救いがたい恋の炎を吹き込む。相手は、ペルシア王オルカモスの娘である絶世の美女レウコトエ。
 ある日、いつものように炎の戦車で天空を駆けていたヘリオスは、ふと、地上に美しいレウコトエの姿を見かけて、一目で恋の虜になってしまう。もう、考えるのはレウコトエのことばかり。彼女の姿を見たいばかりに、東の空に早めに昇り、彼女の姿に見とれて西の空にいつまでも沈まない。

 あるときとうとう、矢も楯もたまらずに、日没早々、レウコトエの館へと赴いた。母である王妃エウリュノメに姿を変えてレウコトエに近づくと、たちまち正体を明かして熱烈に求愛する。
 こんなふうに神さまに無理やり迫られては、人間の女性は何が何やら状態。自分でもよく分からないうちに、気がついたら受け入れていた、という感じなんだろう。

 さて、太陽神ヘリオスというのは、結構浮気な男神で、突如レウコトエに夢中になったときにも、すでにクリュティエという愛人がいた。クリュティエは極洋神オケアノスの娘である、オケアニスと呼ばれる水のニンフの一人。
 で、どこで聞きつけたのか、ヘリオスが王女レウコトエにメロメロの首ったけだと知ったクリュティエは、身を焼くような激しい嫉妬に狂わんばかり。愛人の愛を奪ったレウコトエを傷つけてやりたい一心で、父王に、あることないこと誇張して、娘の密通について中傷まがいに告げ口する。

 To be continued...

 画像は、ワッツ「クリュティエ」。
  ジョージ・ フレデリック・ワッツ(George Frederic Watts, 1817-1904, British)

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ギリシャ神話あれこれ:クリュティエとレウコトエ

 
 ギリシャ神話の神さまというのは、オリュンポスの最上級神から、ニンフのような下級神に到るまで、概ね、かなり嫉妬深い。嫉妬は身を滅ぼすというが、自己愛的な神さまたちは、自分を滅ぼすような行為には出ない。大抵は嫉妬の矛先を、相手ないしそのまた相手に向けて、情け容赦なく攻撃する。相手ないし相手の相手が、見るに忍びないほど痛々しく惨めなさまになったのを見届けて、ようやく自尊心を保って引き退がる。

 受ける罰は、犯した罪には相当しない。往々にして、身に覚えのない不条理な罰が、唐突に与えられる。因果応報だなんて仏教臭いことだけでは、罰は免れない。
 罰を引き受ける覚悟を常に持った上で、だができるかぎり罰から逃れるために、身につけなければならないものは、ひとえに強運だ!
 ……とまあ、子供の頃、私が最も知りたかったことの一つが、「強運の上達法」だった。

 さて、地上をあまねく光で照らし、明るみに出す太陽のもとでは、あらゆる事象は太陽神ヘリオスの知るところとなる。公明正大なヘリオスは、それをわざわざ告げ知らせる。で、美神アフロディテが軍神アレスと密通に及んでいることを、アフロディテの夫、鍛冶神ヘファイストスに密告したのも、このヘリオスだった。
 このことを根に持っていたアフロディテは、ヘリオスに復讐することにする。

 To be continued...

 画像は、L.W.ホーキンス「クリュティエ」。
  ルイス・ウェルデン・ホーキンス( Louis Welden Hawkins, 1849-1910, French)

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ギリシャ神話あれこれ:パエトンの墜落(続)

 
 が、いつもとは御者が違うと気づいた馬たちは勝手に走り出し(あるいは、自分を馬鹿にした友人たちを地上に見つけたパエトンが、馬車を見せつけてやろうと地上に近づいたともいう)、戦車はたちまち軌道を外れて暴走し、パエトンは手綱を取り落としてしまう。
 
 炎の戦車は上へ下へと天空を狂奔する。あっという間に野も森も山も燃え上がり、山頂の雪は解けて、湖も川も蒸発する。
 都市も焼かれ、火を逃れたエチオピアの民族の肌は黒く焦げ、リビュアは砂漠へと変わる。地上はことごとく火炎に包まれて火の海と化し、極洋オケアノスまでもが剥き出しとなる。天には熱気と黒煙がもうもうと立ち込め、天空を支える巨神アトラスも、足の裏は熱いし息は苦しいしで、もうダメポの様相。
 ……まさに全世界が崩壊しようとしていた。
 
