ギリシャ神話あれこれ:アテナ

 
 学生のとき、社会科学研究会(=社研)で取り上げたマルクスの文献に、「ミネルヴァのフクロウ」という表現が出てきた。
 で、院生を含めて、参加者の誰も、その意味はともかくとして、「ミネルヴァのフクロウ」とは何かを知らなかった。あっちょんぶりけ。
 ……マルクス知っててもミネルヴァ知らないんじゃ、偏ってると思われても仕方がない。
 
 ミネルヴァのフクロウというのは、女神ミネルヴァに付き従っているフクロウのこと。この鳥は女神の使いで、伝令し、世界の出来事を女神に告げ知らせもする、知恵の象徴。

 アテナ(ミネルワ、ミネルヴァ)は、知恵と工芸、戦争の女神。英雄と都市の守護神でもある。
 戦争の神としては、同じく軍神アレスがいるが、彼が殺戮のような凶暴な戦闘を司るのに対して、アテナのほうは、知的な戦略・戦術を司る。また、勝利の女神ニケ(ウィクトリア、ヴィクトリア)を随神とし、フクロウを連れている。
 ヘスティア、アルテミスと並ぶ、3処女神の一人でもある。

 ゼウスは、ティタン神族である知恵と思慮の女神メティスを最初の妻とする。が、彼女の産む子が父を殺すだろう、という予言を怖れて、メティスが妊娠すると、彼女を丸呑みにしてしまう。これによってゼウスは、もちろん以前よりも聡明になったのだとか。
 さて、メティスのなかの胎児は、ゼウスの頭にのぼって、そのなかですくすくと成長する。月満ちて、激しい頭痛に襲われたゼウスは(痛いだろーな)、ヘファイストスに斧で頭をカチ割らせる。さすが不死の神は、やることが豪快。と、すでに甲冑を着け、槍と楯とを持った武装した姿で、アテナが誕生する。……まるでマンガ。

 アテナは文武両道、聡明で気丈で強靭。他の神々とは水をあけた優秀さで、ゼウスの信頼と寵愛を集める秘蔵っ娘。父ゼウスとしても、出来が良いのに加えて、自ら頭を痛めて産んだのも手伝って、可愛かったのだろう。
 アテナは戦闘時以外は武装を解き、機織などに勤しむ乙女。彼女の楯はアイギス(イージス)といい、あらゆる邪悪を払うとされる。

 で、「ミネルヴァのフクロウ」というのは、「ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つ」という、ヘーゲルからの引用。歴史の哲学は、歴史そのものよりも遅れて成立する、つまり、哲学とは予見ではなく、経過した事実の認識である、という意味らしい。
 つまりは、優れた哲学や思想は、一つの時代の終焉(=黄昏)時に現われる、という意味。マルクスが引用したのも、こうした含意のためだと思う。

 画像は、クリムト「パラス・アテナ」。
  グスタフ・クリムト(Gustav Klimt, 1862-1918, Austrian)

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