おじいちゃんは、数日前からおなかの調子が変だと感じてはいたのですが、高齢のためか、痛みもなかったので普段と変わらない生活をしていたのです。
ところが、救急車で病院に搬送された時には、盲腸が破裂して癒着し、腹膜炎を併発していたのでした。
そんな入院騒ぎの真っ最中に、おじいちゃんの妹、ミヨおばさんがやってきました。
「あんちゃ(おじいちゃん)がたいへんなごどになった。今ここで、仏様にすがって、有難いお経をあげなければ、あんちゃは助からない!」
そう言うと、入院準備にそれどころではないお母さんとおばあちゃんを仏壇の前に無理やり座らせ、お経を唱え始めました。
チエちゃん家では、それまでまったく知らなかったのですが、ミヨおばさんは新興宗教にかぶれていたのです。
おじいちゃんのために一心不乱に祈っているミヨおばさんを無碍に断わることもできなくて、その場は為すがままに任せてしまったのでした。
幸いおじいちゃんは回復し、退院すると、早速ミヨおばさんがやってき来たのです。
「あんちゃが助かったのは、私が信仰している○○△様のお陰だから、入会しなさい」と言うので、元々信心深いおじいちゃんは入会しました。
さて、それからが大変でした。
毎週、隣町で開催される集会に出かけ、布教活動のたびに会費だ、お布施だ、旅費だとおじいちゃんは相当な出費を強いられたようでした。
それは、一年ほど続いたのでしょうか。
とうとう、おじいちゃんの年金も底をついてしまい、目が覚めたのか、ミヨおばさんを説き伏せ、やっとこ脱会したのだということです。
あの頃、確かにおじいちゃんは仏壇に向かって熱心にお経をあげていたことを覚えているチエちゃんですが、こういった事情はおじいちゃんがすっかりボケてしまってから、お母さんからこっそりと教えられたのでした。
あの時は、本当に大変だったのだと。お金が無くなって、おじいちゃんもどうしようもなくなったんだろうと。