 この惨状に、ゼウス神は雨を降らせようとした。が、灼熱の大気のなかで雲は集まらない。やむなくゼウスは、雷霆を放ってパエトンを撃ち殺す。
 パエトンの身体は、長い炎の尾を引いて、地上へと落ちていった。
 (御者などいないも同然に暴走していた天馬たちが、御者が消えれば、おとなしくなったのはなぜだろう? とだけ、子供心に疑問だった)
 
 彼の亡骸はエリダヌス川へと落ち(これがエリダヌス座)、ニンフたちによって葬られた。
 パエトンの5人の姉妹であるヘリアデスたちが、パエトンの死を悼んで泣き続け、やがてその姿はポプラへと変わる。流れ落ちた彼女らの涙は、琥珀となって川底に沈んだという。

 画像は、モロー「パエトン」。
  ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)

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ギリシャ神話あれこれ:パエトンの墜落

 
 その昔、私が初めて知ったギリシャ神話が、太陽神の息子パエトンの物語だった(これがギリシャ神話だとは、そのときは知らなかったのだが)。
 私はもう小学生で、地球が丸いことも、自転することも知っていた。なのに、太陽の戦車を御し、炎となって舞い落ちる少年の話が印象的で、ショックを受けたのだった。なら、夜空の白鳥座が逃げ出すことも、天の川が氾濫することも、あり得えないとは言い切れないような気が、本気でしたものだった。

 少年パエトンは、母クリュメネとつましく暮らしていた。自分の父はエチオピアの王メロプスだと思っていたところが、いつしか、本当の父は太陽神ヘリオスだと知るようになる。が、あるとき、友人のエパポスたちにそれを口外し、一笑に付されてしまう。
 傷ついたパエトンが母に問いただすと、母は、自ら太陽神に尋ねてみるがよい、と答える。

 で、利かん気のパエトンは、東の果てまで赴いて太陽神の神殿を訪ね、ヘリオスに対面する。ヘリオスは大いに喜び、パエトンを我が息子と呼んで、その証拠に何でも望みを叶えてやろう、と誓う。
 パエトンは、では太陽神の炎の戦車に乗せてください、と申し出る。
 
 ヘリオスはパエトンの途方もない望みに驚き呆れる。この太陽神の戦車は、天馬たちが牽いて天空を翔ける四頭立ての馬車で、太陽そのものだった。
 ヘリオスは、この戦車は大神ゼウスにさえ御せないのだから、とパエトンを諭す。が、利かん気のパエトンは強情にねだる。
 とうとうヘリオスも折れた。パエトンは望みどおり炎の戦車へと乗り込むと、父の心配顔などよそに、心を躍らせて天空へと翔け上がる。

 To be continued... 

 画像は、リス「パエトンの墜落」。
  ヨハン・リス(Johann Liss, ca.1590 or 1597-ca.1629, German)

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ギリシャ神話あれこれ:眠れる美男

 
 エリスを建国した、ゼウスの血を引くエンデュミオンは、人間とは思えないほど優れて美しい容姿だった。つまり、世界一の美男。
 エリス王のはずなのだが、羊飼い。彼は山で牧羊し、羊たちと戯れながら眠るのだった。あるとき、山の頂に眠るこの世にも美しい青年を、たった一目見た月の女神セレネは、たちまち恋に落ちてしまう。

 逢瀬を重ねるセレネだったが、別離はつらいし、エンデュミオンが老いていく姿を見たくはない。人間はやがて醜く老い衰えて、不死の女神を残して死んでいく。その悲嘆のさまを、セレネは、妹エオスの数多くの経験を見て知っている。
 で、セレネは愛人エンデュミオンの不老不死を、ゼウスに乞い願う。この願いは叶えられたのだが、人間の不老不死には、どこかしら欠陥がある。エンデュミオンの場合、それは、彼が眠り続けるということだった。

 こうしてエンデュミオンは、生きて永遠に眠り続ける。それは死の眠りに等しいのだが、エンデュミオンは息をしている。肌も温かい。心臓も打っている。いつまでも若く、美しいまま。
 そしてセレネは、夜な夜な、ラトモス山中の洞窟に眠るエンデュミオンを訪れる。月光に照らされて眠る愛人に寄り添い、愛撫し、抱擁する。

 月の女神に愛されて、永遠の眠りを眠る美青年。……絶世の美男アドニスよりも、エンデュミオンのほうがはるかに絵になるのは、月の女神と、夜と月光、そして眠りという一連の神秘性。
 けど、考えてみれば、それだけの話。

 画像は、ポインター「エンデュミオンの夢」。
  エドワード・ジョン・ポインター(Edward John Poynter, 1836-1919, British)

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