ギリシャ神話あれこれ:デメテル

 
 ギリシャ神話の神々ほど数が多く、しかもそれぞれが人間臭いとなると、こちらにも好みが生まれてくる。が、仮にある神を信仰しても、別の神がそれをやっかんで意地悪してくるのだから、あまり露骨には信仰しないほうがよろしい。私は無難なところで、デメテル神が好きだということにしておいた(が、本当は魔女ヘカテが好きだった)。
 
 小学3年生の頃、クラスで花壇にヘチマを植えた。クラスで交代で世話をして、ヘチマが生ったら、籤番号の順に持って帰れると決まった。
 私の引いた籤番号は、あまり前のほうではなかった。で、私は、その頃ギリシャ神話にハマっていたこともあって、豊穣の女神デメテルにお願いすることにした。ヘチマの実がいっぱい、いっぱい生りますように!
 ヘチマは頑張った。30個近く実をつけた。が、私の番号まではまわってこなかった。ヘチマを貰えなかった生徒は、代わりにヘチマの種をいっぱいもらった。
 ……けっ、やっぱりギリシャの神さまはダメだな。以来、私はギリシャの神さまの神性は信じなかった。

 デメテル(ケレス、セレス)は豊穣の女神。農耕や収穫を司る。ゼウスの姉に当たる。
 実りをもたらす穏やかな女神というイメージがあり、実際かなり穏やかではあるのだけれど、ちょっとでも機嫌を損ねると大地が不毛と化し、飢饉が襲うのだから怖ろしい。

 このデメテル神、娘ペルセフォネに対する鍾愛のせいで、微笑ましい母娘の印象があるが、実はほかにも子供がいる。デメテルはあまり恋人に恵まれていない。ペルセフォネを産んだときには、弟ゼウス神に無理やり犯されている。

 のちに冥王ハデスに誘拐されたペルセフォネを探して放浪している際、デメテルは弟ポセイドン神にも激しく言い寄られる。彼女は牝馬になって逃げるが、ポセイドンも牡馬になって追いかけて来る。とうとう二人は馬の姿のまま交わってしまう。結果、デメテルは、黒いたてがみの神馬アリオン(アレイオン)と秘儀の女神デスポイナの双子を産む。が、この双子神については、それ以上よく分からない。
 これには別伝もあって、デメテルに恋したポセイドンが、彼女の気を惹くために、馬という動物を作って彼女に贈る。彼女はこの贈り物をたいそう喜んだそうな。不器用でセンスもいまいちのポセイドンは、この馬を作るまでに、カバやラクダやキリンやロバなど、たくさんの失敗作も作り出したとか。で、二人のあいだに先の双子神が産まれる。
 ……こちらの話のほうがソフトでいいな。

 そんなデメテルの愛した恋人というのは、人間イアシオン。二人は耕された畑の上で結ばれ、二人のあいだには富の神プルトスも産まれる。
 が、デメテルが情熱に負けて人間を愛したのをやっかんだゼウスが、電光を放ってイアシオンを殺してしまう。
 
 望まない恋は不幸そのものだけれど、望んだ恋も不幸な結果に終わっているから、気の毒だ。

 画像は、ワトー「ケレス」。
  ジャン=アントワーヌ・ワトー(Jean-Antoine Watteau, 1684-1721, French)

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